元サッカー日本代表・中澤佑二 ストイックすぎてキング・カズを激怒させた男から学ぶこと
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最近、朝起きると野菜ジュースを飲みながらPS4を起動してサッカーゲーム『ウイニングイレブン』を1試合やる。
どんな暇人だよ……じゃなくて、寝起きのウイイレは脳を適度に目覚めさせてくれるわけだ。
一時期、いい歳こいた大人がゲームなんかやってる場合じゃないと遠ざけていたが、ひと回りして日常にゲームをやる余裕くらいは残しておきたいなと思うようになった。

1日30分の大人のたしなみ。自分は主に野球のことを書くライターだが、会社員時代はサッカー関連の仕事をしていた。だから、いまだにワールドカップイヤーになると心がざわつく。今はDAZNとウイイレで予習しつつ、6月のロシアW杯本番を待つ日々だ。
というわけで、今回はサッカー選手の著書から人生のサバイバル術を学んでみよう。
元サッカー日本代表・中澤佑二 ストイックすぎてキング・カズを激怒させた男から学ぶこと
画像出典:Amazon.co.jp「下手くそ


自他ともに認める「飲み会に参加しない男」


紹介するのは40歳にして、横浜F・マリノスのキャプテンを務める中澤佑二。間違いなく、今のJリーグで最も世間的に名前を知られたDFの一人だと思う。
日本代表歴代4位の110試合出場を誇り、サッカーバブルと言われていた2000年代前半から代表の中心として活躍。その187cmの長身とボンバーヘッドと呼ばれる独特の長髪で人気者となった。6度のJリーグベストイレブン受賞、フィールドプレイヤー歴代最長となる連続157試合フル出場(昨季終了時)の鉄人だ。恐らく、最近のサッカーを見ない人でもその顔は知っているだろう。

中澤といえば、尋常じゃないストイックさで知られている。
自他ともに認める「飲み会に参加しない男」。トップコンディションを維持するには楽しく酒なんか飲んでる時間はない。自著『下手くそ』(ダイヤモンド社)には「誤解を恐れず言うが、僕はクラブの仲間もある意味で“敵”だと思っている」とまで書いている。
11人の先発メンバーに入る為には仲間であろうが、親友であろうが心を鬼にして蹴落としていく。それがプロだ。仲間同士でベタベタな関係を築いてしまっては上には行けない。
「孤独な戦いが耐え難いという人もいるかもしれないが、夢をつかむには、そのような覚悟が必要なのである」と断言する中澤キャプテン。なぜここまで……と思ってしまうが、その理由は中澤が送ってきたサッカー人生にあった。


プロを目指してストイックに自分を追い込んだ学生時代


サッカーを始めたのは小学6年生で、この時点ですでに遅れを取っている。中学3年のときにJリーグ開幕。将来の目標がクリアになった中澤少年はサッカーにすべてを捧げ、炭酸飲料を一切やめて毎日2リットルの牛乳を飲み続ける。自分はサッカーが下手くそだから、ストイックに徹底的に追い込んでやるしかない。いまだに風呂上がりのペプシがやめられない俺はこのエピソードだけで土下座しそうだ。


三郷工業技術高時代は練習中に笑顔を見せる部員が許せず、自身がキャプテンになると1日7時間の練習をチームメイトにも求めた。結果、後輩の半数は「中澤先輩にはついていけません」と退部してしまう。まるで漫画『スラムダンク』に登場する湘北バスケ部主将のゴリこと赤木を彷彿とさせるエピソードだ。
適度にスポーツを楽しみたい部員とその道のプロを目指す中澤とのギャップ。しかも全国大会出場の道も遠い現実に加え、お前がプロになんかなれるわけがないという否定的な反応の数々。さらに「諦めろ、諦めたらラクになれるぞ」的な周囲の誘惑。それでも、中澤は折れなかった。

高校卒業後にブラジルへ飛ぶのである。そして地球の裏側で、命を削り合うような激しさでプロ契約を目指すブラジルの選手たちの間で中澤は揉まれていく。フレンドリーな雰囲気は皆無。日本人がいったい何をしに来たんだと言わんばかりに、人生を懸けてボールを追い続ける同僚たちの姿に己の甘さを痛感する。このままじゃダメだ。



ガチ過ぎてキング・カズを怒らせる


帰国後、ヴェルディ川崎(現、東京ヴェルディ)の練習生として埼玉県の自宅から電車で片道2時間かけてグラウンドに通うようになると、数少ないアピールチャンスのトップチームとの紅白戦でスーパースター三浦知良を削りまくる。そんながむしゃらにマークする無名のデカい若者にエースは「お前、ふざんけんじゃねえよ!」なんつってキレてしまう。金欠で水道水を凍らせたペットボトルを持ち歩いていた練習生が、憧れのキング・カズを激怒させたのである。まさに中澤のガチさが分かるエピソードだろう。

この直後、187cmの長身とエアバトルの強さを買われてプロ契約を勝ち取ると21歳で99年Jリーグ新人王に輝き、トルシエ監督率いるシドニー五輪U-23代表にも招集される。そこからの活躍はご存知の通りだ。ちなみに数年後に京都パープルサンガ時代のカズと対戦した際に、「よろしくな!」と気まずさを引きずることなく試合前の挨拶をしてもらい、元練習生の日本代表DFは天にも昇る気持ちだったという。
もちろん中澤の死んでも馴れ合わない哲学がすべて正しいとは思わない。普通の会社でこのテンションで働いたら確実に浮くと思う。けど、仕事でも受験でも、とてつもなく大きな目標を立てたとき、周囲のことなんかに構っている余裕はない。あらゆるものを失おうと、徹底的に自らを追い込まないと夢の実現は不可能だろう。

プロは結果がすべて。
サッカー選手は試合に出続けてナンボ。そのために愚直に全てを捧げてきた男。いわば空気を読まなかったから、誰にも忖度しなかったから、今の鉄人・中澤佑二がある。


【サッカーから学ぶ社会人に役立つ教え】
笑われることより、何もしないことを恐れろ。
(死亡遊戯)


(参考文献)
『下手くそ』(中澤佑二/ダイヤモンド社)
『中澤佑二 不屈』(佐藤岳/文藝春秋)
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