先日、9thシングル「Flamingo / TEENAGE RIOT」をリリースし、勢いの止まらない米津玄師。ゆえに今回の記事は「せっかくだから米津玄師について何か調べたい」という熱い気持ちだけを原動力に書いている。なので、ファンの方はぜひ一緒に、ファンでない方は二、三歩引いた安全な場所からこの記事を楽しんでいただければと思う。
それでは本題に入っていこう。今回は、米津玄師にまつわるあらゆる言説の中から「米津玄師どこにも行けない説」を取り上げる。
これは「米津玄師の歌詞に『どこにも行けない』というフレーズ入りすぎ問題」とも言い換えられ、ファンにはお馴染みの内容であるばかりか、なんなら本人もTwitterで言及している大人気トピックである。
— 米津玄師 ハチ (@hachi_08) 2017年8月26日
今回は米津玄師が作詞・作曲を手掛けた公開音源、全101曲を対象に調査。内訳としては「米津玄師」名義の楽曲が75曲、ボーカロイドP「ハチ」名義で発表された楽曲が26曲という構成である。
では、まずは米津玄師が歌詞で「どこにも行けない」というフレーズを使用している曲の割合を見てみたい。
結果を観ると、全曲中「どこにも行けない」「どこへ行こう」「どこに行っても」などのフレーズが出てくる楽曲は31.7%。米津玄師は約3曲に1曲で「どこにも行けていない」という結論になりそうだが……断定するのはまだ早い。
上記の数字はあくまで「どこ・何処」と「行く・行けない」などの歌詞が含まれた曲の割合であり、実際に歌詞を読むとその意味合いのバリエーションは多岐にわたる。
例えば、3rdアルバム『Bremen』収録の「シンデレラグレイ」では<何処へだって行けるような自由なんてほしくはないな>と歌っている一方で、ハチ名義の楽曲「Christmas Morgue」では<何処へでも行けるでしょう>というフレーズが含まれている。つまり(当たり前だが)米津玄師は一様に「どこにも行けない」と歌っているわけではなく、楽曲ごとに「そもそもどこにも行きたくない」「どこにも行けない」「どこにでも行ける気がする」という「どこかへ行く」ことへのモチベーションが少しずつ異なっているというのが実態なのだ。
そういう実態に即して今回は、米津玄師の「どこにも行けない」をさらに詳細に分類してみた。
結果としては、以下となる。
・どこへでも行ける(確信):1曲
・どこかへ行きたい(願望):3曲
・どこへ行こう?(疑問):14曲
・どこにも行かないで(依頼):2曲
・どこにも行きたくない(否定):2曲
・どこにも行けない(断念):9曲
・その他:1曲
こうして分類を見てみると、思った以上に「どこにも行けない」よりは「どこに行こう?」という疑問・問いかけの方が多く、個人的には「全然どこにも行けてないわけではないんだな」と大きなお世話ながら少々安心できる結果だった。また「どこにでも行ける」という前向きなフレーズを含む曲もわずかながら存在しており、「米津玄師どこにも行けない説」は「米津玄師どこに行こうか尋ねてくる説」の方がより正確ではないか、というのが私個人の見解である。
また、せっかくなので「どこにも行けない曲」を、それぞれの分類に従って一覧表として出してみたのが以下である。曲名と該当フレーズを紹介しよう。
1.どこにでも行ける(確信)
「Christmas Morgue」:祈りを蹂躙した何処へ行こう? 何処へでも行けるでしょう
2. どこかへ行きたい(願望)
「LOSER」:もうどこにも行けやしないのに / ただどこでもいいから遠くへ行きたいんだ
「雨の街路に夜行蟲」:君とどこまでも行けるように / 馬鹿みたいに願っているんだ どこにだって行けるんだって
「飛燕」:君のためならば何処へでも行こう
3.どこへ行こう?(疑問)
「Blue Jasmine」:これから僕らはどこへ行こう?
「caribou」:どこへ行く?どこにある?
「Mrs.Pumpkinの滑稽な夢」:何処へ行こうか?
