男性優位社会のヨーロッパで「#MeToo」はどう動いたのか? スウェーデンが旗振り役に
ニセン・フランス文化相(左)、バー・クンケ・スウェーデン文化・民主主義相(中央)、セルナー・スウェーデン映画協会CEO(右) Photo: Erik Dalstrom / Swedish Film Institute(「Dalstrom」の「o」は「o」にウムラウト)

昨年10月、米ハリウッドで「#MeToo」運動が起こってから約1年。セクハラや性暴力を告発する同運動は世界に広がり、被害者が声をあげるきっかけとなった。
ヨーロッパにおいても「#MeToo」運動は他人事ではない。

男性優位の構造はヨーロッパ社会ではいまだに根強い。ヨーロッパ各国は世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で上位に名を連ねるが、男女格差が最も小さいアイスランドも男女完全平等には届いていない。

この男性優位の社会構造は、「#MeToo」運動が起こった根本的な原因であると同時に、同運動を阻害する原因ともなっている。ヨーロッパで、どのように「#MeToo」運動は広がったのか。そこにはスウェーデンの存在感がある。

欧州の公的組織が「#MeToo」運動への連帯を表明


ヨーロッパにおける「#MeToo」運動の広がりをよく表すのは、スウェーデン映画協会主催のイベント「テイク・ツー『#MeToo』のための次のステップ」だ。同協会は今年5月のカンヌ国際映画祭に際してこのイベントを企画し、映画産業におけるセクハラや性暴力、女性に対する権力の乱用への反対を来場者に呼びかけた。

同企画の趣旨には、カンヌ国際映画祭やスウェーデン政府、フランス政府などの公的な組織が賛同を示し、全面的に協力している。当日はスウェーデンの文化・民主主義相やフランスの文化相も会場に足を運び、壇上でスピーチを行った。このように、大きな組織がこれまでの男性中心のあり方を否定する意味は大きい。
男性優位社会のヨーロッパで「#MeToo」はどう動いたのか? スウェーデンが旗振り役に
2018年のカンヌ映画祭の様子


男女平等の第一人者であるスウェーデンの影響力


同企画がこれほど反響を得たのは、スウェーデン映画協会が主催だったことにも関係する。スウェーデンは1970年代以来男女平等に向けた制度改革を行っており、ヨーロッパにおいても男女平等の手本と見なされている。男女平等に向けて挑戦と失敗を繰り返すスウェーデンの動きには、他のヨーロッパ諸国からも高い関心が寄せられる。


男女平等についてのスウェーデンの影響力の高さは、同映画協会がイベントの来場者に行ったインタビューからも分かる。ドイツからの参加者は、「スウェーデン映画協会が『#MeToo』運動の次のステップとして具体的にどのような行動を起こすのか興味がある」と答え、パレスチナからの参加者は「スウェーデンは男女平等の分野において、一番進んでいると思う。同国がこの分野で何をスタンダートと考えているのか知りたい」とイベント開催時のカメラの前で述べている。


スウェーデン映画協会が発する「男女平等」へのメッセージとは?


大勢の参加者が会場を埋め尽くすなかで始まったイベントにおいては、登壇者たちが思い思いのスピーチをした。それぞれのスピーチに共通するのは、「男女平等に向けた道は平坦ではない」という現実の直視と、「困難はあるけれども、自分たちが現状を変える」という覚悟だ。
男性優位社会のヨーロッパで「#MeToo」はどう動いたのか? スウェーデンが旗振り役に
スピーチをするセルナー・スウェーデン映画協会CEO(スウェーデン映画協会提供)

イベントは同映画協会のCEOアナ・セルナーさんの呼びかけで幕を閉じた。

「家に帰って、自分自身に聞いてください。『セクハラが横行する現場で、なぜ自分はもっと適切に振る舞えなかったのか』と。自ら行動を起こすのにはためらいがあっても大丈夫です。(筆者注:男女平等は)各国の選挙戦で議論されるでしょう。家に帰って現状を変える一歩を踏み出しましょう。遅過ぎることはありません」(セルナーさん)

SNSから始まった「#MeToo」運動。
それに賛同を示した欧州の公的組織と同運動以後のビジョンを示そうとしたスウェーデン。男女平等が達成されているとは言いがたいヨーロッパだが、権力を持つ側が男女平等に向けて取り組むことで、少なくとも議論の場は確保されている。
(田中史一)
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