菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」。菅田演じる冴えない高校教師、柊一颯(ひいらぎ・いぶき)が、爆弾とナイフと格闘術を武器に生徒29人を人質に取って「最後の授業」を行うという物語。
「今クールでナンバーワンの注目ドラマ」という枕詞もつくようになってきたが、先週放送された第4話の視聴率は一息ついて9.3%。
菅田将暉「3年A組」は現代版「スクール・ウォーズ」か。教師と生徒がタイマン張るための壮大な仕掛け4話
イラスト/Morimori no moRi

誰も殺していなかった柊一颯


第4話ではオープニングでは、これまでの柊の手口が明かされた。中尾蓮(三船海斗)は殺されたのではなく、用意した血糊にナイフを突き立てただけ。甲斐隼人(片寄涼太)に放り投げたのもダミーの手首だ。いちいち説明的なセリフを挟まず、映像だけで見せていくスピード感がいい。

正直なところ、あんな手首じゃバレるだろう? とか、そんな強い眠り薬あるのか? など、ツッコミどころ満載なのだが、一応筋は通っている。なにより、柊は生徒をぶん殴ったり、投げ飛ばしたりはしているが、根本的に傷つけるつもりがないことが判明したのが大きい。彼は本当に生徒たちのために“俺の授業”をやろうとしているのだ。

教室では、いつの間にか茅野さくら(永野芽郁)と宇佐美香帆(川栄李奈)が連帯していた。U23の若手女優最強タッグだと思う。極限状態が続き、3年A組にもギスギスした空気が流れるが、視聴者が不快になるギリギリのところで回避している。これは『3年A組』が始まって以来、ずっと保たれている、お茶の間で流れるドラマとしてのコード。過激なストーリーだが、視聴者が胸糞悪くなる一線を超えないところが人気の秘訣かもしれない(田辺誠一をコメディリリーフに使っているのも、そういう理由だろう)。


柊による今日の授業は「フェイク動画を撮影するよう指示した人間は誰か」というもの。誰も名乗り出ないと思ったら……。甲斐が挙手! ここまででアバンタイトルである。繰り返すが、スピード感と情報量がすごい。

「3年A組」は現代版「スクール・ウォーズ」!?


「お前が! 抱いた悩みや! 苦しみを! 誰かにぶつけたか? 仲間に、クラスメイトに、教師に! どうしてもダンスがやりたい! 誰か助けてくれって、お前はすがったか!?」

今回の柊の地獄説教は、甲斐に対して炸裂した。あらましはこうだ。乱暴者の甲斐だが、実はダンスに打ち込む青年だった。しかし、片親の母親が半身不随になり、ダンスを断念して家計を支えることになる。いい子じゃないか。そこへ近寄ってきたのが、半グレ集団、ベルムズ(綴りが「Berumuzu」ってローマ字なのは何なんだろう?)。影山澪奈(上白石萌歌)を誘い出せば、大金をくれてやるというのだ。そのときはすんでのところで澪奈を助けたが、再び大金につられて澪奈を陥れる動画づくりに加担していた。

その原動力になったのが、甲斐の醜い嫉妬だ。
どうして自分だけ理不尽な目に遭うのか? どうして澪奈だけが夢に邁進できるのか? それなら足を引っ張ってやれ……。SNSによくいるタイプの男だな、甲斐。

スタイリッシュに殴り合いながら、甲斐は自分の気持ちを怒鳴り、柊は説教をかます。これ、昔の青春ドラマでよく見たパターンだ。『スクールウォーズ』では山下真司と生徒役の小沢仁志がこうやってタイマンで殴り合って和解していた(このときの小沢の役柄も不遇な母子家庭だった)。今の時代、学園ドラマで教師と生徒が殴り合う描写なんて絶対に不可能だろう。先日、教師が生徒を殴る動画が拡散されて大問題になったのは記憶に新しい。あのときも「教師は絶対に手を出したらいけない」という論調があった。

教師と生徒がタイマン張って気持ちをぶつけ合うためには、こんな荒唐無稽な仕掛けが必要な時代になった、というのが正直な感想だ。甲斐は髪を掴まれ、大声で説教されて涙を流す。彼は家族をダシに、ベルムズのKに脅されていたのだ。

物語は教室の外へ……?


さくらによって、柊が誰も殺していないことが3年A組の生徒たちに伝えられた。
と同時に、澪奈を陥れようとした黒幕はベルムズの首領K(『アンナチュラル』で自殺志願者を集めて殺していた男・栄信)であることが判明する。ただし、Kは郡司(椎名桔平)にボコボコにされて逮捕された。彼の裏にさらに誰かいると考えたほうが良さそうだ。

第4話からは外部の物語も大きく動きはじめた。柊の恋人であり、教師の相楽文香(土村芳)をめぐるストーリーだ。柊が事件を起こしたのは、影山澪奈(上白石萌歌)の自殺の真相を知るため。だが、文香とのことも明らかに彼の大きな動機になっている。文香の口からもベルムズの存在は語られていた。柊に「犯人に心当たりは?」と訊ねられた文香が「ない」と答えたとき、雷鳴のようなBGMが流れた。彼女の言葉は額面どおり受け取らないほうがいいのかもしれない。

柊の重篤な病気も前に出てきた。以前から薬を飲んでいたが、とうとう肩で息をするようになってきた。
激痛でカクカク糸が切れた人形にように動く菅田将暉を見て、一瞬爆笑しているのかと思った……。自分の死期を悟った上での「最後の授業」なのだろう。

そして、これが一番大事なポイントなのだが、柊は人を殺しかねないマッドでサイコな人物ではなく、人を傷つけない理性的な人物だということが生徒たちと視聴者にわかってしまった。これでは「何が起こるかわからない」というサスペンスがなくなってしまうのではないだろうか? もちろん、製作者側としては、そんなこと最初から織り込み済みだろう。

予告を見ると、今度は柊と生徒たちが共闘しそうな雰囲気がある。学校に立てこもって外部の権力者たちと戦う「ぼくらの七日間戦争」みたいになっていくのだろうか? 本日、「第一部完」。やみくもに外部に話を広げていって失速しないか心配だ。杞憂に終わればいいが。10時30分から。

(大山くまお)

「3年A組─今から皆さんは、人質です─」
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中
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