
人前に立つ僕らはちゃんと言葉を選ばなきゃいけないし、そこに嘘があってはいけない
――タイトル曲「Answer」は、昨年夏から秋にかけて行われた全国ツアー『Kazuki Kato Live“GIG”TOUR 2018-Ultra Worker-』の後半ですでに披露されていたそうですね。
加藤:はい。ライブで新曲を披露しようということで曲集めをしていきました。
――歌詞のテーマは曲に合わせて決められたんですか?
加藤:曲自体がすごく耳馴染みがよくて、疾走感があるので、ストレートなメッセージをのせたいと思ったんですけど、そのときに、もともと自分が感じていた、現代社会に対するメッセージを書きたいなと思ったんです。いつもは曲を聴いたイメージで書くことも多いんですけど、今回は逆というか、自分が思っていたことと曲調が合致したという感じですね。
――さまざまな情報が飛び交う現代社会の中で、“自分だけの答えを見つけろ”という力強いメッセージが印象的でした。
加藤:今って、フェイクニュースをはじめいろいろな情報があるじゃないですか。その中で、僕自身もそうなんですけど、情報に踊らされたり、何が正しくて何が間違っているのかもよくわからず、大切なものを見失ってしまうような時代だと思うんですよね。だからこそ、SNSとかでも自分を隠して生きて行くことがラクだったりもして……。でも、それでも人は生きていかなければいけないし、そこから何を選択し、答えを導き出すかというのは自分自身で決めることなんだっていう。それは自分もすごく感じていたので、そこをストレートな言葉で書きました。
――加藤さんの場合、自分が情報に踊らされることがある一方で、自分自身についての間違った情報が出てしまう可能性もある立場でもありますよね。
加藤:もちろんそういうことはあります。
――この曲はリスナーへのメッセージであり、加藤さん自身の生き方の宣言でもあるんですね。
加藤:もちろんです。今回に限らず、歌詞を書くときはいつも自分自身にも言い聞かせながら書いています。なので、今回の歌詞も本当にリアルに自分が感じていたものだし、特に中盤の<気づけば独りで 誰にも言えなくて… それでも…生きていくんだ 自分の意志で>という部分は、普段からすごく感じていることをそのまま歌詞にしました。

――この曲をライブで聴いた方々の反応はいかがでしたか?
加藤:ライブが終わった後、みんなと握手をさせていただくときに「すごく刺さりました」って声をたくさんいただきました。
――この曲で歌われていることって、きっと誰もが心のどこかで感じていたりすると思うんですけど、なかなか実行に移せないというか。なので、加藤さんがこうして歌にしてくれることで、背中を押されるリスナーは多いと思います。
加藤:僕なんかもそうですけど、やっぱり自発的に何か物事を動かしたり、行動したりっていうのは、エネルギーがいることだし、難しいじゃないですか。なので、この曲がきっかけで動き出せる力になればいいなというか。そういう意味で、この「Answer」という曲は、僕自身も含めてすごく前に進める楽曲になったと思います。
――続く「ordinary days」はTYPE Aのほうに収録されるカップリングですが、こちらも作詞は加藤さんが担当されています。歌詞の中に出てくる<行きつけのcafeに寄ったら 何を頼もう ワクワク止まらない>というフレーズに、加藤さんにもこういうことがあるのかな!?と想像してしまいました(笑)。
加藤:あははは。まぁ、この曲は“日常の中の幸せ”をテーマにして書いたんですね。
――ここに描かれているのは、加藤さんの理想?
加藤:理想でもありますし、リアルに自分が感じていることでもあります。やっぱり、一歩外に出れば違う景色が見えたりするし、それが刺激にもなるわけだから、いろいろなものを見たり聞いたりすることはすごく大事だなって。たとえ同じような日々の繰り返しであっても、今日という日は明日になれば過去になってしまうわけだから、本当は毎日違う日々なんですよね。だったら毎日がオリジナルだし、特別と言えるはず。まあ、そんなこと誰も普段は意識しないですけど。でも、そう考えるとちょっとハッピーな気持ちになれると思うんです。同じ日は来ないからこそ、今このときを大切にしなきゃって思うし、無駄な時間なんて一瞬たりともないんだなって思えたりもしますからね。そういう意味では、ちょっと優しい気持ちになれる楽曲ができたと思います。
――たしかに、時間に追われているとそういったことに気づけないことも多いですね。
加藤:僕なんかもそうですよ。忙しく過ぎるだけの日々を送ってしまいがちだし、ここまでは頑張らなきゃなっていう日もありますし。でも、そういう中でも、僕は食べることが好きなので、ご飯だけは毎日楽しみにしています。今日は何食べようかなとか考えると、頑張れる。ちょっとしたことかもしれないけど、そういう自分へのご褒美は大切ですよね。

