パリで人気の電動キックスケーターシェアリング「Lime-S」に乗ってみた

今年6月にパリで始まった新たなシェアリングサービス「Lime-S」が話題だ。米カリフォルニア州に本社があるライム社が、フランスへ持ち込んだ電動キックスケーターである。
スマホのアプリとキックスケーターをGPSで連動させ、街中どこでも借りられて乗り捨てられるステーションフリーの仕組みになっている。

今までパリでは、自転車やスクーター、車までさまざまなシェアリングサービスが登場しているが、Lime-Sの使い心地はどうなのか? 実際に試してみた。
パリで人気の電動キックスケーターシェアリング「Lime-S」に乗ってみた


いつでもどこでも借りられて盗難の心配なし


使い方は簡単だ。まずアプリで車体に付いているQRコードを読み取りロックを外す。初めは自らの足で蹴って車体にスピードを加え、その後は右手にあるアクセルを入れて、電動により速度を上げる。減速したいときは左手にあるブレーキを握る。ライム社によると、約30キロまでの距離を走行でき、最大時速60キロまで出る(充電状態による)。


走る場所は車道か自転車専用レーンを使う。自転車と同じだ。歩道は走れない。乗り捨てるときは道をふさがないように、公共の場所に停める。降りる際は降車場所をアプリ内のカメラで写真に撮り送信。返却が完了する。
使用には運転免許の携帯とヘルメットの着用が必須だ。
パリで人気の電動キックスケーターシェアリング「Lime-S」に乗ってみた
Lime-Sの乗り方(Limeアプリからのスクリーンショット)

料金はアンロックを1回行うごとに1ユーロ(約130円)。1分ごとに0.15ユーロ(約20円)かかる。シェアリングサービスの良いところは、列車やバスと同じくらいの価格で、より自由度の高い交通手段を確保できる点にある。自分の所有物ではないため、盗難の心配もない。

パリは盗難がとても多い。
例えば自転車にきちんと鍵をかけて、さらにガードレールなどにくくりつけていても、盗まれてしまうことがしばしばある。安価な製品でも盗難されるため、高価な車両は怖くて目が届かない場所には駐輪できない。車体そのものが盗まれずとも、サドルだけといったように車体の一部パーツのみが盗まれることもある。シェアリングサービスではその心配がない。

使いたいのに見つからず借りられない


実際の使い心地はどうか。まず乗る前の段階で壁にぶつかった。Lime-Sを見つけられないのだ。
自転車シェアリングに関しては、すでにかなりの数の自転車がパリ市内にまかれていて、いつでもどこでも探せる状態にある。ところがLime-Sは総数が少なく、見つけるまで一苦労だった。
パリで人気の電動キックスケーターシェアリング「Lime-S」に乗ってみた
パリ市内に散らばるキックスケーター(Limeアプリからのスクリーンショット)

GPSで場所を特定してその場所へ向かっても、到着前にすでに誰かに借りられてしまったことが度々あった。5分くらい歩いて地図上で示されているLime-Sが停車されている場所へ行く。いよいよ場所が近いというときに、スマホからLime-Sが消えた。誰かに借りられたのだ。


気を取り直して別のLime-Sまで歩く。GPS上では確実に私が立っているところに印がついているのに、実際はない。見渡しても建物と道路だけで、見落としているわけでもない。もう一度スマホの地図を確認すると、道路から少しだけ位置がずれていた。だれかの敷地内にLime-Sがあるのだ。私有地である建物内の中庭にLime-Sを止めているらしい。


そのため、いつでもどこでも、思い立ったときにLime-Sを使えるわけではない。これなら最初から地下鉄やバスで移動したり、歩いたりした方が目的地までは早く着くこともあるのではないかと感じた。


利便性と公害のバランスをどう取るか


ただし、街中に散らばる台数を増やせば、すべて解決するというわけではない。そこには新たな問題が現れてくる。
パリで人気の電動キックスケーターシェアリング「Lime-S」に乗ってみた

すでにパリでも広がっている同じシステムの自転車シェアリングは、どこでも乗り捨てられるという利点が、しばしばマイナスに働いている。乗り捨てられた自転車が、至るところで歩道をふさぎ、景観を損ね、街の邪魔者として扱われていることがある。それがシェアリングサービスに対する批判につながっている。

台数を増やせば便利になる一方で、都市の新しい公害が現れる。シェアする交通手段が何であれ、どのようにこれらバランスを取っていくのかが、今後さらなるシェアリングサービスの発展には不可欠だ。
(加藤亨延)