6月28日、礼賛が日比谷野外音楽堂でワンマンライブ「礼賛と野音」を開催した。今年は夏フェスにも多数出演し、11月6日には日本武道館でのワンマンも控えるなど、勢いに乗る礼賛。
この日はYouTubeでの生配信も行われ(※7月31日まで期間限定アーカイブ配信、詳細は記事末尾にて)、結成から4年が経過して、バンドとしての充実期を迎えつつある礼賛の様子を会場内外の多数のオーディエンスが目撃した。

Photo by Daiki Miura

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僕が2時間のライブを見終えてまず思ったのは、礼賛がサーヤのバンドになったということだ。これはちょっと誤解を生みそうなのでもう少し丁寧に書くと、礼賛というバンドは川谷絵音、休日課長、木下哲、GOTOというそれぞれが高い演奏技術を持ち、オルタナティブなロックとダンサブルなビートミュージックを横断するアレンジメントにも長けた素晴らしいミュージシャンの集まりであって、彼らの奏でるアンサンブルが重要であることはもちろん言うまでもない。しかし、そんな4人がいてもなお、ステージにおける中心はあくまでサーヤだった。

アートワークからして個性的なメンバーの集合体であることを示した『SOME BUDDY』をリリースしたのち、アルバムを引っ提げてツアーを行ない、そのツアーを完遂したことによって、ステージの中央に立つシンガーとしてのたくましさと自信を身につけ、現在では間違いなくサーヤがバンドを引っ張っている。一時期までは川谷がMCなどでサーヤをサポートしていた印象だが、現在はそこも完全に任せているのは大きな変化。もともとこうありたいと思っていた理想形に、4年をかけてたどり着いたと言ってもいいかもしれない。

そんな現在の礼賛を象徴するかのように、この日は開演時刻を過ぎてまず楽器陣がステージに姿を現すと、「『礼賛と野音』、盛り上がっていきましょう!」の声とともにサーヤがサプライズで客席から登場。大歓声を浴びながらオーディエンスの間を通って客席の中央まで移動すると、そこで「PEAK TIME」を歌い始め、野音はいきなりのピークタイムを迎える。そのアイコニックな存在感とパフォーマーとしての度胸はやはり確かなものだ。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


ステージに戻ってからも「むちっ」や「NO SWEAT」のようなポップなナンバーから、「SLUMP」や「愚弄」のようなオルタナ感のあるナンバーを自在に歌い、「今日帰ったとき、ちょっとでもみんながポジティブになれてたら嬉しいなと思います」と話して披露された「鏡に恋して」では、ミュージックビデオでも印象的だったダンサーが登場してステージをさらに盛り上げる。礼賛の初期は芸能活動の中で感じた負の感情を投影した楽曲が多かったりもしたが、礼賛の中でも最もポップなメロディーに乗せて、自己肯定/セルフラブを歌い上げるこの曲の存在自体、現在の礼賛のポジティブなムードを反映していると言えるだろう。


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


ライブ中盤、礼賛のライブではお馴染みになったカバーコーナーでは、以前にも披露したマルーン5の「Sugar」に加え、MISIAの「つつみ込むように」を披露。高い歌唱力が求められる曲であることは言わずもがなだが、サーヤの堂々とした歌いっぷりはお見事。サーヤは礼賛で歌詞とともにトップラインも担当しているわけだが、以前のツアーでは宇多田ヒカルの「traveling」や「Automatic」をカバーしてもいたように、彼女のポップセンスは日本のR&Bの新たな時代の幕開けとなったあの頃に由来しているのかもしれない。「Y2KのR&Bをバンドスタイルで今に更新する存在としての礼賛」というのも面白い見方だと思う。

熱い夜を盛り立てる楽器陣

ここまでサーヤを中心に書いてきたが、楽器陣の存在感も触れないわけにはいかない。「つつみ込むように」ではエモーショナルなギターソロで衝動を表現した木下の存在があるからこそ、礼賛はロックフェスの大舞台も似合うし、カッティングを軸とした川谷とのツインギター編成だからこそ、ヒップホップやR&Bに寄りすぎない礼賛の独自性が生まれている。また、「Parasite」では休日課長がテクニカルなフレーズで魅せ、間奏のトランスパートで文字通りのカオスを生み、オーディエンスが一斉にジャンプをした「Chaos」でも、タッピングを駆使したソロが実に素晴らしかった。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


