
2017年12月31日に閉園を迎えたスペースワールド
2017年12月31日をもって閉園してしまったスペースワールド。メディアに注目されたスペースワールドの特徴と閉園の理由について探っていきたい。
そもそも「スペースワールド」とは
スペースワールドは、福岡県北九州市にあった宇宙がテーマの遊園地のこと。1990年、新日鐵八幡製鉄所の一部を使って建てられた。

宇宙をテーマにした遊園地というだけあって、園内には宇宙を感じさせるさまざまな仕掛けが設置されていた。中でも1番目を引いたのが、スペースシャトルの実物大模型だ。高さ60メートルの巨大な模型で、ディスカバリー号を参考にして作られたという。スペースワールドの閉園にともない、同模型を10億円で譲るという内容がクラウドファンディングサイトで話題になった。
ほかにも、園内には「エイリアン注意」という看板や宇宙人のような模型が至るところに設置されており、ウィットにとんだ遊園地として知られていた。
もちろん、通常の遊園地としての遊具も充実しており、適度な刺激を感じるジェットコースターもいくつか設置されていた。掛け声でスピードが変わるヴィーナスGP、傾斜がすごいオリジナルソングを聞きながら楽しめるタイタンMAX、宇宙をイメージしたブラックホールスクランブルなどだ。どれもほかの遊園地とは一味違った楽しみ方ができるのが売りだった。
さらに園内には、癒しキャラのカピバラと触れ合えるような施設も設置されていた。
スペースワールド閉園の理由とは
開園当時は、新日鉄住金や自治体などが出資して営業していたスペースワールド。しかし、1997年あたりをピークに利用客が減少し、だんだんと経営が怪しくなってくる。そしてとうとう2005年、子会社での運営をあきらめ、運営会社は民事再生法を申請した。民事再生法とは、利害関係者との調整を行い事業の再建を図ること。当時の負債額は350億円にまで膨らんでいたという。
同年の2005年7月には、営業権を加森観光に譲り、新たなスペースワールドとして再スタートした。加森観光は、さまざまなリゾート施設を甦らせてきた実力のある企業であり、スペースワールドの再生が大きく期待されていた。実際に2009年度からはスペースワールドの営業を黒字に転換させ、2016年3月期の決算では過去最高額の利益を生み出している。

しかしそんな順調な再生を見せていたスペースワールドが2017年12月31日をもって閉園することになる。順調な利益の増加をみせていたように、スペースワールド閉園の理由は経営難によるものではなかった。新日鉄住金との土地をめぐる交渉で条件の合意に達しなかったという。
新日鉄住金が営業権を加森観光に譲渡した際、土地の契約についても軌道に乗るまで加森観光にとってよい条件で結んでいたと考えられる。
スペースワールド閉園後の跡地は何になる?
閉園してしまったスペースワールド。跡地は今後どのような使われ方をしていくのだろうか。
スペースワールド駐車場跡地ではサーカスが開催
2018年5月、スペースワールドの駐車場跡地に大きなテントが張られた。2018年5月19日から7月1日にかけて、ポップサーカスの北九州市公演が開催されるということで特設会場が設置されたためだ。ポップサーカスは、世界15カ国のトップアーティストを集めたパフォーマンス集団。日本企業が興行するサーカス2つのうちの1つだ。
北九州市でのポップサーカスの公演は実に14年ぶりのこと。北九州市制55周年を記念して開催された。フープやホイールなど、極限まで鍛えられたアーティストたちによる圧巻のパフォーマンスを一目見ようと観客が押し寄せた。
イオンモールが新業態の商業施設を2021年にオープン
スペースワールドの閉園には惜しむ声も多くあった。実際、スペースワールドの復活を望む声も多い。しかし、スペースワールドの復活は完全に絶望的なものとなった。スペースワールドの跡地について、所有する日鉄住金とイオンモール株式会社の間で仮の賃貸契約が結ばれたのだ。
実際にスペースワールド跡地では、遊具の撤去作業がはじまっている。遊具の完全な撤去までは1年半を見込んでいるそうだ。なお、遊具撤去後は、2021年オープンを目処にイオンモールは大型商業施設の建設を進めていく構えだ。都市高速やJRなど、立地のよさも今回イオンモール側がスペースワールド跡地を利用したい理由のようだ。
なお、2021年の大型商業施設の建設にあたっては、今までとは違う新業態の商業施設を予定しているという。具体的な部分については未定の部分が多いが、ショッピングや食、エンタメ、そして文化を融合したような商業施設を建設する予定だと発表されている。なお、スペースワールドで使われていた遊具やスペースシャトルの模型などは今後利用することはないようだ。つまり、スペースワールドはすべてクリアにされ、まったく新しい施設が誕生するということになる。スペースワールドのファンだった人にとっては少し悲しいニュースかもしれない。
スペースワールドの歴史
完全になくなることが決定してしまったスペースワールド。遊具などは撤去されるというから、スペースワールド跡地では旧スペースワールドの片鱗さえも感じられなくなる。ここであえて、スペースワールドの歴史を振り返ってみたい。
スペースワールドの有名なアトラクション一覧
・タイタンMAX
スペースワールドの遊具でも目を引く目玉のようなアトラクションだった。とにかくダイナミックで傾斜が激しい。時速115キロメートルで駆け抜ける爽快感と浮遊感が楽しめるアトラクション。さらに、加森観光にバトンタッチ後は、アトラクションを楽しみながら音楽を楽しめるようにサウンドを設置。閉園時には、過去のベスト10から曲を選べるイベントを実施していた。

