全裸でパリの美術館を鑑賞するイベントに161人来場 参加登録は瞬く間に定員

全裸で美術館を楽しみたい。パリで一風変わった催しが開かれた。
主催したのは現代美術を展示するパレ・ド・トーキョー。今月5日、美術館の一般開場前の時間を使い、ナチュリスト(自然との調和を求め、裸で生活することを主義とする人)向けの2時間にわたるガイド付きツアーが行われた。Facebookでの事前告知には約3万人が関心を示し、当日はその中から161人が来場。参加者は服を脱ぎ去り、館内に展示された美術品を楽しんだ。

近年パリでは全裸イベントが拡大傾向にある。市営プールで定期的に行われるナチュリスト向けの遊泳会のほかに、昨夏はパリ市によって市内東部にある公園「バンセンヌの森」の一部が期間限定でナチュリストに解放された。
昨年11月にはパリ市内にナチュリスト向けのレストラン「オーナチュレル」もオープンした。パレ・ド・トーキョーでのイベントは、パリで次第に盛り上がってきたナチュリスムへの関心が、さらに一歩、具現化した形だ。

全裸イベントは美術館からのオファー


全裸で現代美術を楽しむというアイデアはどこから出たのだろうか。同イベントをパレ・ド・トーキョーと共に運営したパリ・ナチュリスト協会の会長ローランス・ルフトさんは筆者の質問に対し「美術館側からの提案だった」と答えた。「昨年12月に美術館から私たちの協会に申し出があった。今や全世界がパレ・ド・トーキョーのことを話題にしており、美術館も喜んでいるはずだ」とルフトさんは言う。

パリ・ナチュリスト協会によれば、今回の主な参加登録者は20代から30代の女性。
イベント用に立ち上げたオンライン参加登録は瞬く間に定員に達した。「まるでマドンナのコンサート・チケットみたいだった」とルフトさん。パリで全裸になれる機会の拡大とともに、パリ・ナチュリスト協会の会員も増加しているという。

「昨夏のバンセンヌの森でのナチュリストイベントがきっかけになり、入会者が増えた。スポーツや文化など、ナチュリスト向けの多様なイベントを提供できることは、とても大切なこと」とルフトさんは近年のパリにおけるナチュリスムの広がりを歓迎する。
全裸でパリの美術館を鑑賞するイベントに161人来場 参加登録は瞬く間に定員
イベント開始前に現地メディアから取材を受けるパリ・ナチュリスト協会のメンバー


着ても着なくても共存できる社会へ


全裸で美術館賞をするという行為は、普段服を着る人にとって、既存のルールの外にあることのように思うかもしれない。しかし「ナチュリスムとは何かを壊すものではない」とパリ・ナチュリスト協会で広報を務めるジュリアン・クローデ・ペネグリさんは言う。


「ナチュリスムの価値とは他者を尊重し、自然を受け入れること。昨夏のバンセンヌの森では、公園内の一部がナチュリストに開かれた。服を着ている人と着ていない人、それぞれが場所を共有できた」とナチュリスムという考え方がパリでうまく作用しているとクローデ・ペネグリさんは語る。ルフトさんも「私たちは普段、美術館に行くし、美術や歴史に対して情熱も持っている。そしてナチュリストでもある。それなら、いっそ二つを合わせればいい」と特別なことではないと訴える。



日本の甲冑を鑑賞して「服を着ていない」ことを強く意識


ナチュリストにとって裸でいるということは、普段服を着ている人が服を着るように普通のこと。それが美術館であってもいつもと変わらない。ただしルフトさんによれば、今回は2つの展示においてのみ「服を着ていない」ことを強く意識することがあった。一つは「戦争と暴力」をテーマにした作品。もう一つが「Daimyo」展(現在パリ市内のギメ美術館と同時開催されている日本の甲冑展示)だ。

「ナチュリスムとは平和と尊重を体現するもの。
つまり戦争や暴力とは相反する。『Daimyo』展は部屋自体が服をテーマにしたもの。そして鎧は身を守るもの。ところが私たちナチュリストは裸であり、何も保護するものを持たない。つまり甲冑とも正反対だ。美術館で服を脱いだからこそ知り得た感覚があった」とルフトさんは体験を語る。

全裸でパリの美術館を鑑賞するイベントに161人来場 参加登録は瞬く間に定員

今後、裸での美術館賞イベントは広がって行くのだろうか。「ナチュリスムと芸術との間に限界があるとは感じていない。ロダン美術館に展示されている彫刻作品は全裸だ」とルフトさん。ルフトさん個人の希望としては、今後ルーブル美術館かオルセー美術館、またはカルナバレ美術館(古代から現代までのパリの歴史を展示)を服を着ずに鑑賞したいという。

ますます広がる裸の機会。パリで服を脱ぎ捨てられる場所が確実に増えている。
(加藤亨延)