「NANIMONO」:僕らはどこへ行こうか
「Nighthawks」:僕はどこへ行こう
「Undercover」:一体全体どこへと帰るのですか
「ナンバーナイン」:どこへ行こうか
「ペトリコール」:何処へ向かうのかわからないまま
「メトロノーム」:これから僕たちはどこへ行くのかな
「リビングデッド・ユース」:この廃墟をまたどこへ行こう / この現世をまたどこへ行こう / この隘路をまたどこへ行こう
「リンネ」:アナタは何処どこに向かうんだい
「神様と林檎飴」:何処へ行こうか
「眩暈電話」:何処へ行くのか
「翡翠の狼」:どこまで行くのか決めてなんかないが
4. どこにも行かないで(依頼)
「clock lock works」:ねぇねぇ 何処にも行かないで 側にいて
「お姫様は電子音で眠る」:何処へも 行かないで
5. どこにも行きたくない(否定)
「シンデレラグレイ」:どこへ行けばいいの? / 何処へだって行けるような自由なんてほしくはないな
「ホラ吹き猫野郎」:あたし何処にも行かないの
6.どこにも行けない(断念)
「Moonlight」:どこへ行ってもアウトサイダー
「TEENAGE RIOT」:何度だって歌ってしまうよどこにも行けないんだと
「パンダヒーロー」:さあ何処にも行けないな
「ホープランド」:君は今どこにも行けないで
「砂の惑星」:どこへも行けなくて墜落衛星
「乾涸びたバスひとつ」:このままどこかにいけたらなって / 何処にもいけないこと 知っていた
「遊園市街」:何処にも行けずに歌っている
「恋と病熱」:「何処にも行けない私をどうする?」
「鳥にでもなりたい」:今更どこへもいけないなら
7.その他
「アンビリーバーズ」:風が吹くんだ どこへいこうと
以上、私が調べた米津玄師の「どこにも行けない曲」一覧だ。あなたのお気に入りの「どこにも行けない」曲はどれに当てはまっただろうか?
ちなみに、個人的に印象深かったのは「どこにも行けない(断念)」に分類される最新曲「TEENAGE RIOT」で、これは楽曲としてのすばらしさはもちろん、<何度だって歌ってしまうよ/どこにも行けないんだと>という歌詞により、ついに「米津玄師どこにも行けない説」が「本人公認」となったことでも一部で大きく話題となった。
最後になるが、オマケのデータを見ておきたい。ここまで「米津玄師どこにも行けない説」改め「米津玄師どこに行こうか尋ねてくる説」を追ってきたが、いちファンとして気になるのは「米津玄師には『どこかに行く』以外にも、もしかして何か苦手なことがあるのではないか?」ということである。
もちろん、米津玄師が類まれな多才アーティストということは前提の上だが、ここまで「どこにも行けない」のであれば、それ以外にも「針に糸が通せない」「電車に間に合えない」のような、なんとなく本人が苦手意識を持っているものがあってもおかしくないのでは? という非常に個人的な興味により、歌詞から「可能動詞+否定の助動詞」で表現された単語を抽出して「苦手なこと」をわり出してみたのが以下である。
参考値である「行けない」曲が32曲なのに対し、
・言えない:14曲
・見えない:12曲
・わからない:10曲
・聞こえない:5曲
という結果になった。調べる前から薄々感づいてはいたものの、やはり「行けない」がぶっちぎりの圧勝である。また2番目に多い「言えない」は、具体的な楽曲としては「vivi」「アイネクライネ」などが該当しており、なんとなく「行けない」と同じぐらい「言えない」も、米津玄師の世界観に合う、納得のいく単語だなぁというのが個人的な感想だ。
それでは、今回の調査はここまでである。最後に朗報をお伝えしておくと、米津玄師の楽曲の中で「歌えない」という単語は1曲だけしか出てこなかった(3rdシングル「Flowerwall」カップリング曲「ペトリコール」)。一人のささやかなファンとして、どこにも行けなかったとしても、米津玄師にはぜひ歌い続けて欲しいと思う。
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.mu/maishilo