
日本人ドラマー、プロデューサー、シンガーのmabanua(マバヌア)がringsのレーベル・プロデューサーを務める原 雅明によるdublab.jp(https://dublab.jp/)のラジオ番組 “rings radio” の第12回目(10月25日放送回)に登場した。
ブラックミュージックをルーツとしているmabanuaだが、決してその枠には収まらない音楽家で、近年彼がプロデューサーとして関わったアーティストは、藤原さくら、米津玄師、SKY-HI、LUCKY TAPESなど、錚々たる顔ぶれだ。
ドラムの参考にしているのはSlum Village

原 雅明(以下、原):本日はマバヌアさんが影響受けた曲だったり、最近面白いなと思っている楽曲を選んで紹介してもらいます。まず、何からいきましょうか。
mabanua:原さんと出会った時ぐらいに聞いたであろう、Slum Villageから。
原:懐かしいですね、Slum Villageの「FANTASTIC VOL.2」ですね。曲は“Tell Me”。
mabanua:この曲、実は僕自身が未だに参考になっている音源なんです。あのスネアドラムのスネア音がでかいんですよ。イヤホンで聞くと聴くとスネアの迫力がすごくて。これが面白いなぁって。僕がドラマーでもあるので、これを生で叩いたらどうなるんだろみたいなのもずっと気になっていたんです。この音源を7~9年あたり、延々と同じグルーヴを叩いて研究してたのもあって、聞いたときに懐かしく思いましたね。
原:研究してみた成果はどうでした?
mabanua:周りから「グルーヴとしてわかってるね」という声を得られるようになったというか、スキルやテクニックで魅せて歓声をもらうよりも、一緒にセッションしたミュージシャンとか、そういうことがわかってるお客さんの前でちゃんと研究したグルーヴを叩くと、「(あなたのドラム)初めて聞いたんですけどわかってますよね」みたいな。
原:当時はそんな叩き方をする人もいなかったでしょ?
mabanua:いないですね。今はクリス・デイブの影響が出ちゃているのか、スキル寄りになってきたのがあって。
原:彼(クリス・デイブ)のJ・ディラっぽい、もたって撚れたドラムは研究して、あのようになったと言われていますよね。

mabanua:そうなんです。これを聴くとクリエイティヴっぽいなって思うんですけど、スネアをバーンって叩くじゃないですか。キックをそんなに踏んでいないときがあって。そうれを聴くとJ・ディラから影響を受けたのかなって思いたくなるプレイは随所にあるんです。割と世のドラマーは、良くも悪くもそうじゃないところにフォーカスが言っている感じがあるから(笑)。
原:感覚的なところで違いますよね。
プロデュースの注文で人気な「チャンス・ザ・ラッパー」
mabanua:ここ1、2年で頻繁に名前を聞くのがチャンス・ザ・ラッパー。僕がプロデュースをする時にも「チャンス・ザ・ラッパーみたいにしたい」という注文がすごく多かった。それに「最近よく聞く音楽はチャンス・ザ・ラッパーです」って人もたくさんいるんですよ。
原:チャンス・ザ・ラッパーみたいにしたい、ってどういうことですか?
mabanua:最後にホーンを入れて盛り上げて、ゴスペル調にして終わる、みたいな笑。そんな感じで、チャンス・ザ・ラッパーみたいにしたいっていうメジャーのアーティストが去年と今年は多かったですね。
原:やっぱり、あの辺のプロダクションが気になるとか?
mabanua:なんじゃないですか? あとはやっぱり「This Is America」みたいに、国の事情はそんなに捉えなくてもできちゃう音楽というか。「Sunday Candy」とかって別に黒人の差別とか歌っているわけじゃないですか。アレンジ自体が日本のポップミュージックのなかに取り込みやすいアレンジだったんじゃないかなっていう。僕は「This Is America」みたいな曲を作りたいって言われたら、よし作ろうよ! ってなるけど、勇気のあるアーティストじゃないとあまりいないかなって。
原:なるほどね。

