
年齢なんてただの数字。この日その言葉を世界でいちばん実感したのは、クラブeXに集まったオーディエンスだった。
くるりと観客を見渡した後、キーボードの前に座った彼が奏で始めたのは、TRICERATOPSの「虹色のレコード」だった。バンドサウンドで聴き慣れたはずの曲が、歌声とエレピだけで綴られていく。手を伸ばせば届きそうな距離で観客が見守っているという親近感も加わり、エレピだけをまとった歌声からは、曲に刻まれた彼の恋愛観や音楽観が驚くほど浮き彫りになっていく。



アコギに持ち替え、「歌える?」と観客を巻き込み披露された「Shout!」の後は、ギターのカッティングで作るグルーヴが鳥肌ものの素晴らしさだった「シラフの月」を熱唱。演奏が始まると同時にステージがゆっくり回転し、客席から歓声が沸き起こる。すると、「自信があるかないかでいえば……ある!」とMCで断言していた彼のおしり側だった客席も、いつしか正面席に。とはいえ、この会場のステージ頭上には360度どの方向からも見えるスクリーンがあり、つねにどの席からも和田の表情が確認できる。「全方向から見られるこの感じ、気持ちいいですね」とステージで和田本人も語っていたが、この場合、普段滅多に凝視できない彼の自慢のおしり側の席の方がむしろ貴重だったかもしれない。
「俺がCHABOさんに憧れるのは、シンガーソングライターとしての世界観を確立していて、なおかつギターヒーローという2つを持ち合わせていること。
その場で演奏を重ね録りしてループさせる<ループペダル>を使い披露された「1975」を演奏する直前、和田唱はこの日の共演相手として即座に思い浮かべたという、CHABOへの思いを語った。かつて、CHABOのリスペクトアルバム『OK!!!C'MON CHABO!!!』に和田がTRICERATOPSとして参加。そのトリビュート盤のお礼としてCHABOが開催したイベント『CHABOの恩返し』で、2人は今から8年前に初めてアコースティック形式で共演。その感慨が忘れられず、今回の共演を和田からオファーした。


エリック・クラプトンをきっかけにギターの魅力にのめり込み、ブルースや古いロックンロールにハマっていったという和田。彼にとって、ザ・ローリング・ストーンズやヴァン・モリソンから黒人音楽に魅了され、忌野清志郎という唯一無二のフロントマンと共に日本のライブシーンを切り開いてきたCHABOの軌跡は、憧れそのものだったはず。だからこそ、昨秋に1stソロアルバム『地球 東京 僕の部屋』を発表し、新たな道を歩き始めたこの時期に再びCHABOとの共演が実現したことは、私たちが想像する以上に、和田にとって重要な意味を持つのかもしれない。
最後に披露されたのは、ソロアルバム『地球 東京 僕の部屋』からの1曲「Home」。再びエレピで弾き語られていく、1人の人間としての彼の生き様や人柄が嗅ぎとれるその歌声は、和田ファンのみならず、CHABOファンの心も温かく包み、美しい余韻を残していく。
ビートルズの「グッド・デイ・サンシャイン」が流れる中、楽屋へ戻ろうとするお茶目な素ぶりを織り交ぜて、白地に黒のドット柄のシャツと黒のキャスケット姿のCHABOが登場した。


「俺、和田くんみたいにケツに自信ないんですよ。
360度から観客が見守る円形ステージの中央でギターを抱えてそうつぶやきつつ、「あいさつ替わりに短いブルースを」と言ってCHABOが最初に披露したのは、「Final Carve~よーこそ~」。「声が出た方に向くよ」と観客をさりげなく刺激し、<お招きありがとう、和田唱>という即興フレーズを交え、一瞬で両者のファンの心をひとつにする。「ブルースをぶっ飛ばせ」では、事前のインタビューで和田が絶賛していたパキーンと通ったタフなギターサウンドと聞き手の心を鷲掴みにする歌声を響かせ、観客を巻き込んでパフォーマンス。その圧巻の姿は年齢など微塵も感じさせない。
「愛とギターとロックンロールがあれば、年の差なんて! 和田くんは俺のトリビュートで、とっても意外な曲をやってくれました。それがすごい嬉しかったんだ。その記念にやっちゃおうかな。こんな日だから歌わせて」
そう言って彼が奏で始めたのは、古井戸時代の名曲「ポスターカラー」。熱心なCHABOファンでさえ、生で聞く機会が滅多にないレア曲だけに、場内からどよめきが沸き起こる。だが、デザイン学校時代の失恋を描いたという切ないその曲は、懐かしさどころか、2019年にふさわしい瑞々しくて柔らかなギターの音色をまとい、驚くほど新鮮な輝きを放っていく。時代や年齢を超え、CHABOがずっと音楽ファンに慕われているのは、こんな風に彼がさりげなく進化し続けているからなのだろう。
「唱くんの曲、やります」という言葉の後に披露されたのは、まだ和田唱自身もライブで演奏していない彼のソロ曲「夜の雲」だった。



