Shes baaaaack.──待望の新作『AM I THE DRAMA?』は、音楽史上でも屈指の”待たれた”2ndアルバムだ。ブロンクス出身の彼女が『Invasion of Privacy』でシーンに現れ、ネオンが爆発するようなヒップホップの衝撃を与えてから早7年。自らを「ブリムセス(Brimcess)」と呼び、常に話題を集め続けながらも、音楽的に一度も踏み外すことなくヒットを量産してきた。
この新作で彼女は、失われた時間を取り戻すように、かつてない勢いで返り咲く。血塗られたハイヒールを履き直し、積もった因縁に決着をつけ、奪うべき王冠を狙う。圧倒的なカリスマだけで十分勝負できるのに、今回は音楽で存分に弾け、楽しんでいるのが伝わってくる。近年は音楽以外の話題ばかりでメディアを賑わせていたが、彼女はあらためて証明する──自分は誰よりも自由で、狂気的で、予測不能で、とびきりユーモラスな存在だと。〈私の車はどれも運転手付き/ドアハンドルなんて何年も触ってない〉と豪語するのも当然だ。
アルバム・タイトルは『ル・ポールのドラァグ・レース』に由来し、アートワークはヒッチコック映画ばりのホラー調。なにせ、カーディの存在がドラマそのものだ。幕開けを飾るのは「Dead」。
アルバム全編が気迫に満ちている。ゲストはセクシー・ドリルの旗手キャッシュ・コベインから南アフリカの新星タイラまで幅広い。セレーナ・ゴメスとシンセポップ調の「Pick It Up」で共演し、ジャネット・ジャクソンとは80年代R&B風の「Principle」でデュエット。「Whats Going On」では浮気した元夫に別れを告げ(〈私が前に進んだのが気に入らない? それはお気の毒様〉──誰のことかは察しがつく)、リゾが4 Non Blondesのフックを引用して締めるという90年代ロック的な演出もある。
「Man of Your Word」ではオフセットとの離婚をスティールドラムの歪んだループに乗せて振り返り、〈妻としてあなたの痛みに気づくべきだった/でも私は音楽を優先した〉と高潔に告白。〈アイコンでいることの重圧〉とも吐露するが、同時に〈あなたは私の分身、私そのものだった/でも実際は”悪い方の私”だった〉と突き放す。そして「Outside」ではサザン・クラブ調の下品なフックで〈次にママに会ったら伝えな/”あんたはクソ女を育てた”って〉と叩きつける。
カーディは常にマルチメディア時代のポップカルチャー・ヴィジョナリーであり、ストリップクラブのダンサーからVineのスター、リアリティ番組『Love & Hip-Hop: New York』の人気者へと登り詰め、さらには映画『ハスラーズ』でジェニファー・ロペスと共演するまでの道を歩んできた。だが、心の中心にあるのは常に音楽。デビュー作では1960年代ブロンクスのブーガルー(「I Like It」)、90年代サウスのバウンス(「Bickenhead」)、50年代ドゥーワップ(「Thru Your Phone」)までを自分の色に染め上げた。
その野心は今作でも健在。「Bodega Baddie」ではスペース・サルサのような高速トラックに乗り、〈私はセレーナみたいでしょ、この態度を見ればわかるでしょ〉と言い放ち、〈もっとガソリンをちょうだい!〉とオチをつける[〈Dame más gasolina!〉はダディー・ヤンキーの代表曲「Gasolina」のサビのフレーズ]。アルバムの最後は「WAP」(メーガン・ジー・スタリオンとの共作)と「Up」という4年以上前の大ヒット曲で締めくくられるが、いまだに古びることはない。みんながこの4年間、彼女を真似してきたからだ。
アルバムに込められた「怒り」と「愛」
我々がもっとも愛するのは、彼女が怒っている時。BIAとのビーフを彷彿とさせる「Pretty and Petty」では〈私はカーディ・B、あなたの憧れ/ボストン出身? じゃあお茶会でもしようか〉と挑発し、〈なんでいつもディディの家にいるの? 聞いたよ、アソコをチェックされたってね〉とさらに切り込む。
「Imaginary Playerz」ではニッキー・ミナージュを狙い撃ちしているように聞こえる。〈あの女たちが自慢してるのって、私が2016年にやってたことよ!〉と笑い飛ばし、〈ヴィンテージとアーカイブの違いも分かんないの?〉と追撃。「Better Than You」は70年代ソウルをサンプリングした豪快な一曲で、UGK feat . アウトキャスト「Intl Players Anthem」を思わせる。最後には曲調が転調し、カーディの覇権を改めて強調する。
『Invasion of Privacy』以来の7年間で、彼女は3人の子をもうけ、今週にはNFLスターのステフォン・ディグスとの間に新たな子を授かることを発表した。アルバムにはタイラとの「Nice Guy」、Lourdizとの「On My Back」、ケラーニとの感動的なデュエット「Safe」といったふうに、彼への愛を綴ったR&Bバラードも散りばめられており、〈私が”あのビッチ”だって分かってるよね?/私が暴走してもあなたは逃げないよね?〉と問いかける歌詞が胸を打つ。
家庭的な幸せを歌おうと、ライバルを踏みつけようと、カーディは決して退屈にならない。マドンナに憧れる彼女は昨年Rolling Stoneにこう語っている。「もし私がマドンナやビヨンセみたいなレベルに達しているなら『Erotica』や『Justify My Love』みたいな曲をやりたいの」。
このアルバムを心待ちにしていたのは世界中のリスナーだけではない。ヤング・サグでさえ新作『UY Scuti』のリリースを1週間延期し、「今日はレディース・デイだから」と敬意を表したほどだ。カーディはずっと前から──カメラや業界が彼女を愛する前から──七転び八起きの人生を生きてきた。彼女を止めるものは何もない。『AM I THE DRAMA?』は、王座を離れたことのない女王にふさわしい壮大な帰還なのだ。
From Rolling Stone US.

カーディ・B
『AM I THE DRAMA?』
詳細:https://wmg.jp/cardi-b/discography/32138/