「検討大好きさん」「伝書鳩さん」生産性向上を阻害する「7つのあるある」から脱却を目指す損保ジャパン
画像はイメージ

損害保険ジャパン日本興亜は、「小さな本社」を指向し、現場力の向上やボトムアップでの意思決定を重視した働き方改革を推進している。
保険の提案を行う際に本社に条件などを申請するケースがある。
これは損保業界だけではなく、生保業界や銀行業界も含めた金融機関にはよくあることだ。
同社は、大胆にも権限を委譲して現場が意思決定を行うことで、スピーディーな顧客対応を可能にした。
また、金融機関では情報漏洩の観点から困難とされてきたテレワークやシフト勤務、時差Bizにも果敢にチャレンジしている。働き方改革を具現化することに成功した秘訣について、同社の経営企画部企画グループ 特命課長の安部光氏、人事部企画グループ 課長代理の山本祥太氏、業務改革推進部企画グループ 課長代理の岩澤裕美氏に話を聞いた。
「検討大好きさん」「伝書鳩さん」生産性向上を阻害する「7つのあるある」から脱却を目指す損保ジャパン
左から損害保険ジャパン日本興亜の山本祥太氏、安部光氏、岩澤裕美氏


生産性向上や効率的な働き方を阻害する「7つのあるある」とは


――まず御社での働き方改革の概略と理念から
安部光氏(以下 安部) 2015年から本社部門を中心に働き方改革を進め、組織の大括り化、意識行動変革による生産性向上を図り、本社は内向きな仕事を効率化し、その分本社にしかできないことに注力するとともに、本社は現場を支援する仕事に力点を置く「小さな本社」を指向していくこととしました。
その価値観を社員全体で共有し、意識・行動を変えていくため、「小さな本社における働き方」と題したハンドブックを社内向けに製作しました。ハンドブックでは、生産性向上や効率的な働き方の阻害要因として7つの項目を挙げております。

(1)ヒラメさん:現場より本社内の評価を重視
(2)やりっぱなしさん:総括を行わない施策を繰り返す
(3)前例踏襲さん:効率が悪いのに変化やチャレンジが怖い
(4)検討大好きさん:実行に踏み出さず、ずっと検討を続けている
(5)タコツボさん:自部署の仕事が最重要
(6)横並びさん:大人数を集めて検討を推進
(7)伝書鳩さん:「○○さんの発言」というお守りを重視

これは当社の中で、現場や本社問わず起きている「あるある」です。組織が大きくなればなるほど、個人の業務範囲は狭くなり、より専門性が求められます。これがマイナスに作用していないか、視野が狭く、目線が低くなっていないか、ミスを恐れていないかなどを見直すきっかけにしています。
さらに昨年度から「ゼロベースの仕事の棚卸」と「3つの改革」を展開しています。
「ゼロベースの仕事の棚卸」は業務改革推進部で、「3つの改革」は人事部がそれぞれ戦略的に担当しています。
「検討大好きさん」「伝書鳩さん」生産性向上を阻害する「7つのあるある」から脱却を目指す損保ジャパン
損保ジャパンが社内向けに配布している「小さな本社における働き方」


――「ゼロベースの仕事の棚卸」とは、具体的にどのような取組みでしょうか?
岩澤裕美氏(以下、岩澤) 「ゼロベースの仕事の棚卸」は、より付加価値の高い業務にシフトしていくための時間を創出する大切な第一歩と位置付けています。
形骸化したルールや、お客さま目線に立った時に価値を生まない業務の見直しに向けて、本社は改革、現場はカイゼンの実行を行う取組みで、昨年度から開始しました。
本社は各種ルール等の廃止や変更に加え、システム刷新やRPAの活用などにも踏み込み、現場は職場にある独自ルールの見直しなどを中心に取り組んでいます。ただの「棚卸」や仕事の削減だけではなく、創出した時間でどうイノベーティブな仕事を行うか、お客さまへの提案を行うかなど、より付加価値の高い業務へシフトしていくことまでを目指す取組みです。

――昨年から始まった「棚卸」で本社の改革、現場のカイゼンで具体的な見直しがあればお願いします。
岩澤 例えば、現場でお客さまへ保険を提案する際に、本社に申請が必要なケースがあります。申請が通るまで数日間待つこともあり、お客さまに正式に提示するまで、お待たせしてしまうことがありました。これを現場にある程度権限を委譲することで、スピードアップを実現しました。
それ以外にも昨年度は、本社で約190個の棚卸を実施しました。形骸化したルールや、お客さま目線に立った時に価値を生まない業務は、やめたいと考えています。思い切った見直しで、昔に比べると仕事がしやすくなりました。

――「3つの改革」とは具体的にはなにを指しますか?
山本祥太氏(以下、山本) 「3つの改革」は、(1)働き方改革(2)教育改革(3)ダイバーシティ&インクルージョンから構成されます。「変化に対応する俊敏性」「働きがい」「生きがい」を生み、また創造性の発揮・イノベーションにより質を伴った成長を実現します。

また、当社における「働き方改革」は、生産性を高めて時間を創出することで、個人の充実・成長を促し、会社のさらなる生産性向上や質を伴った成長に繋がる、という好循環を作り出す取組みです。
当社では、一人ひとりの「強み」を構築する時間を創出するとともに、多様な人材が「強み」を発揮できる環境を作ることで創造性とイノベーションが生まれる会社を目指しています。

――オリンピックを迎えるなか、東京都が推進している時差Bizの取組みも重要ですね。
山本 2017年度に引き続き、2018年度も7月・8月をワークスタイルイノベーション推進月間として実施し、同時に時差Bizにも参加することで、働き方改革の取組みを推進しました。本社の食堂の一角に社内サテライトオフィス「SOMPOラウンジ」を設置しており、時差Biz期間は「SOMPOラウンジ」を7時からオープンし、数量限定ですが、早朝出社者への軽食の無料提供を行い、シフトワークによる時差通勤を推進しました。
朝シフトを実施している社員からは「満員電車を避けることができるので良い」「頭がすっきりしているので朝の方が集中して生産性の高い仕事ができる」という声もあがっています。

――ほかにはどのような働き方改革がありますか?
山本 テレワークや集中タイムの活用に向けて全国で社内サテライトオフィスの導入が進んでいます。集中して仕事を行う時間・環境の確保やスキマ時間の有効活用などに効果的に活用されています。
また、空いている会議室や食堂なども活用し、そこを一定時間、集中スペースとして設けることも行っています。

テレワークを導入するとサボるのか?