心地よい緊張感を堪能した後は、「清志郎くんはまだそこら辺にいる気がする」という言葉と共に、RCサクセションの「君が僕を知ってる」を披露。かけがえのない相棒に届けるように、力強いギターを鳴らして歌い、指先を高くあげて天を仰ぐようにCHABOが微笑むと、「キヨシロー!」と叫ぶ声がフロアから上がる。
さらに、「ポール・マッカートニーのコード進行を一生懸命真似たんだよ」という「ポスターカラー」に続き、ビートルズの「The Long &Winding Road」をCHABOいわく「テキトーな日本語バージョン(笑)」で熱唱。「土曜日にしか歌わない曲」という「映画に行こう」や「歩く」ではさらっとザ・ローリング・ストーンズのリフを交えて演奏するなど、終始、今回のイベントに招いてくれた和田唱への愛にあふれたパフォーマンスを披露した。
「びっくりしましたよ、ああいう手があったのかと」
朗読形式で披露された「夜の雲」がサプライズだったことを、アンコールで登場した和田が語ると、その横でCHABOが優しく微笑む。上着を脱いだラフなスタイルになった2人が向かい合ってCHABOの名曲「ティーンエイジャー」を熱く鳴らし始めると、ステージがゆっくりと回り始めた。「年齢的にステージを回さないで」と頼んでいたというCHABOは、「プリーズ、ヘルプ・ミー。回ってる(笑)」とうろたえながらも、「意外と気持ちいい」と、回転する舞台を楽しんでいる。


「こういうことは同世代のミュージシャンとはなかなかできません!」と和田が嬉しそうにこぼした「CROSSROADS」でブルージィーなリフを力強く鳴らし合った後は、かつて和田がフェスでカバーしたRCの「スローバラード」をデュエット。和田がサビを全身全霊で歌い上げると、CHABOがそれをしなやかなギターでしっかりと受け止める。
「僕は「スローバラード」でラストにしたいって言ったんです。だけど、ダメだ、そうはいかないよと言ってCHABOさんが選んでくれました」
和田唱の紹介でアンコールの最後に披露されたのは、TRICERATOPSの「NEW WORLD」。それは以前、『CHABOの恩返し』でCHABOがカバーしたナンバーであり、「TRICERATOPSの中でも通な曲。今日CHABOさんがやってくれた「夜の雲」も俺、まだ自分のライブで一回もやってない曲なんですよ」と和田が解説。やがて2人が演奏を始めると、「NEW WORLD」に描かれた<新たな時代>が、「愛とギターがあれば年の差も超える」CHABOの信念と重なって響く。事前のインタビューで2人が語ってくれた福岡での初めての出会い。あの時CHABOが和田にかけた、「これからもいい曲書いてね」の一言。それが20数年後、こんな風に実感できるとは一体誰が想像しただろう?


「『CHABOの恩返し』からの8年分、俺が成長できてたらいいんだけどね」
終演後、今夜の手応えをたずねると、和田唱はそんな風に話してくれた。言うまでもなくその答えは、「スローバラード」→「NEW WORLD」と続いた2人の競演の後、観客全員がスタンディングオーベーションと笑顔で称えたあの場面にすべて集約されていたように思う。
「CHABOさんのこの感じ、いいよね」と和田が言う。あくまでもいつも通り。だが、互いへの敬愛にあふれたこの夜は、確かに特別な瞬間の連続だった。

「今度は8年もあけないでまたやりましょう」「よし、ツアーに出よう(笑)」
この日ステージで交わされた二人の約束が、近い将来、何らかの形で実現される時が来るのを心待ちにしていたいと思う。
(取材・文/早川加奈子)
セットリスト
■和田唱
1. 虹色のレコード
2. Shout!
3. シラフの月
4. アクマノスミカ
5. 1975
6. Home
■仲井戸“CHABO”麗市
0. Final Curve~よーこそ~
1. 春よ来い(Short Version)
2. ブルースでぶっ飛ばせ
3. ポスターカラー
4. 夜の雲(Reading)
5. 君が僕を知ってる
6. The Long&Winding Road~映画に行こう
7. 歩く
■仲井戸“CHABO”麗市×和田唱
1. ティーンエイジャー
2. Crossroads
3. スローバラード
4. New World