人気ボカロ曲は1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか? 最も早口は「初音ミクの消失」
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音楽を数字で見ていく本連載。今回はパソコンで歌声を合成するソフトウエア「ボーカロイド(VOCALOID)」で作成した曲、通称“ボカロ曲”を聴いたことがあれば誰もが感じたことがあるであろう、あの問題を取り上げたい。


そう、「ボカロ曲、いくらなんでも早口すぎでは?」問題である。

当たり前だが、ボーカロイドは人間のように口を動かす必要がなく、なんなら息継ぎも必要ない。そのため人間のボーカルに歌わせたら酸欠必至の曲も多く、なかには「小説か?!」と思うほど歌詞が圧縮されている曲も存在する。

こういう曲を聞くたびに「これは秒速どれくらいなんだろう……」という疑問で浮かび、ゆえに今回はそんな疑問を解消すべく「有名なボカロ曲は、1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか」を検証したい。

調査対象は“初音ミク歴代カラオケ配信曲”


調査対象にしたのは、2017年に発表されたJOYSOUND内記事「初音ミク歴代カラオケ配信曲を振りかえる!」で取り上げられている楽曲、計82曲である。

ちなみに、このリストは意外と「あの曲がない!」「もっとこの曲を入れて欲しい!」といったものがあると思う(私もある)。が、カラオケの人気曲とは、基本的に全国のボカロファン達が「この曲なら皆も聴いたことがあるかもしれない」「友達の前で歌うならこれが限界」など、必死に忖度した上で選曲したものが多く、端的に言えば「友達に紹介してもヤケドしない曲」がピックアップされがちだ。


今回は、この記事をきっかけに“今までボカロに馴染みがない人も興味を持ってくれたら”という思いもあるため、コアなファンには少し物足りないかもしれないが、こちらのポップでキャッチーなカラオケのリストを使って紹介させて欲しい。なお、歌詞・曲の分数についてはボカロについての情報データベースサイト「初音ミクWiki」の曲ページのデータを参照し、基本はカバー・アレンジではなく、オリジナル楽曲で計測している(また日本語以外の部分は、アルファベットの文字数でカウント)。

楽曲別の秒速ランキング 1位は「初音ミクの消失」


それでは、まずは結果を見ていきたい……ところなのだが、その前に「そもそも、ボカロ以外の曲は秒速何文字ぐらいなの?」という疑問を解消しておこう。

ボカロではない曲で、ボカロファンもそれ以外の音楽ファンも知っていそうな曲としては、米津玄師「Lemon」などがあると思うが、こちらの曲はおよそ「1秒あたり2.21文字」の速度である。

また別な例では、初音ミクとのコラボライブでも話題になった、BUMP OF CHICKEN「ray」(※2015年紅白歌合戦出場曲)などがあるが、こちらは「1秒あたり2.51文字」だ。ロック系のミドルバラードは「1秒あたり2〜3文字ぐらい」が一般的と言えそうである。

では、それを踏まえた上で、まずは楽曲別の秒速ランキングを見てみよう。

人気ボカロ曲は1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか? 最も早口は「初音ミクの消失」
【ボカロ楽曲】早口ランキング~1秒あたり何文字の速度で歌っているのか~(C)エキサイトミュージック

1位 初音ミクの消失/cosMo@暴走P feat.初音ミク【毎秒7.45文字】
2位 裏表ラバーズ/wowaka feat.初音ミク【毎秒6.17文字】
3位 ブリキノダンス/日向電工【毎秒5.10文字】
4位 砂の惑星 feat.初音ミク/ハチ【毎秒4.78文字】
5位 ヒバナ/DECO*27【毎秒4.50文字】


さすがに早い。早口を特徴とするボカロ曲の中でも、特に早い曲なだけのことはあって、どの曲もバンプ藤原の2〜3倍近くも早口である。

1位に輝いた「初音ミクの消失」は、なんと1秒あたり7.5文字というもはやピンと来ない速度を記録している。個人的には「初音ミクの消失」といえば、初めて聴いたとき「え、始まったのかな?」と思う間もなく開始3秒で置き去りにされ、気づいたら曲が終わっていたという新体験をした曲なのだが、実際にこれは「最速の曲」として紹介されることも多い(早口のボカロ曲、と言われた瞬間にこの曲を思い浮かべた人も多いと思う)。数字で見ても、そのほかを大きく引き離して、まさに一人勝ちの状態である。

2位にはロックバンド・ヒトリエのボーカルとしても知られるwowakaによる「裏表ラバーズ」がランクイン。
先ほどの「初音ミクの消失」に比べれば、何を言っているかギリギリわかるレベルの早口ではあるが、それでも「どこで息継ぎをすれば……?」と思わずにいられない、ろれつが高速回転しているような楽曲である。

