今、「ABW」が働き方改革のひとつの戦略として注目を集めている。ABWとは「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」のことだ。
行動面、空間面、IT環境面のアプローチを組み合わせて、個人の自己裁量を最大化し、結果として生産性を高めるための働き方戦略だ。
このABWを実現する重要な要素として、「空間=ワークプレイスの変革」がある。
例えば、ITエンジニアであれば、ITエンジニア特有の日々の行動、必要な空間やIT環境をベースに、オフィスや働く環境を構築する。
ABWを実施した場合、ITエンジニアはどんなワーク環境になるのか。具体的なデスクや椅子などは気になるところ。このABWを展開するオフィス家具大手のイトーキに聞いた。
ITエンジニア向きの作業環境とは?
ABWにおけるITエンジニア向きの作業環境や、ITエンジニアならではの環境づくりのポイントについて、イトーキの空間デザイナーで一級建築士である星幸佑さんは次のように話す。
「ITエンジニアにも職制や業務フローの内容ごとに作業特性があると思いますので、基本的な考え方としてそれにあわせた環境づくりが大事です。
エンジニア自身は、プログラミング等の集中を要する作業や、仕様策定のためのアイデア出し、またプロジェクトマネージャーは、エンジニアとの進捗確認や課題共有、また外部の協力会社とのWEB会議等、作業特性もさまざまです。つまり我々が謳っているABWにおける10の活動とも非常に親和性が高く、ITエンジニアのオフィス構築手法としても活用できると考えています」
「特に、2人での“協力作業や共有(デュオワーク)”や1人での“高集中作業”、仕様策定のための“アイデア出し”などはITエンジニア向きの作業特性と言えます。その中でもデュオワークはITエンジニアにとって特徴的で、2人で同時並行的に緊密に作業・共有する環境を整えてあげることは、それぞれの活動の中でも時間割合も大きいため、とても重要と認識しています。
一般的には自席にいながらずっとPCと向き合っていると思われがちなITエンジニアですが、実はさまざまな特性をもった作業や活動を業務フローに応じて行っているので、それぞれの作業特性にあった環境をオフィス全体として設けてあげることが一番のポイントではないかと思います」
ITエンジニア向きのデスクとチェア
ABWにおいて、ITエンジニア向きのデスクとチェアにはどんな特徴があるのか。
(1)自席
「TOIRO DESK」静かでスムーズな電動式の上下昇降デスク
●上下昇降デスクと可動肘付チェア
「まず前提としてデスクとチェアはセットで考える必要があります。ITエンジニアは長時間の利用が想定されますの で、体のどこか1か所に負担がかかり続けるのを避けなければなりません。
そう考えると、1人の作業環境の場合は、姿勢を変えられる『上下昇降デスク』と、背もたれの角度調節範囲が大きく、座面もその動きに追随する『可動肘付チェア』が望ましいです。さらに言うと、姿勢によってモニターまでの視線の角度・高さ・距離が変わるので『アーム式のモニター』が必須と言えます」
「FLIP FLAP CHAIR」
深い後傾姿勢のとれる折り紙の発想から生まれた多面構造で包むように支えるチェア
深い後傾姿勢のとれる折り紙の発想から生まれた多面構造で包むように支えるチェア
「ACT CHAIR」
動きやすい背もたれと新開発の4Dリンクアームで最適な肘位置にアジャストできるチェア
動きやすい背もたれと新開発の4Dリンクアームで最適な肘位置にアジャストできるチェア
●姿勢を臨機応変に変えられる家具
「特に立位姿勢、通常の基本姿勢、後傾姿勢として考えると、立位姿勢は足に重心を預けた姿勢、通常の基本姿勢は腰に重心を預けた姿勢、後傾姿勢は背中に重心を預けた姿勢で、これらの作業姿勢を、例えば一日の中で変えることによって、それぞれ身体的負担を分散しながら作業ができる環境を家具で整えてあげることが重要です」
「FOCUS CUBE(高集中作業個室)」通常の基本姿勢での作業時
「FOCUS CUBE(高集中作業個室)」立位姿勢での作業時
「FOCUS CUBE(高集中作業個室)」後傾姿勢での作業時
(2)高集中席
「FOCUS CUBE(高集中作業個室)」
●高集中のためのパネル
「さらに1人の“高集中”な作業席をオープンな執務エリアとしてセッティングする場合、視線や音に配慮することが重要ですので、必然的にパネルで囲ってあげる必要があり、推奨の高さは座った際に頭がちょうど隠れる高さが最低の高さとして必要です」
●サウンドマスキング
「音に関しては、オフィス全体ではサウンドマスキングを設置することを推奨しますが、むずかしければ個人がイヤホン等で対応するなどでもよいでしょう」
●タスクライト
「光環境も集中度合に影響しますので、できたら光の色が変えられるタスクライトがあるとさらに良いと思います」
(3)2人で作業をする席
●共有モニター
「2人での“協力作業や共有”の場合は、大きな共有モニターが個人のPC以外に別途1台あるのが理想です」
●吸音パネル
「周囲に声漏れなどの影響が出にくいよう、吸音パネルも有用です。個室の良い点はプログラムの仕様整理時に使用したホワイトボードなどを壁に貼れるという利点もあります」
「DUO CUBE」:2人の協力作業を行う部屋
イトーキのITエンジニアの変化
実際、イトーキ社内でもABWが運用されている。情報システム部門のITエンジニアは、これまでサーバールームの近くのセキュリティのかかった専用の個室内の固定席で働いていたが、ABWとして整えられた環境に変化した。
まだ運用が始まって1ヶ月ほどだが、次のような声も聞こえてきているという。
「他の部門との会話がとても増え、今後の改善要望をすぐに聞けるようになった」
「ちょっとした共有時にDUO(2人の協力作業を行う部屋)などを使って共有がしやすくなった」
「集中して作業に取り組める」
「作業時間をより意識するようになった」
星さんは社員の変化について次のように話す。
「社員からの所感をヒアリングする中で、『WEB会議はあそこで、システム説明会はあそこで、仕様決めはあそこでやろう』などと、できあがったオフィス内の場と活動の定義を起点としながら、これからやりたいこと・すべきことを頭で膨らましていたのが印象的でした。
この『自ら働き方をデザインする』、ということこそがABWになって、大きく変わった点ではないかと思っています」
【取材協力】
星幸佑さん
2003年 株式会社イトーキ入社。一級建築士。
空間デザイナーとして、顧客企業のファシリティ戦略の策定からオフィス移転・リニューアルにおけるインテリアデザインを経験。本社移転プロジェクトではメインデザイナーとして推進
ITOKI TOKYO XORK「ABW」
(石原亜香利)
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