福祉の充実したドイツで増える路上生活者 支援団体が見る問題とは

外の冷え込みが厳しい日、私の住む建物の1階に少しすえた臭いがした。路上生活者が寒さをしのぐために地下の階段下にやって来たのだ。
初めは驚いたが、凍死しかねない気温なので追い出すわけにもいかない。

ドイツでもホームレスは大きな社会問題だ。特に首都ベルリンはこの状況に頭を抱えている。ごく普通の居住棟に路上生活者が暖を求めて入ってくるのは、増える路上生活者と追いつかない支援という現状を反映している。福祉が充実しているはずのドイツに、支援を受けられないホームレスがいるのだろうか。ベルリンで路上生活者を支援する民間団体「モッツ」と「シュトラーセンフェーガー」に話を聞いた。


「仕事をしない」のではなく「仕事ができない」


両団体の活動の中で特によく知られているのは、それぞれが独自に発行する新聞だ。これは日本でも知られている『ビッグイシュー』のようなシステムで、無収入や低収入に苦しむ人が支援団体から日本円にして約50円で新聞を買い取り、それを160円ほどの値段で販売する。その差額が販売員の収入になる。
福祉の充実したドイツで増える路上生活者 支援団体が見る問題とは

実際に新聞販売がホームレス生活の助けになっているか街中の販売員にたずねてみると、「助けになるかと聞かれたら、ないよりはマシ。少しとはいえ収入になる」と販売員は答えてくれた。ただ、新聞販売より安定して収入を得られる方法はないのだろうか。これに対しモッツの担当者は、路上生活と雇用の問題は単純ではないと答える。


「ドイツ全土では、公園の整備や本屋など、ホームレス支援のための職がいろいろ用意されています。しかし家を失った人たちは、そもそも身体的、精神的に健康でない場合が多い。よって仕事の選択肢が非常に限られます。建設現場などの肉体労働に従事すればいいと言う意見を言う人もいますが、それは現実的ではありません」(モッツ担当者)

路上生活を強いられる原因は単なる現金の不足ではない。「お金がない」ことを解決したくてもできない状態に置かれていることが問題なのだ。

この現状に対してモッツやシュトラーセンフェーガーは、路上生活者の生活を立て直す場所として、宿泊所の提供も行っている。この宿泊所は単なる寝床というだけではない。心身ともに弱り、仕事も金銭の当てもなくベルリンにやって来た人が、自分の家に住めることを目標に、住居探しや職探しなど長期的な支援を受けられるように門戸を解放している。


支援にも関わらず増え続ける路上生活者


このような支援はあるが、南ドイツ新聞によれば路上生活者の数は今後も増加すると予想されている。

「私たちの活動は、はっきり言って焼け石に水です。中東からの難民だけでなく、ロシアやブルガリアなど東欧からの貧困層もドイツに流入しています。住宅の数も足りていないし、支援も全く行き届いていません」(モッツ担当者)
福祉の充実したドイツで増える路上生活者 支援団体が見る問題とは

シュトラーセンフェーガーはドイツ都市部で高騰する家賃問題にも原因があると指摘する。

「特にベルリンでは、年々家賃が高くなっており、年金や生活保護を受け取っていても家賃を支払えないケースがあります。
職はあるのに家はないという人もいます。こうしたケースに対する支援がまだ充分ではありません」(シュトラーセンフェーガー担当者)


行き渡らない行政の支援


モッツおよびシュトラーセンフェーガーが共通して口にするのは行政の支援の手薄さだ。モッツの見解は「行政は支援を全くできていない」と厳しい。この「支援」には、モッツのような団体に対する支援も含まれるが、実際のところ支援を受けるためのコストと、受け取れる支援の非効率さから、同団体は行政に頼らずに活動している。

一方でシュトラーセンフェーガーは行政からの支援を受け取ってはいるものの、それだけでは活動費をまかなえないと訴える。

「現状はなんとかやりくりしている状態です。行政からの支援が増えれば、宿泊所にもっと多くのソーシャルワーカーを配置し、ホームレスの人を適切にケアできるのですが……」(シュトラーセンフェーガー担当者)

行政も路上生活者の具体的な数の調査を決めるなど、支援をより一層行き渡らせる政策は取り始めている。シュトラーセンフェーガーも「ここ数年でホームレス問題に対する意識は確実に高まってきている」との認識だ。

問題を認識し理解することが解決への一歩となり、よりより解決へ向かうのか。ドイツのホームレス問題はまだ道半ばだ。
(田中史一)
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