――テレワーク反対論の人の話をうかがいますと「サボるのではないか」という意見がありました。
山本 普段からの所属長とのコミュニケーションが大事だと思います。当社ではテレワークを実施するにあたり、どこでどのような業務を行うかを所属長に事前に伝え、終わったことも報告もします。
どこでなにをやっているか分からないと言うことはありません。
所属長からすると、目の前に部下がいないと不安だと思う気持ちもあるかもしれませんが、普段からのコミュニケーションにより、そのような心配は解決できるものと思います。

――管理職の理解は大事ですね。
山本 まずは管理職自らが実際にテレワークを実施しました。そのことにより、生産性の高い柔軟な働き方を実感し、管下職員がテレワークを実施することに対する抵抗感も軽減されたと思います。
その結果、2017年度は約3,000名がテレワークを実施しました。

――ところで、さきほどの「会社は7つのあるあるに取り憑かれている」と認めることは勇気がいると思います。
安部 先ほどのゼロベースの仕事の棚卸と3つの改革を断行していくうえでは、その阻害となっている悪しき慣習のようなものは文字にして社員全員が認識することが肝要だと思い、「小さな本社における働き方ハンドブック」を作成し、徹底しました。このハンドブックは本社での働き方を対象にしたものでしたが、9月からは全社員まで拡大したに「いきいきばいぶる」としてリニューアルし展開していきます。バイブルでは、チェックリストをもとにこのあるあるに陥っていないかと自身で気づけるような仕掛けも取り入れており、。実例に基づいて何が問題なのかも明らかにしていきます。これを職場全体で活用していくことでお互いの多様な価値観を理解・共有することで、よりよい職場に発展させていきたいと思っております。


――社員自身が自分の強みだけではなく弱みも同時に認めることも成長しますね。
山本 強みと弱みが分からないと、自身のパフォーマンスが向上しませんのでチェックリストに基づいて、自身を認識していくことが大事な一歩で成長につながります。

岩澤 当社では強みと弱みもしっかりと認識し、責め合うよりも認め合う風土があります。ネガティブにではなくポジティブにチェックしてほしいです。

安部 当社には「GPS(現場力パフォーマンス・スコア)」という、現場力をアンケート形式で採点する仕組みがあり、現場では職場の強み・弱みを理解し改善していく、本社は自部署の強み・弱みに加えて、全社的な取組みが浸透しているかを確認することができています。
そうすることで、自分たちの強み・弱み、改善すべき点をあらためて認識し、7つのあるあるからの脱却を図っていきたいと考えています。生きがいと働き方を変えるともっと人生は豊かになります。
人生の中で仕事をしている時間は長いので、楽しく働きやすくすることで、より芳醇に人生を過ごすことが可能です。空いた時間があれば、自己研鑽をすることもできますし、会社の成長やもっとよりよい働き方について、どうあるべきかとみんなで議論します。

――すごく民主的で、ボトムアップで決めるのですね。
岩澤 金融機関はトップダウンが多いイメージかもしれませんが、当社はボトムアップを大事にする文化があります。

――合併後、社風も変わったのでしょうか?
岩澤 合併しているからこそいいところをお互いに補完しているイメージがあります。


安部 これまでに複数の会社が合併してきたので、多様性を大事にしているともいえます。合併したことによってグッドクラッシュが起き、それぞれの文化を認め合うこととなりました。

――残業は削減できましたが、何か創造性は生まれましたか?
山本 昨年度の残業時間は約20%削減しましたが、今年度は個人の「強み」創出、価値創造を生み出す方向へ注力しているところです。各部門においてお客さまへのより良いサービスを提供できるよう全社一丸となって取組んでいます。

――会議の長さが残業を生むと思いますが、会議についてはいかがでしょうか。
岩澤 会議や打合せ時間には議題にもよると考えていますが、原則30分とするルールがあります。アジェンダは事前に共有するなど、色々な方法がありますが、昨年度すべての会議室にタイマーを配布しました。

――残業が減ったなかで、「社会人として学び」が必要になってきますがそのあたりは。
山本 「教育改革」は自己研鑽だけでなく、「教え合い・学び合い」を推進しています。社外ネットワークの構築や社外セミナーなどへの参加も推奨しています。さまざま場面で培ったことを職場での「教え合い、学び合い」にて、多様な意見が活かされる職場づくりを目指しています。
また、職場での勉強会や教え合いも推進しています。
例えば、毎朝30分で専門知識を勉強したり、システムについて教え合ったり、英語の勉強会も行っている事例もあります。

――会社の方向性としては
安部 徹底してお客さまの立場で考え、次々とイノベーションが起こるような自由闊達な社風を持つ企業を目指しています。多彩な人材が多様性を認め合い、融合することで創造性を発揮し、社員がいきいきと働き、その「働きがい」「生きがい」が、会社を成長へと導いているような文化を醸成していきたいです。
(長井雄一朗)
編集部おすすめ