また、4位には米津玄師としても知られるハチ「砂の惑星 feat.初音ミク」がランクイン。テンポがゆるやかなため「早口」という印象はそこまで強くはないが、よく聴いてみると、1曲通してほぼまるごと歌いっぱなしという、ボーカルにとっては非常にストイックな曲であることに気づかされる。

比較的ゆっくりなボカロ曲 1位は「ストロボラスト」


では秒速ランキングを見たところで、逆に楽曲別の「遅いランキング」も見てみよう。
人気ボカロ曲は1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか? 最も早口は「初音ミクの消失」
【ボカロ楽曲】遅口ランキング~1秒あたり何文字の速度で歌っているのか~(C)エキサイトミュージック

1位 ストロボラスト/ぽわぽわP feat.初音ミク【毎秒0.91文字】
2位 glow/keeno feat.初音ミク【毎秒1.18文字】
3位 アサガオの散る頃に/じっぷす feat.初音ミク【毎秒1.52文字】
4位 からくりピエロ/40mP feat.初音ミク【毎秒1.58文字】
5位 桜ノ雨〈standard edit〉/absorb【毎秒1.63文字】


遅いランキング1位は、ピコピコ系のサウンドに、たまに挟まってくるボーカルが心地よい「ストロボラスト」。声質もサウンドに合わせてかなり人に近い柔らかい声になっており、先ほどの早口ランキングの後に聞くと非常に落ち着くことが出来る1曲である。

そのほか、さわやかでポップな楽曲で知られる40mPによる「からくりピエロ」が4位、小説・映画化もされた卒業ソングの定番「桜ノ雨」が5位につけるなど、ポップス・バラード寄りの楽曲が多くランクインする結果となった。


なお、こちらのランキングは比較的聞きやすい曲も多いため、「とりあえずボカロ聴いてみたい」という方にはぜひオススメしたいランキングである。

有名ボカロ曲、1秒あたりどれくらいの速度なのか?


では、本題として「有名ボカロ曲は、1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか?」を見てみよう。今回調査したボカロ曲の秒速を1秒ごとに区切って分類してみたのが以下である。
人気ボカロ曲は1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか? 最も早口は「初音ミクの消失」
有名ボカロ曲は1秒あたり何文字の速度で歌っているのか?(C)エキサイトミュージック

0~1文字:1
1~2文字:16
2~3文字:25
3~4文字:28
4~5文字:9
5~6文字:1
6~7文字:1
7文字以上:1


結果を見てみると、最も多いのは「1秒あたり3〜4文字」、全体の平均は「1秒あたり2.91文字」という結果になった。個人的な意見だが、毎秒3文字を超えてくると「いかにもボカロ!」という曲が多く、今の20~30代なら思春期にココをめがけて聴いていた方も少なくないのではないか、という気がする。例外はあるが、毎秒3文字ぐらいで歌うのが「ボカロっぽい曲」だと言えそうだ。

ちなみに、2015年のNHK紅白歌合戦で小林幸子が歌ったボカロ曲「千本桜」は、1秒あたり2.55文字。
一般的にいけば普通の早さの曲になるが、ボカロの平均からすればやや遅い曲にあたる。お茶の間に届くまでのヒット曲になった背景には、聞きやすい早口だったことも影響しているのかもしれない。

最も早口好きのボカロP 1位は「wowaka」


では最後に、今回のカラオケ人気曲リストに、2曲以上ランクインしている14人のボカロPを曲の速度平均順に並べてみた「最も早口好きのボカロPランキング」を見てみよう。
人気ボカロ曲は1秒あたり何文字ぐらいの速度で歌っているのか? 最も早口は「初音ミクの消失」
【ボカロP】早口大好きランキング(C)エキサイトミュージック

1位:wowaka/毎秒5.0文字
2位:ハチ/毎秒3.8文字
3位:Mitchie M/毎秒3.7文字


早口ランキングの1位に輝いたボカロPは、楽曲ランキングでも上位に入ったwowaka。「アンノウン・マザーグース」「裏表ラバーズ」など、抑揚をおさえたまま、ろれつを回しまくる高速曲が(特にカラオケでは)人気のようである。

2位につけたのは米津玄師ことハチ。
「砂の惑星 feat.初音ミク」「結ンデ開イテ羅刹ト骸」の2曲がランクインしているが、早口なこと以上に「ひたすら歌いっぱなし」の曲が多く、ボカロPとしては歌うとカロリーを消費しそうな曲を多く作っているようである。

そして3位は「好き!雪!本気マジック」や「FREELY TOMORROW」がランクインしたMitchie M。こちらも非常に早口な曲というわけではないが、ほぼ休みなく歌わせているのがボカロらしい(ただし、声はかなり人に近いと思う)。

というわけで、今回の調査はここまでだ。「普段は人間の声しか聴いていない」という方も、これを機にボカロを聞いてみたいと思ってもらえれば幸いである。初音ミクが世に出てから10年を超え、ボカロカルチャーも移り変わりつつあるが、個人的には形を変えてこれからも面白い曲が出てきて欲しいなと思う。

■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。

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