ヤンマガ副編集長に聞く!漫画家が編集者を逆指名「DAYSNEO」誕生の裏側
講談社『DAYSNEO』

講談社が漫画投稿サイト『DAYSNEO』を4月2日に正式オープンさせた。こちらは、漫画家デビューを目指すクリエイターと、講談社の漫画編集部7部署100人を超える編集者をマッチングさせるためのものだ。
『ヤングマガジン』編集部の副編集長である鈴木綾一さんに、『DAYSNEO』が生まれた裏側、そして、漫画業界に対して感じている課題について聞いた。

正式オープンまでに70件以上のマッチング成立


『DAYSNEO』では、3月16日のβ版オープンから正式オープンまでの約2週間で、すでにマッチング成立数が70を突破したそう(公式サイトより)。従来の持ち込み制度では、丁寧なやり取りができる一方、そのとき対応した担当者の趣味嗜好によって才能を取りこぼしてしまう危険性はゼロではなかった。鈴木さんは、「1人の編集者との相性が悪かったせいで、編集者全体に不信感を抱いてしまう漫画家や、“編集不要論”を説く声まで散見されるようになりました」と語る。

「そういった不幸なマッチングを少しでも減らせるように、100人以上の編集者が作品を見て担当を希望して、漫画家はその中から逆指名する“マッチング型”を考案しました。ひとつの雑誌にもいろんな個性があり、編集者1人1人の総体として雑誌が成り立っていることを知っていただきたかったんです。『DAYSNEO』は、拡大すればするほど、その目的を達成できるシステムとして設計しました」

また、鈴木さんいわく、近年は媒体ごとの掲載作品の傾向に差がなくなってきたとのこと。さらに出版社以外の業種や海外プラットフォームの進出で媒体数が多くなった結果、「デビューすること自体は比較的容易になった」そうだ。「しかし」、と続ける。

「ヒットする作品の数は多くなっていません。そのため、デビューしたけれど、次の連載先を探している層の漫画家が増えた印象です。そういった方々にとっても新天地を探す意図で、『DAYSNEO』を利用していただければと考えています」

ところで、イラストコミュニケーションサービス「pixiv(ピクシブ)」が開設されたのが2007年。そう考えると、漫画家が作品を投稿して、編集者がチェックするというサービスはもう少し早く誕生していてもおかしくない気はするが……。
しかし、鈴木さんによると、近年の漫画業界の変化が『DAYSNEO』が生まれる土壌となったらしい。

「10年前は、各雑誌の媒体力(ブランド)が大きく、部署同士、出版社同士の競争が良い方向に働いていました。ところが、ネットやSNSの普及と、各媒体の色があいまいになってきたことにより、“どこで連載するか”よりも“何を連載するか”が重視されるようになってきた気がします。社内のセクショナリズムに拘泥せず、旧習にとらわれず、商業誌での連載を目指す漫画家さんにとって、より有益なサービスを提供したいと思いました」

他の出版社はライバルではない?


講談社は今年2月、漫画雑誌6誌の読み放題サービス『コミックDAYS』も立ち上げた。海賊版漫画サイトが大きな問題になっている中でのリリースだっただけに、サービス開始には称賛の声が多く寄せられた。『コミックDAYS』、『DAYSNEO』と、斬新なサービスを続けてリリースしている講談社。鈴木さんは、「社としてというより、あらゆる変化から逃げ切れない世代として、旧来の殻に閉じこもることなく、積極的に手を打っていかねば、という感覚があります」と意気込む。

そのためにも、“漫画人口を増やし、漫画家さんにお金が還元されるシステム”を、時代の変化に応じつつ維持することによって、漫画家になりたい人が多くなる……という好循環を生み出していくことを目指しているそう。

「出版というのは、金額ベースでみれば非常に小さな業界です。要は文化を守っていくためにあります。文化を守っていくために、クリエイターの利益とやる気の最大化を図っていくべきですし、そのために尽力をしていきたいです。出版業界の危機感を過剰に煽ったりする論調を拝見することがありますが、業界の中の人間として、そういった危機感や論調をアイディアの源泉として、やれることと、やるべきことを粛々とやります」

海賊版サイトへの対策として、出版社同士が連携した読み放題サービスを公式にリリースすることを提案する声はネット上で多い。
鈴木さんは、「漫画家さんに今まで以上の利益とチャンスが確保できるのであれば、“出版社を問わない読み放題サービス”もいいと思います。ただし海賊版サイトの問題に対処する方法はそれだけではないと思うので、いろいろなアプローチを模索して対処していきたいと思っています」と慎重な姿勢を示す。とはいえ、出版社の垣根を超える新しい取り組みには前向きらしい。

「映像、音楽、ゲームなどとのスマホ画面の取りあい、可処分所得よりも可処分時間の取り合いに対抗するためには、出版社を横断しての取り組みには、前向きな考えを持つべきだと思います(実際に大なり小なりそういった活動は行っています)。ライバルなんて思っていません。大ヒット映画が出れば映画館に足を運ぶ人が増えるように、大ヒット漫画がたくさん出れば、書店へ足を運ぶ人が増えるわけですから」

(原田イチボ@HEW)
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