・ヴィーナスGP
スペースワールドの象徴としてなじみのあったスペースシャトルの模型の周りに設置されたアトラクションで、ひねりあり、回転ありのアクロバティックな動きが特徴。
・スペースアイ
スペースワールドの全貌を一望できた大型観覧車。赤などの太陽をイメージするようなカラフルなカラーに魅力があった。実は、広島県の呉市から移設されたものだという。全長は60メートル。閉園時には、アトラクションのうんちくや歴史を聞きながらスペースアイに乗れる企画が行なわれていた。
・ザターン
ほぼ垂直の上下運動が体験できたジェットコースター。宇宙病予防のためのコースターで、2006年につくられた割と新しめのアトラクションだった。
・アドベンチャークルーズ
スペースワールドらしい宇宙を取り入れたアトラクションで、エイリアンのいる洞窟を進んでいくという内容のウォーターアトラクションだった。ツインマーキュリーという名前で、やや幼児向けの余り怖さのないウォーターアトラクション、ファンファンクルーズが併設されていた。
・ブラックホールスクランブル
真っ暗な状態からスタートするブラックホールや宇宙をイメージさせるアトラクション。クリスマスバージョンやハロウィンバージョンなどが実装されるなど、期間限定のイベントをよく実施していた。
スペースワールドでかつて発生した事故とは?
1997年、旧スペースワールドで来場客がピークを迎えた時代だったが、営業権譲渡前のスペースワールドで来場客が減っていたのには理由がある。ピークの1997年、スペースワールドで事故が発生したためだ。
アトラスタワーという当時スペースワールド内にあったアトラクションで、ワイヤーが切れ、地上から50メートルの地点からゴンドラが落下した。アトラクションの経年劣化が問題だった。スペースワールド営業中の事故で、乗客のうち12人が重軽傷を負う惨事になっている。死亡者こそでなかったものの、以降マイナスイメージがついてまわった。その後、問題となったアトラスタワーはスペースワールドより撤去されている。
また、大きな事故にはならなかったが、2000年代に入ってからもアトラクションの一部で緊急停止するなどのちょっとした事故もあったようだ。
スペースワールドの閉園は土地の問題といわれていたが、こうしたアトラクションの老朽化も1つの原因だったかもしれない。スペースワールドが完成したのは1990年。閉園時は2017年だったので、30年ほど続いたことになる。初期からあるアトラクションについては、どのようにメンテナンスしていくかという課題もあったはずだ。資金的な問題もあるので、全部一新するわけにもいかないし、撤去するのにもお金がかかる。これは、スペースワールドに限らずすべての遊園地について回る問題だが、スペースワールドを新しくするか、それとも手放すかちょうど難しい時期での閉園の判断だったのかもしれない。
松下進がデザインしていたキャラクター
スペースワールドにはキャラクターの存在もあった。キャラクターをデザインしたのは、クリエイターの松下進。ファミ通やオリックス・ブルーウェーブのマスコットキャラのデザインも手掛けたクリエイターだ。少しアメリカンな雰囲気があったスペースワールドのキャラクターは世界観によくマッチしていた。
閉園前の斬新な広告は話題に
スペースワールドが閉園する前、魚を氷漬けにしたリンクなどが批判されるなど話題になることもあった。それ以外にも、閉園前に斬新な広告が話題になったことをご存じだろうか。
スペースワールドのスペースシャトルの模型が宇宙に向けて発射する場面を背景に、スペースワールドの大勢のスタッフが敬礼。「またいつか、別の星で、会いましょう。」というフレーズが乗った広告だ。映画のような雰囲気に、泣けてくるフレーズは当時話題になった。
スペースワールドのウィットにとんだ広告やイベントもこれで終わりかと思うと少し寂しいものだ。
ここまで人々にさまざまな話題を提供してきたスペースワールドも、アトラクションの完全な撤去によってすべて終わってしまう。形としては残らないが、人々の心の中に、スペースワールドという1つの夢は残ることだろう。今後は、スペースワールド跡地を利用して新事業を展開するイオンモールの新規商業施設に期待したい。