『スカイスクレイパー』は、ドウェイン・ジョンソンによる映画の形をしたプレゼンである。近年ドウェインが提示するヒーロー像には全くブレがないが、この映画でもその姿勢は一貫。
「おれはこういう男がヒーローだと思うけど、君たちはどうだい?」というドウェインのプレゼンから、目が話せない。
おうちが火事だよ「スカイスクレイパー」巨大ビル大パニックにかこつけて、ドウェインヒーロープレゼン大会

高さ1kmの巨大ビルで火災発生アンド犯罪者が侵入! その時ドウェインは!?


とにかく今年も映画に出まくっているロック様ことドウェイン・ジョンソン。「ドウェインの映画を見に行ったらドウェインの映画の予告が流れてきた」という状態も何度かあった。『スカイスクレイパー』もそのうちのひとつ。今やほぼ中国企業と言っていいだろうレジェンダリー・ピクチャーズが製作した、「世界一高いビルVSドウェイン」という映画である。ドウェイン、とうとう建造物と戦うようになったか……。

今回のドウェインが演じるのは、元FBIの人質救出チーム隊長で、現在はビルのセキュリティシステム調査の仕事をしているウィル。FBI時代にとある事故で片足を失い転職したが、アフガン帰りの元軍医である妻と2人の子供と仲良く暮らしている。

ウィルの新しい仕事は香港に建造された高さ約1kmの超高層ビル"ザ・パール"のセキュリティ調査。巨大な建物の中には商業施設や公園、住宅、ホテル、コンサートホールに展望台などが詰まっており、ビル自体がひとつの街になっている。ウィルは家族とともにザ・パールに住み込みで調査を行い、その結果セキュリティ的に問題はないと確信する。しかし、元FBIの同僚で現在はザ・パールのオーナーであるツァオ・ロン・ジーの下で働くベンに裏切られ、ザ・パールのセキュリティを制御するタブレットを奪われてしまう。

時を同じくしてザ・パールでは大規模な火災が発生。
その隙に乗じて何者かがビル内に侵入する。一方ウィルは行き違いから警察にも追われるハメに。果たしてウィルは燃え盛るザ・パールに戻り、家族を救い出すことができるのか。

超でかいビルに犯罪者が侵入し、大火災が発生……という筋立てなので、ひょっとしなくても『ダイ・ハード』や『タワーリング・インフェルノ』へのリスペクトに満ちた作品である。それ以外にもある装置を使って『燃えよドラゴン』へのオマージュを突っ込んだりと、中国でのヒットも見越したサービスも満点。

とにかく演出が手堅いのも『スカイスクレイパー』の特徴だ。「ビルの96階で火災が発生し、時間とともに上に向かって燃え広がる」というのが登場人物たちを追い詰めるため彼らの位置関係がわからないと盛り上がらないのだが、そのあたりは必要最小限の手数でさらりと説明してのける。さらに「高いところからドウェインが落っこちそうになる」という見せ場も、ドウェインがどこにいてどこに行きたいのかが整理されて伝わってくるためしっかりとスリルのあるものに。高さに関しては手を替え品を替え表現されるため、高所恐怖症の人は冷や汗がドバドバ出そうだ。

「ハンディキャップも武器になる」ドウェインが提示するヒーロー像とは


しかしそれにしても、ここしばらくドウェイン・ジョンソンが提示しているヒーロー像はある程度一貫している。それは一言で言ってしまうと、「完璧ではないが優しく、危機にあっては必死に勇気を振り絞る人間」である。『スカイスクレイパー』のウィルは、その集大成のようなキャラクターだ。


例えば、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でのドウェインは「ドウェインの中身がヒョロヒョロのオタクだったら」という役だったので、見た目はムキムキだけど中身は全く冴えない。『スカイスクレイパー』と同じローソン・マーシャル・サーバーが監督した『セントラル・インテリジェンス』でのドウェインは、元いじめられっ子がムキムキになったCIAエージェントであり、過去に自分をいじめていた奴と向き合うといじめられっ子に戻ってしまうという弱点があった。『ワイルド・スピード』シリーズのホブスや『ランペイジ』のデイビスのような見た目通りのタフな役の合間に、こういった「逆にドウェインがやってると面白くね?」というキャラクターを演じているのである。

『スカイスクレイパー』のウィルは、「タフで強いドウェイン」と「実は弱いドウェイン」のハイブリッドのようなキャラクターだ。元FBIの人質救出チームという経歴ながら、犯人の自爆によって片足を失ったため義足がないと行動できない。劇中には敵に義足を奪われ片足だけで戦うシーンまである。『スカイスクレイパー』冒頭ではウィルが片足を失う経緯が描かれるのだが、この場面でのドウェインはドウェイン史上稀に見る痛ましいやられっぷりである。その後のビルでの戦いでも色々酷い目に遭うものの、この冒頭のズタボロドウェインほどひどい状態にはならない。

タフな見た目で売ってきたアクション俳優が、ちょっと今まで見たことがないリアルなやられ方で片足を失う……そんな姿を映画の冒頭で見せたのは、ドウェインなりの覚悟の表れだったのではないかという気がしてならない。それくらい、今回彼が演じたウィルという役にとって「片足を失った」という点は重要だ。ガタイこそいいもののウィルは決して完璧な男ではない。というか、けっこう事態のめちゃくちゃさにビビっている。
にも関わらず家族のために体を張り、時には自らのハンディキャップであるはずの義足を武器にしてまで高層ビルで戦う。そこには「弱点を武器にして、人は大切な人のために戦うことができる」というドウェインなりのメッセージが込められているのではないか。この製作総指揮にドウェインがクレジットされているのは、決して偶然とは思えない。

さらに言えば、『スカイスクレイパー』ではウィルの妻サラも犯罪者たちと戦う。精神的な意味とかではなく、割と物理的に戦うのだ。なんせサラもアフガン帰りの軍医という設定である。妻と言えどもムキムキの夫に守られるだけには甘んじない。子供のために体を張るのはパパだけではないのだ。このあたりのバランス感覚は、さすがに2018年のアクション映画という感じである。

前述のように『スカイスクレイパー』は演出も脚本も手堅く作られているため、この「ドウェインがいいと思うヒーロー像」がスルリと頭に入ってくる。本当にプレゼンがうまいな……と感心することしきりである。次のアメリカ大統領選に出馬するかも……という噂があったりなかったりするドウェインだが、こういう映画を作れる人物なら大統領になってもちゃんと仕事をしてくれるのでは、とコロリとやられてしまう勢いだ。
やはり今世界で一番信用できるアクションスターは、ドウェイン・ジョンソンなのである。
(しげる)

【作品データ】
「スカイスクレイパー」公式サイト
監督 ローソン・マーシャル・サーバー
出演 ドウェイン・ジョンソン ネーヴ・キャンベル チン・ハン ローランド・ムーラー ほか
9月21日より全国ロードショー

STORY
香港に完成した高さ約1kmの超高層ビル、ザ・パール。そのセキュリティチェックに赴いた元FBIのウィルは、ビルのセキュリティを管理するためのタブレットを強奪される。時を同じくしてザ・パールでは火災が発生。その隙に乗じて、ビルのオーナーであるツァオを狙って犯罪者たちが侵入を開始する
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