
覆面ユニット「AmPm(アムパム)」。日本ではまだ無名に近いかもしれないが、彼らのデビュー曲「Best Part of Us」は音楽配信サービスのSpotifyから発信され、世界的に大ヒットした。2017年の配信時から現在(※2018年11月29日)までの再生回数は約1,900万回以上。日本人アーティストでは異例の数字だ。AmPmの人気は米国を中心に、さまざま国や地域で人気が広がり、現在もコンスタントに楽曲発表を行ってきている。ちなみに2人とも日本人だ。
コンセプチャル面や発信のバックヤード担当の「右」と、それを音像や楽曲化、具現化させる「左」からなる、このクリエイティブ・デュオ。彼らがプロデュースした楽曲を、さまざまなボーカルが歌い、リリースするというスタイルだ。その音楽の送り出し方は、日本人的には特異である<世界的マーケティングへのコミットの強い意識>も感じられる。楽曲の特性を活かし、「この曲だったら、このタイミングで、このような地域で、このような人たちが好み、このようなリアクションや反響があり、それがこう反映され広がっていくだろう」との仮説を立証することが主眼に置かれた活動のようにも映る。実際のふたりの本質は如何なるものなのだろう?
僕らの一番の目的は「クリエーターを世に広めること」

――ここまでのAmPmの活動からは、自身のミュージシャン的アイデンティティはもちろん、ほかにも自身の楽曲に対しての仮説や仮定に基づいた、ある種の実験とその反響や実績をも含めたストーリーが伺えます。
右:そういった面は多分あります。広義な意味で自分たちがやってきたことをお披露目している意識なので。発表の場でもあり、実験の場でもあって。とはいえ、AmPmの一番の目的としては、僕らを通じて曲毎に参加しているボーカリストや作詞・作曲者を含めた周りのクリエーターを世に送り出したい、広めたい、それらを知ってもらう手段だったりもするんです。とは言いつつ、完成した各曲や人となりで見ると、これまでの自身の蓄積やノウハウ、仮説や理論の真偽を自分の責任で確かめる場としての成果発表やアウトプットの場でもあって。いただいた印象は、かなり言い当てられてます(笑)。
――あとはマーケティング調査も周到な印象があります。
右:でも、これって表立って見えてないだけで、みなさん大なり小なりやられているんです。グローバルに見た時には、このような話は特別なことではなくて。ただ、それが日本になかっただけで。結局、純粋にいい音楽を出しただけでは広まらないし、今までと状況は変わらない。そんな中、一つのブランディングとして日本の音楽マーケットに於いて、アーティストがマーケティングやプロモーションを語る枠が空いていたこともあり、まずはここに座ろうと。聴いてもらわないと何も始まらないことは変わらないので。そこは色々と考えました。
――例えば?
右:まずはどうやって興味を惹くか? ですね。聴いてもらうまでのストーリーというか。例えば、「お面をかぶったらどうだろう?」とか、「うーん、それも沢山いるし…」みたいな。でも、僕らが海外で受けた理由には、「日本人っぽくない」って面もあるでしょうが、それはこのお面も関係しているんじゃないかなって。このお面、ちょっとヨーロッパ風じゃないですか。これは海外の方に作ってもらったんですが、それもあったり。あとは、色々な解析ツールを使って解析をして、そこに向けての広告の投下もありましたが、そこもそんなに珍しいことではありませんから。
左:そこまでやっても上手く行かないのが、この音楽業界だったりしますからね。
――では、何が要因でAmPmの音楽は興味を惹かれ、世界に広まっていったとお考えですか?
