
長期で海外に住もうと思った時、心配になるのは収入源だろう。筆者も以前ワーキングホリデービザでシドニーの空港に降り立った時、「オーストラリアでやっていけるか」「アルバイトをどうしようか」と、ため息をついたのを覚えている。
就労可能な身分でオーストラリアに滞在できても、レストラン、居酒屋、バーで誰でも働けるとはかぎらない。飲食店のホールサービスの仕事でも資格を要求されるからだ。飲食店以外にも、日本では資格が必要ない職種も、オーストラリアでは資格が要求されることがある。
アルコールを出す飲食店で必要な資格「RSA」とは
オーストラリアではRSA(アルコールに関する責任あるサービス)という資格がある。この資格はアルコールを正しく扱うことを証明する資格だ。同資格を持っている人でないと飲食店でアルコールを扱えない。
さらにRSAは州ごとになっている。シドニーのある東南部ニューサウスウェールズ州では、オンラインまたは学校での資格取得が推奨されている。一方で、南部ビクトリア州ではオンラインでの取得が認められておらず、ニューサウスウェールズ州で取得しても再度取り直しを要求される。州によって定められた項目や要求に応じなければならない。
RSAさえあれば、逆に多少英語が不安でも、日本食レストランなどでは仕事がしやすい。
建設作業員に要求される資格「GIT」と「ホワイトカード」
都市開拓の進んでいるシドニーでは、至るところで工事をしているため、毎日ドリルで地面を削る音が聞こえている。シドニーの建築現場は男性が多いが女性もいる。男性は建設中の建物内や足場での作業、女性は建築現場周りの交通整理などをしている。

これら建築現場で働くにも資格が必要になる。GIT(州間一般建築導入トレーニング)カードまたはホワイトカードという認定証だ。これを持っているということで、職場の安全性、危険性およびそれらを管理する基礎知識があることを証明する。
ニューサウスウェールズ州政府の管理するSafeWork NSWのサイトでは、2012年1月1日以降発行されたGITカードまたはホワイトカードは同州だけでなく、オーストラリア全土で有効となり、国一律の資格になっている。
特殊野生動物のケアにも資格は必要
野生動物の保護はオーストラリアでもよくある。傷ついた動物がいた場合、動物病院へ連絡すると、そこで介抱される。野生動物にはコアラ、カンガルー、ポッサム、ディンゴやタスマニアンデビルなどのオーストラリア特有の動物もいれば、トカゲ、ヘビやワニなどの爬虫類も保護されることがある。動物病院でも対応できないくらい保護される野生動物がいるため、リハビリテーション許可証という資格を設けている。

ただし許可証があれば保護が簡単というわけでもない。
野生動物の保護は大変な仕事になるが、ほぼボランティアであるため、根気があり、動物を愛していないと気が滅入ってしまう作業だ。
なぜオーストラリアでは資格・許可制なのか?
RSAについては、ニューサウスウェールズ州の管理しているウェブサイト「Department of industry」にアルコールを扱う上での責任が記載されている。「アルコール中毒の症状を知り未然に中毒者を出さないこと」「18歳未満にはアルコールの提供をしないこと」「標準的な飲酒水準を把握することなど飲酒の仕方や状況に注意をすること」が挙げられる。オーストラリアでは店員が提供する客の様子を見て、中毒になりそうか、暴れ出しそうかなど、プロとして調整することになる。
GITカードやホワイトカードは最低14歳から取得できる(ニューサウスウェールズ州管理のウェブサイト「SafeWork NSW」より)。建設現場は、一時居留者であるワーキングホリデービザの保持者が働く場所にもなっているが、未経験者も当然いる。しかし建築作業には危険が伴うため国家一律の資格を設定し、職場安全性や訓練を受けてから街づくりに携わることになっている。
リハビリテーション許可証は、Wildcare Australia Inc.のウェブサイトによると、オリエンテーションおよび救助と応急処置(基本)のレッスンを受け、野生動物を介護するためのものだ。オーストラリアの特殊動物であるコアラの例では、獣医学を学び、生物学や解剖学といった専門知識も要求される。
オーストラリアは一時居留者や移民が多く、入国と同時に職をほしがる人が性急に行動して事故などを起こさないように、安全性や危険性の知識を要求している資格が多い。動物に関しても、有袋類などの特殊動物がいるため、絶滅を避けるためにも高度な知識を要求される。
(青砥えれな)