そしてもう一人、GOTOのドラムはやはりこのバンドにとって欠かせないもの。自身のバンドであるDALLJUB STEP CLUBではベースミュージックやポストダブステップを生演奏するGOTOだからこそ、ジャージークラブもドリルも飲み込んだ礼賛のビートミュージック的な側面に大きく貢献している。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」、チャーリーXCXの『BRAT』、さらには米津玄師の「Plazma」などもあり、2025年はエッジーなクラブミュージック色の強いJ-POPがさらに増えた印象で、GOTOの活躍の幅はより広がっていくかもしれない。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


そんなGOTOと休日課長のテクニックを誇示すべく、来場時に譜面が配られていた変拍子×ポリリズムの激ムズフレーズを生演奏するコーナーに大歓声が送られ、「これぞ音楽界のTRUMANでございます!」という紹介で始まった「TRUMAN」からはクライマックスの連続。「オーバーキル」では川谷と課長がステージ前方に出てオーディエンスを煽り、「スケベなだけで金がない」でコール&レスポンスをして、「めちゃめちゃ熱い夜になりましたね。
これ間違いなく、熱帯夜ですね」というMCから、こちらもお馴染みになったRIP SLYMEのカバー「熱帯夜」では川谷のラップもフィーチャー。さらに「みんなであの合言葉を言って、私の友人に熱い声を届けたいと思います」という一言から「GOLDEN BUDDY」を畳み掛けて、場内の盛り上がりは最高潮を迎えた。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


ポジティブに背中を押す、表現者としての成長ぶり

本編最後のMCでサーヤは、メンバーの「かっこいい、尊敬すべきお兄ちゃんたち」に触れ、「私は胡座をかかずにやらなきゃ。才能に囲まれてだらだらするのはやめよう。そう思って、頑張ってやってきたつもりなんですけど、こういう形で日比谷野音と礼賛を楽しんでいただけて、本当に嬉しかったです。今後もいっぱいいっぱい曲も作りますし、またみなさんと一緒にこうやって遊べる機会ができるように頑張りたいと思います」と話した。実際にサーヤは礼賛としてのデビュー時から一貫して「私は音楽の世界では初心者」としてのスタンスを崩さず、お笑いや役者としての活動も並行しながら努力を続け、「お兄ちゃんたち」に必死で食らいついてきたのだ。

しかもそれをお涙頂戴の物語にすることなく、あくまでポジティブに、楽しんで、ラップは好きでもビーフはせず、負の感情は楽曲に(またはコントに)昇華して、クルーを大切にしながら歩みを進めてきたからこそ今がある。「これからも礼賛らしく頑張っていきます。焦らず、でも全力で、みなさんもそういう毎日を送ってくれたら嬉しいです。つまり、take it easy!」というMCから最後に披露された「take it easy」の〈ここでまた意地見せつける この声に澱みはない〉〈ここまでの日々 否定されるような筋合いはない〉というラインは、今のサーヤが歌うからこその説得力が確かに感じられた。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


アンコールでは「礼賛では珍しい恋の曲」として、新曲「ホレタハレタ」を初披露。
「『惚れた腫れたは当座の内』って親世代が言うでしょ? マイナスで使われるのが嫌だなと思って。いいじゃん、恋してるときくらい浮かれてて、っていう曲になってます」と話して、「今恋してる人とかいるの?」と呼びかけると、ギャルの女の子が両手を広げて叫んだのを見て、「背中押します。頑張ってね。あの子に歌おうか」と笑いながら曲を始めたのはこの日随一の名シーン。「鏡に恋して」もそうだが、現在の礼賛はよりポジティブに、聴き手をエンパワーメントする表現者としての地力を身につけていて、それが楽曲自体の開かれた雰囲気に反映されているのがとてもいい。そして、そんな曲を歌えるようになったのは、自身の過去と現在の葛藤を赤裸々に綴ったこの日のラストナンバー「生活」のような曲があってこそ。力の入れ具合と抜け具合の絶妙なバランス。今の礼賛はとってもいい感じだ。

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間


日比谷野外音楽堂ワンマンライブ「礼賛と野音」アーカイブ配信
※7/31(木)23:59までの期間限定公開

礼賛、野音で示した理想的な進化 サーヤと「お兄ちゃんたち」が鳴らす圧巻の2時間

「礼賛と野音」セトリプレイリスト
▶︎https://raisan.lnk.to/yaon

礼賛 ONEMAN TOUR『BayBay』
2025年10月30日(木)大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年11月1日(土)愛知・COMTEC PORTBASE

礼賛 日本武道館単独公演
2025年11月6日(木) 東京・日本武道館

礼賛 公式ホームページ:https://ooooooooooxxxxxxxxxx.wixsite.com/raisan
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