「マヒシュマティの民」が待ち望んだ映画『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』の公開が、6月1日より新宿ピカデリー他で開始された。他にも公式LINEスタンプの発売、劇中歌5曲のカラオケ配信、『ユリイカ』6月号で特集が組まれるなど、『バーフバリ 王の凱旋』が日本公開されたのは昨年末とかなりのロングラン上映であるにもかかわらず、その盛り上がりは増していくばかりだ。


口コミで人気を獲得した作品であるだけに『バーフバリ』シリーズのファンの熱量は高い。2回、3回と作品を見た人も少なくないようで、Twitter上では、「毎週見に行っている」というツワモノも少なくない。絶叫上映では、思い思いのコスプレをしたファンたちが大勢集まる。

しかし、アクティブなファンが集まるコンテンツというものは、「公式」の動きひとつで場が一気に“冷めて”しまう危険性もある。『バーフバリ』は、なぜこれほどのヒットを飛ばすことができたのか――。宣伝隊長を担う江戸木純さんに聞いた。

映画「バーフバリ」の熱狂を支える舞台裏 ファンを“誘導しない”公式の距離感
『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』(C)ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.


動員10万人、興収1億5000万円突破


江戸木さんは、「『バーフバリ 王の凱旋』の面白さと娯楽映画としての完成度は、まさに10年に1本級であり、見てもらえれば、あとは口コミが広がることは確実だと思っていました」と熱を込めて語る。「この映画が成功した最大の要因は、作品の持つその圧倒な力です。宣伝はあくまでもその補助に過ぎません」と続けたが、とはいえ、ここまでの盛り上がりを見せるとは関係者の誰も想像していなかったそう。現在『バーフバリ 王の凱旋』は、約5カ月に及ぶロングランとなり、動員は10万人、興行収入は1億5000万円を突破している。

宣伝初期から絶叫上映は意識しており、そこで打ち出したキャッチコピーが「王を称えよ!」だった。また、『バーフバリ 王の凱旋』の日本公開がスタートしたのは、昨年12月29日。お正月ムービーとしての需要を見込んで、「“吉祥開運”ムービー」と銘打ち、ラッキーカラーを多用した派手なポスターで迎春感を演出した。
しかし、「観客の皆さんには積極的に映画に参加する気持ちで見ていただきたいと思っていましたが、とくに公式から何かを誘導するということはしていません」とのこと。

だからこそ、スタッフも意外に感じる出来事が多々あった。まず、絶叫上映などのイベントでは、女性ファンの多さに驚いたそう。また、上映が長期にわたってリピーターも増えていく中で、悪役や脇役の人気も上がっていった。

「敵役のバラーラデーヴァを積極的に応援するファンも多く、人の良さゆえに悲劇的な最期を迎える脇役のクマラ・ヴァルマもマニアックな人気を誇っています」

映画「バーフバリ」の熱狂を支える舞台裏 ファンを“誘導しない”公式の距離感
『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』(C)ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.


ファンの応援で実現した完全版公開


SNS上のファンの声は、頻繁にチェックしているとのこと。しかし、公開4、5週目に入ったあたりから関連ツイート数が激増したため、すべてをチェックしきれなくなってきた。江戸木さんは、「まさに嬉しい悲鳴です」と語る。『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』の公開は、まさにファンの熱い要望に応える形で、権利元との交渉を経て公開が実現した。

「その宣伝のために4月下旬には監督のS.S.ラージャマウリ監督の来日も実現。監督の舞台挨拶つき絶叫上映も大きな盛り上がりを見せました。また、公開にあわせた各種オフィシャル・グッズの発売、すでに大人気のLINEスタンプ、さらにJOYSOUNDによるカラオケ配信など、どれもファンの応援がなければ実現できなかったものばかりです」

映画「バーフバリ」の熱狂を支える舞台裏 ファンを“誘導しない”公式の距離感
公式LINEスタンプも好評

映画「バーフバリ」の熱狂を支える舞台裏 ファンを“誘導しない”公式の距離感
JOYSOUNDで劇中歌のカラオケ配信も行われている


しかし、『バーフバリ』の進撃はまだ止まらない。江戸木さんは、「“バーフバリ・ワールド”は『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』の公開がクライマックスではありません」と明言する。

「今後も次々とアッと驚く情報が解禁されていきます。
<完全版>の公開に際しては、『なかなかチケットが取れない』という声も多かった絶叫上映の回数も増やして、多くの方々にあの興奮と感動を味わっていただける機会を作ります。さらにアニメーション・シリーズ『バーフバリ 失われた伝説』のDVD発売、シリーズの前日譚となる『THE RISE OF SIVAGAMI』の撮影開始など、これからも“バーフバリ”とその世界はさらに大きく広がっていきます。ご期待ください」

公式がファンの盛り上がりを誘導するのではなく、ファンの要望を適切にキャッチして応える……というのが、『バーフバリ』宣伝スタッフたちの姿勢らしい。これは多くのファンがネット上で、冗談めかして「『バーフバリ』は福利厚生が行き届いている」と言っているのも納得。ファンと公式との理想的な信頼関係が、『バーフバリ』にはあった。

『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』


…昨年末より上映中の『バーフバリ 王の凱旋』141分インターナショナル版が好評を博す中、ファンの熱い要望を受けて、本国インドで公開された167分のオリジナル・テルグ語完全版の日本公開が決定。はるか遠い昔、インドに栄えたマヒシュマティ王国。国王に指名されたアマレンドラ・バーフバリは、クンタラ王国の姫デーヴァセーナと恋に落ちる。だが、王位継承争いに敗れた従兄弟のバラーラデーヴァは邪悪な策略で王の座を奪い取り、さらにバーフバリと生まれたばかりのその息子の命をも奪おうとする。父バーフバリはなぜ殺されたのか? 母デーヴァセーナはなぜ25年もの間、鎖に繋がれていたのか? 自らが伝説の王バーフバリの子であることを知った若き勇者シヴドゥは、マヘンドラ・バーフバリとして、暴君バラーラデーヴァに戦いを挑む!

(原田イチボ@HEW)
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