mabanua:ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchさんともよく話すんだけど、fleet foxesいいよね!って。Gotchさんから「この前の来日公演は行ったのか」って、連絡が来たり情報交換をすることが多いんです。Gotchさんのソロバンドメンバーの間でも、fleet foxesの話題は出てましたね。
原:これってサブ・ポップから出てますけど、オルタナカントリーって呼ばれた音楽が前提にあって、カントリーミュージックをオルタナティブな感じで聴かせるところから出てきた流れでもありますよね。ウィルコからの流れがあるんじゃないですか?
mabanua:だからか!
原:それまでのオルタナティブって、パンクの流れもあってエレキギターがメインでやっていたのが、だんだんアコースティックに変わっていって。
mabanua:そうなんですよ。それらのバンドの原点って何だろうと考えたとき、個人的にはThe Bandかなって結論に。
原:すごい、いきなり時代が飛んだ(笑)。
mabanua:時代が飛びましたけど、やっぱりアメリカでバンドやっている人たちは遺伝子レベルでThe Bandが組み込まれているんじゃないかってくらいの感情がありますね。
原:でもThe Bandってドラムのリヴォン・ヘルム以外はカナダ人なんですよね。
mabanua:そうなんですよ。でもすごくアメリカ的な音楽だし、当時The Bandの1stアルバムを出したときの年齢が20代で若いうえに、あんなバンドが当時いくつもいたのかってそうでもないし。あれがデビューしたのが70年代で。ビートルズが解散した前後らへん。って考えると、すごく良いいでたちでいる若者だったんだなって。
原:そうそう。

mabanua:そうそう(笑)。そう考えるとThe Bandって現代のfleet foxes じゃないけど、オルタナティブカントリー的な感じがしたんですよね。
注目アーティストは「ニック・ハキム」&「Unknown Mortal Orchestra」
mabanua:最近個人的に流行っているアーティストを2つほど紹介しますね。ひとつはニック・ハキムっていうシンガーソングライター。原さんが好きそうな人ですよね(笑)。
原:知ってます。ブルックリンの人ですよね。Onyx Collectiveってちょっと変わったジャズ・グループともやってたり、結構音楽的な素養がある人ですね。
mabanua:そうです。調べたらインテリ色もある方で、バークリーに行ってたらしくて。昔の作品とかライブ映像をみるとすごく歌が上手いんですよ。なんだけど、不思議なのがリリースしていく度に歌がヘタウマになっていくという(笑)。本当は上手いのに下手に歌っている感じがすごく好感もてて。
原:なるほどね。
mabanua:もうひとつがUnknown Mortal Orchestra。こちらの方は、ニック・ハキムより日本では知名度が高そうなんですけど。Unknown Mortal Orchestraはニックハキムと歌の質感が近いっていうのと、サウンドが泥臭くで好きっていうところかな。特にビビッとくるのが、そのフォーキーさに対して結構ブラックネスが入ってくる感じの質感がすごい好きで。ブラックミュージックのリズムにR&Bマナー満載の歌っていうのが、個人的に微妙で。ちょっと外している感じのミックスが好きなんです。このUnknown Mortal Orchestraは、その最たるものと言うか、曲のアレンジがすごくしっかりしているので、コードとか難しいものを使っているのにすごく聴きやすいんですよ。なので、改めていいなと思っています。

文/日野綾
プロフィール
mabanua (マバヌア)
日本人ドラマー、プロデューサー、シンガー。ブラック・ミュージックのフィルターを通しながらもジャンルに捉われないアプローチで全ての楽器を自ら演奏し、国内外のアーティストとコラボして作り上げたアルバムが世界各国で話題に。また、プロデューサーとして100曲以上の楽曲を手がけ、多数のCM楽曲や映画、ドラマ、アニメの劇伴も担当。
原 雅明
音楽の物書き。レーベルringsのプロデューサーやRed Bull Radio「Tokyo Tangents」の選曲、LAの非営利ネットラジオ局の日本ブランチdublab.jpのディレクター、DJも務め、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。新著『Jazz Thing ジャズという何か--ジャズが追い求めたサウンドをめぐって 』(DU BOOKS)。
https://www.ringstokyo.com/
リリース情報
3rdアルバム『Blurred』アナログ化決定!
発売日:2018. 12. 5 (wed.)
品番:OPAE-1010
価格:\3,000 (税抜)
ツアー情報
mabanua tour 2018 “Blurred”
・東京 【SOLD OUT】
11/14 (水) 渋谷 WWW X
OPEN 18:30 / START 19:30
チケット:\4,000 (+1drink)
・大阪
12/14 (金) Live Space CONPASS
OPEN 19:00 / START 19:30
チケット :\4,000 (+1drink)