ASKA、5年振りのステージへ 「CHAGEとは会わずとも繋がってる」/レポ―ト

「待っていてくれて本当にありがとう!!」

この日、全曲を歌い終えたASKAは満場に深いお辞儀をしながら、鳴り止まぬ温かい拍手の中、この言葉と嬉しそうに充足した満面の笑みを残しステージを去った。

本当に永く待った気がする。
しかし、それもこの日の彼の歌声と屈託のないMCにて、終演後には自然と淘汰された自分がそこに居た。

ASKAの実に5年ぶりとなる全国ツアーが東京・国際フォーラムホールAにて幕を開けた。『billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE-』と題された同ツアーは、全国9都市11公演を当地の交響楽団をバックにASKAが、自身そしてCHAGE and ASKA(以下 : C&A)の楽曲を歌うもの。この国際フォーラムを含め関東では東京フィルハーモニー交響楽団がバックを務めた。

2008年にも日本を始めシンガポール、台湾、中国他にて行った同スタイルから約10年。久しぶりの共演となったこの日も、通例のバンドサウンド時とは違った臨場感や躍動感、生命力はもとより、逆にデリケートな心の機微をも、その歌と演奏で育んでいったのも印象深い。自身のソロ曲を始めC&Aの曲も多分に織り込まれた、この日。そのレパートリーは初期曲から最新曲まで、彼の歴史を紐解くのと同時に、心や感情を込めて歌われる各曲を通し、彼の歌に託した真摯な想いやメッセージ等を改めて感受することが出来た。

開演前のステージでは楽器群が演者たちの登場を待っている。観客の拍手に迎えられ、まずは楽団のメンバーが入場。揃うとヴァイオリンのキーに合わせて各楽器が調弦を始める。暗転し、このツアー各箇所一緒に回るコンダクターの藤原いくろうが間を置き登場。
各位が演奏姿勢に入る。

まずはプレリュードとしてのC&Aのナンバーをオーケストレーション化させたインストゥルメンタルナンバーが優雅に滑り出す。厳かな中にも暖かさと逞しさを擁した同曲。それが徐々に目覚めから雄々しさを取り戻していくかのように会場全体に広がっていく。そんななか、下手(しもて)扉が開き、温かい万感の拍手のなか、ASKAが両腕を上げ登場。センターに歩み藤原と握手。会場に感謝を交え深々と挨拶をすると、初期のC&Aナンバー「熱風」を歌い始める。両手でマイクスタンドを強く握り、ブランクを感じさせないあの伸びやかな歌声が雄弁なオーケストラサウンドと共に広がっていく。また、英語詞も交え歌われた「Man and Woman」では、しっとりとした歌い出しながら終盤に向けてとてつもない力強さを魅せ、ピアノから歌を重ね、そこにオーケストラが加わり楽曲に生命力を帯びさせるが如くの「はじまりはいつも雨」でのグラデーション感には聴き入るべくものがあった。

ここで初のMC。「お待たせ!!」とASKA。客席からの様々な「お帰りなさい!」「待ってました!」との温かい声がステージに返る。
その後も「どんだけ~まぼろし~」(IKKOのモノマネ)を連呼し、場内を和ませ、いい意味で会場の緊張をほぐしていく。「ツアーの初日。今日を基に様々なものが(同ツアーの今後の)形になっていく。最後は同じ出口の扉を一緒にタッチできたら嬉しいです。最後までお付き合いください」と告げた。

重複するがこの日は通例よりも荘厳かつ格式の高い雰囲気があった。そしてその距離をぐっと縮めたのが合間合間のASKAのMCであった。彼のMCにはユーモアが溢れており、この日はそれが会場中に和みを生み、オーケストラに対して良い意味で敷居を下げ、親しみを持たせる役割を担った。この日はほかにもMCの何箇所かでそのような光景が見られた。

中盤のMCでは「これまで7年に1枚のペースのアルバム発売だったけど、今年は1年に2枚のアルバムを出し、早くも来年の2月発売の分も楽曲は完成。残るは歌入れのみ」と嬉しい知らせも。また、「当面は自分の中で自然と“やりたい!!”と湧き出た気持ちに素直に向き合い進めて行く」と語り、自身が綴っているブログについても言及。
その面白さや、そこに掲げた目標達成への生活の張り、「自分の発信の場所が出来た安心感を得れるからみなさんも是非やった方がいい」と自己発信をすすめる。

このコンサートでは通例のクラシックコンサート同様、間に休憩時間を挟んでいる。これもやはり真摯に向き合い、聴き入る緊張感を有する同スタイルには箸休め的でちょうどいい。

休憩を挟み第二部目は比較的自身の原風景や未来の自身へと贈った手紙の様な曲が温かく伝えられ、はたまたスリリングな歌に際しては、その臨場感を持って迫ってきた。そして、後半に向けて奮い立たせる雄々しい歌が次々に歌われた際には、ASKAの歌も段々と熱を帯び、感情移入も著しくなる。そこにどんどん会場が惹き込まれていく様を見た。

本編最後のMCではCHAGEやC&Aの今後についても興味深く語られた。CHAGEもCHAGEで自身で好きなことをやっている。今はお互いこのようなスタンスで良い。例え会わずとも繋がってる。またいずれお互いが「やろう!!」と声を掛け合う時が来るだろう。安心して欲しい、との言葉とともに、本編ラストは「シングルにもなっていないのに、自分もみなも大切に歌い継いでいき、初めて曲が一人歩きするのを実感した曲」と告げ、「PRIDE」を歌う。
歌われる<心の鍵を壊されても/失くせないものがある>は、まさに今の彼の意思表示や決意表明のようにも響いた。

アンコールの際、「今回の選曲には悩みました。なんせ800曲以上作ってきたから」と語り、「『YAH YAH YAH』をうたったらこの歌をうたわなくちゃならないでしょう」と「SAY YES」が。さらなるドラマティックさと厳かさ、荘厳さを帯びて響いた同曲。しっとりとした歌い出しから確信を帯びた力強い歌声へとその決意と共にみなの胸に響いていく。ここで歌われる「君」とは、まさにここに集まった人、そしてこの場所以外でも待っていてくれるファンに向けてのように感じ、明るい希望をしっかりと見て取ることができた。

「よく人は『アルバム中、何曲かいい曲があればいい方』と言うけど、自分はアルバムでも全曲良くなくちゃ嫌なタイプ。それをいつもアルバム作り時には念頭に入れてきた。来年2月発売のアルバムもこのような意識で取り組んでいる。凄く皆さんがびっくりするような最高に気に入っている曲も出来た。まあ、凄いから楽しみにして欲しい」と、新譜への期待も更に膨らませてくれ、アンコールラストは活力とバイタリティ溢れる曲が明日へと向かうみんなの背中を強く押してくれた。

このツアーは、この日を皮切りに年末まで各地の交響楽団と共に全国各地にて贈られる。
きっとみなさんの街や近くにも行くことだろう。その際は是非足を運んで、彼に「おかえり」を告げて欲しい。その代わりきっとその日の会場を出る際には、お返しに彼からは溢れんばかりのバイタリティと生命力、そして明日への活力を与えてくれるはずだ。ASKAの歌、そして歌声は、そんな「明日に向かうための力」を宿しているのだから。

取材・文/池田スカオ和宏