「ははあ〜」「ありがたや」「あやかりたい」
お寺の本堂で、深く頭を下げる参加者一同。
おがむ先は、仏様でも僧侶でもない。ボードゲームのプレイヤーである。

9月16日、江東区の陽岳寺(ようがくじ)で、「浄土双六ペーパークラフト 箱詰め会&製作発表プチパーティ」が開催された。
「浄土双六」(じょうどすごろく)とは、江戸時代に生まれた仏教ボードゲーム。現代のすごろくの原型だといわれている。
当時の世界観をそのままに、ペーパークラフトのすごろくとして復刻した。

地道な作業から始まる製作発表会
当日集まった30名弱の参加者たち。
まずはすごろくの試作品を作りながら、大量に届いた各パーツを整理して、箱詰めを行っていく。今回の参加者は、観客でありながら協力者でもあるのだ。
作業が一段落したら、いよいよ本堂での製作発表会がスタート。

「もちろん読みますよね?」「聞きたい!」
会場からのリクエストにこたえて、陽岳寺の副住職・向井真人さんによる読経タイムが始まった。
参加者には、お経のあんちょこである「聖典」が配られる。
「読めなくても怒らないので、ご唱和くださいね」
向井さんの言葉にクスクス笑いが漏れたが、鐘の音とともに般若心経がスタートすると、会場の雰囲気は一転。

まるで読経ライブだ。
普段は穏やかにゆったりと話すお坊さんも、お経となると腹の底に響くようなバリトンボイスに変わる。このギャップは何なのか。
〆は全員で御本尊に合掌。

僧侶とプロ制作チームのタッグによる本格仏教ゲーム
陽岳寺では、2015年から仏教をテーマにしたボードゲームを作り始めた。
きっかけは「お寺に来てくれる人におみやげを渡したい」との思いから。ボードゲームのプロ制作チーム「ゲーミフィジャパン」の協力により、本格的な制作に乗り出した。
本作「浄土双六ペーパークラフト」は第4作目となる。
今年1月にクラウドファンディングを実施し、73名からの支援によって資金を調達。その後、各宗派の僧侶と支援者による全6回のワークショップを経て構想を練り、今回の完成に至った。

基本的なルールは普通のすごろくと同じ。
プレイヤーはそれぞれ自分のコマを持ち、サイコロをふって、スタートからゴールまでのマス目を進んでいく。
ふりだしは「人間界」。
ペーパークラフトで作られた立体構造物は、「天界」「地獄」など、仏教では六道(りくどう)や三界(さんがい)と呼ばれる世界を表している。
マス目を進んで修行を積み、最終的に成仏=ゴールで仏になることが目的となる。

サイコロの目によっては地獄行きになってしまうことも。
地獄の最下層に落ちると、二度と抜け出せない「無間地獄」(むげんじごく)の中にはまってしまい、ゲームオーバー。
サイコロ次第で浄土に行くか、地獄に落ちるかが決まるのだ。

無敵状態の「ほぼ仏」
「天界」を抜けるといよいよゴールの一歩手前、「ほぼ仏」ゾーンへ。
仏に近い存在として、仏の顔ハメお面をかぶってプレイすることになる。いわゆるリーチ状態だ。ここまで来ればもう地獄に落ちることはない。
仏が生まれた時点でゲームは終了する。
平均的なプレイ時間は15〜30分程度。

「ボードゲームというのは、プレイヤーがみんなルールを守って、協力し合わないと成立しません。全員が自然と前のめりになって参加できるんです。お寺や仏教のことを楽しみながら感じてもらうツールとして、ボードゲームにすることを思いつきました」と話す向井さん。

「浄土双六ペーパークラフト」はネットショップ「BASE」で販売中。9月末には「Amazon」でも販売開始予定。

(小村トリコ)