右:厳密には未だ分かっていません。正直、偶然性もあったと考えています。逆にやってみて、こういった広まり方をするんだ……と知って驚いた部分も多々あって。まさかSpotifyのバイラルチャート(※リスナーがSNSでシェアした数を分析してランク付けしたもの。世界全体でこの上位に入るのはかなり難しい)に入れるとは想像もつきませんでしたから。その後、再生回数がバーっと伸びていき。そこから一気に逆算して色々と要因を調べるようになりました。ヒットの要因って売れた後じゃないと、調べたり要因が分らなかったりするもんじゃないですか。我々も同じで。そこで分かったことや気づいたことを、タイミングを見計らい次に投下させていったんです。
まずは視覚(ジャケット写真)で知ってもらおうと思った

――そこからは、「目から音楽を知ってもらう」方へと移ってきた印象もあります。
右:確かにそれはあります。次の段階からはジャケで興味を惹いてもらう流れに移っていきました。僕ら目に留まるジャケットデザインの仕事をこれまで沢山やってきたんです。いわゆるコンピレーションアルバムのジャケットデザイン等々。あれって、多くのCD店の中でも目立ったり、目に留まってもらわないとどうにもならない。まずは手に取ってもらわないと始まらないし、それがけっこう大変で。そこで目をつけたのが、違法音楽アプリのバナー広告だったんです。僕らそこにバナーを貼りましたから。あれを楽しんでいる方も音楽は好きでしょうし。
――それはずいぶん思い切ったことを(笑)。
右:でも、それが功を奏して(笑)。あそこの広告って音楽に関係ないものが多いんです。だから、CDのジャケットのバナーがあったら本物だと勘違いしてクリックされる可能性も高い。そんなこともやりました。そのユーザー目線でどうストーリーを設計していくかは、普段の仕事でも散々やっているので、そこは応用しましたね。
――では、2曲目以降は、その1stのセオリーに則って攻めたり?
右:2~3枚目はカバーだったので、あえて狙わず。そのあとの「Life is」という曲と「I don’t wanna talk」「Darlin Break Free」まではSpotifyのサーバーの仕様とか調べまくって対応しました。当時の読みは合っていたので、またバイラルチャートに入ったりしていたんですが、Spotifyも設計を大幅に変えたりして、そこまででようやく解析した理論が通用しなくなって。またそこからその新しいものに対して解析をし出す、いたちごっこの繰り返しだったんです。でも、逆にサービスの改修に向けて、これだけSpotifyは力を入れていることに感心しましたね(笑)。ユーザーとしてより信用できるようになりました。
――左さんが音楽を作る際には、どのようなことを念頭に?
左:“今、このジャンルはどうだろう?”といった時代性を重視しています。この時期だから、こういった雰囲気の曲で、この人たちを起用してこんな感じの音楽を作ろうって。いわゆるその旬やトレンドですね。正直、ダンスミュージックとしてはまだまだ厳しい部分はあるでしょうが、ラウンジミュージックとしてに重きを置いているところはあります。BGMや雰囲気、空間性を演出する音楽というか。それを都度ミュージシャンを変えながら系統を変えながら作っていってる感覚です。いわゆる、「AmPmの音楽っていいよね」よりかは、「AmPmがチョイスする音楽やセンスっていいよね」みたいな。その辺りはミュージシャンやアーティストといった意識よりも、セレクターやキュレーターに近いかも。なので逆にあまり色が付き過ぎないようには意識しています。
――その辺りは左さんが選曲家やDJもやられている気質にも近いですね?
左:そうです。そうです。AmPmは実態があってないようなものでいい。いわば雰囲気や煙みたいな存在でいいんです。
右:それもあって仮面を今までも何度も変えたり、存在も明確にしなかったり特定されないようにしてきて…。
――右さんは、このAmPmに際して大切にしているものは何ですか?
右:季節感を含めたトレンドですね。その辺りは僕がファッション業界出身ということにも関係していて。もちろん自分の確固たるものやオリジナリティも重視してますが、音楽でもある程度のトレンド性は重要だと感じています。
――先ほど新人のフックアップも目的のひとつとして掲げられてましたが、Michael KanekoさんやNao Kawamuraさんといった今や人気のシンガーにもいち早く目をつけ、ボーカリストに添えていたイメージがあります。
右:その辺りが良い事例になってくれていますが、もっともっと彼、彼女のような方が僕らの周りから出て欲しいですね。
左:そこも僕たちは広い門戸を開いていて。いずれはオーディションもやってみたいんですが、今でも良いと感じられる新人は常に探しているしアンテナを張ってます。逆にチャンスに感じて参加してもらいたいです。
――逆に海外の大物ボーカリストのフィーチャリングにも目が惹かれます。
右:その辺りはバランスですね。もちろんこれからの新人で、力のあるアーティストのフックアップも継続してやっていきますが、それだけでは広がるバリューも弱いんで。時にはほかのブランドやバリューやチャンネル、力のあるアーティストを使っての自分たちの発信も考えています。それも並行してやっていければと。世界トップの方々と一緒に仕事をすることでトップのスピードや業界に対する考え方も分かりますからね。それを自身にもフィードバック出来るし。なかなかそんな経験できませんから。それらを咀嚼して伝えるためにももっともっとコラボレーションしていかなくちゃとも思います。
――やはり海外は素早さが全然違いますか?
右:違いますね。フィーチャリングの場合、もう権利の含めての交渉になりますから。向こうは弁護士も含んでのチームというか。音楽のビジネスの幅が相当広い。これぐらい広義で、しかも全員その道のプロフェッショナル。そりゃ世界的なヒットが生まれるわなぁ……って(笑)。
左:向こうはそれが大きなアーティストレベルだけじゃなく、小さいアーティストでも存在しますからね。それが日本国内だと音楽畑の人だけで固めちゃう。そんなスモールカンパニーみたいなのが向こうは至るところにありますから。
“音楽は国境を越える”はある意味正しい

――では最後に、お2人から見て日本の音楽シーンの欠点ってどこだと思われますか?
右:ミュージシャンも含め音楽に携わる方が音楽を聴かなさ過ぎだと感じます。圧倒的に海外の方々よりも聴いている量が足りなさ過ぎる。音楽って、いわばその人たちにとっての商品じゃないですか。その商品のことに詳しくなく、分かってないんだから売れるものも売れるわけがない。もっともっと聴かないと海外では話が出来ない。海外だと年齢問わずどのポジションの人としゃべっても、みなさん色々なジャンルの音楽をちゃんと聴いてますからね。その辺りはいつも感心します。
左:音楽から海外のカルチャーを理解することもできますからね。もっと音楽を探求するというか。掘っていったり、見つけていったり。音楽を聴くだけじゃなくて楽しんで欲しい。点が線で繋がっていったり。しかも日本だけでなく世界に広がり、繋がったりといった可能性もあるわけですから。
右:僕らにしても英語が喋れるわけではないですからね。やり取りもグーグル翻訳を使って回答したりするレベルだし(笑)。なので日本の音楽が世界に通用しない壁は、語学力だけではないことは確かで。
――では歌詞も?
右:逆に歌詞がとても重要になってきます。それもあって僕らは歌詞に関してはキチンと英訳できる方も交えて作ってます。日本語にしてもやはり歌詞は重要じゃないですか。そういった意味では歌詞はそれこそネイティブな人に書いてもらうレベルじゃないと。上辺だけだとバレて見透かされちゃう。でも「音楽は国境を超える」って言葉はある意味、正しくて。音楽という共通言語があれば分かり合えるものも沢山あると思います。
左:その音楽の共通言語をより増やしていくのが、今後のシーンでは重要になってくる気はします。
右:せっかく定額で音楽聴き放題の時代になったんですから、もっと好きに聴きまくったらいいじゃんって話ですけどね。そういった部分では僕らは音楽を非常に聴いてますから。それこそもう研究レベルで(笑)。
取材・文/池田スカオ和宏
【プロフィール】
デビュー曲「Best Part Of Us」が世界各国のSpotify“バイラルTOP50”へチャートイン、リリースから半年間で1000万再生を超えるヒットを記録(現在1900万回を突破)。2017年リリース楽曲において、世界中のSpotifyで最も聴かれた日本人アーティストに。自身の楽曲に加え、Afrojack、R3HAB、Nicky Romeroなど海外大物アーティストのREMIXを手掛け、日本においてはゲスの極み乙女「ぶらっくパレード」REMIX、平井堅「HOLIC」の楽曲プロデュースを行う。
リリース情報
Faded Love feat. Michael Kaneko
12月5日リリース
https://ampm.lnk.to/ampm