カバーでは、自分では出てこない言葉のチョイスとか楽曲の持つ深みとかが刺激になった
――一方、TYPE Bには、さだまさしさんの名曲「奇跡~大きな愛のように~」のカバーが収録されています。こちらは加藤さん自身が「こんな時代だからこそ人の心にそっと寄り添いギュッとつかまれた楽曲」ということですが、この曲に出会ったきっかけは何だったんですか?
加藤:昨年行ったファンクラブライブで、お客さんからリクエストいただいた曲を歌うという企画をやったのですが、その中にこの「奇跡~大きな愛のように~」が入っていたんです。僕はそこで初めてこの曲に触れたんですけど、ものすごく感動したというか、本当に大きな愛に包まれた歌だなと思ったんですね。それがきっかけで、今回カバーという形で収録させていただきました。それは、自分が感じたのと同じように、この曲を知らない人たちにも、自分を通してこういう名曲があるってことを知ってほしいという気持ちもありますし、僕にとってはこの曲を歌うことで、自分では出てこない言葉のチョイスとか楽曲の持つ深みとかが刺激になったりもして。改めて、さだまさしさんは偉大なアーティストなんだなぁってことを感じました。
――加藤さんが一番心を掴まれた部分はどこですか?
加藤:もう、<どんなにせつなくても 必ず明日は来る>という冒頭のフレーズから鷲掴みですよ。
――でも実はこの曲で歌われていることって、加藤さんが普段から歌われていることととても近い気がします。
加藤:そうですね。実は、これこそ僕が目指す形だなって思うところもあって。僕自身もこれまでバラードを書きたいと思って、何曲か書いていたりもするんですけど、これだけ聴く人に寄り添った愛の溢れる楽曲というのは、なかなか書けないというか(苦笑)。この曲も決して難しいことを言っているわけじゃないと思うんです。むしろ、とてもシンプルなんですけど、それが難しいんですよね。
――なるほど。
加藤:曲や歌詞を書くときって、どうしてもいろんな物語を自分の中で作って、どの言葉を届けるべきかと難しく考えちゃうんですけど、バラードは意外とシンプルなもののほうがいい曲も多いというか。やっぱりそれがすべてなんだなってすごく思いましたね。(「奇跡~大きな愛のように~」は)想いが溢れてますもん。
――オリジナルはピアノがメインのアレンジですが、加藤さんのバージョンではストリングスがメインになっています。これは加藤さんがリクエストされたんですか?
加藤:そうです。ストリングスをメインにしたことで、広がりが出た気がしますね。でも、だからこそ、楽曲に負けないような歌を歌わなきゃいけないなとも思いました。
――こういったシンプルなバラードは歌うのが難しい……?
加藤:ごまかしが効かないし、ストレートに伝わるからこそ難しいですね。だから、ヘンな小細工はナシにして、自分の感情のままに歌いました。
――今回の「奇跡~大きな愛のように~」も含め、カバー曲を歌うことは加藤さんにとってどんな経験でしたか?
加藤:いろんな世代のファンの方がいるので、それこそ最近の流行りの曲から往年の名曲と言われるものまで、さまざまな時代の歌を歌わせていただきましたけど、やっぱりそこで気づくことってすごく多いんですよね。有名な曲でも意外とサビしか知らなかったりして、2番ってこういう歌詞だったのかとか、改めて聴くとすごく深いことを歌ってるんだなとか。いろんな世界観があって面白いし、刺激にもなります。
――もともと知っていた曲でも、年齢を重ねることで感じ方が変わってきたりもしますもんね。そういう意味では、加藤さん自身、これまで歌ってきた自分の楽曲の中で、当時と今とで感じ方が違うという曲もあったりしませんか?
加藤:それはありますね。昨年末にやっていた『僕らの未来~3月4日~』という舞台は、僕の楽曲をモチーフにしたもので、その歌詞は僕が上京したときに書いたものだったんです。なので、当然今聴くと青いなぁって思うところもあるんですけど、それと同時に、あれから15、6年の間にいろんなことがあったなぁとか、地元の友達を見ても大人になったなぁって感じたりもして。やっぱり歌う気持ちは変わりますよね。そういえば、先日地元に帰ったときに仲間とカラオケに行ったんですけど、どうしてもって言われて久々にこの曲を歌ったんですよ。彼らのことを思って書いた歌詞だったので、いつになく感慨深いものがありましたね。ちなみに、どうしてもって言ってきたのは、歌詞の中で<落ち込んだ時いつも そばではしゃいでたアイツ>です(笑)。

――楽曲の一つ一つに加藤さんの思い出が込められているんですね。
加藤:そうですね。こんなふうに過去を振り返れる楽曲というのはなかなかないですけど、その時々の想いはどの曲にも少なからず入っていると思います。
――それは今回のシングルに収録されている楽曲に通じるものですね。このシングルが3月27日にリリース後、29日からは全国ツアー『Kazuki Kato Road Tour 2019 ~Thank you for coming!~』がスタートします。これは加藤さんが1人でステージに立つという、初めての試みだとか。
加藤:そうなんです。1人ということで、何をやるんだ!?と思われる方もいらっしゃると思いますけど、弾き語りをはじめ、いろいろ面白いことをやる予定です。タイトルにある通り、いろんな人に感謝を届けに行くツアーにしたいと思っています。
――1人でやろうと思ったのには、何か理由があるんですか?
加藤:デビューしたときからバンドに支えてもらっていたのを一度丸裸にして、自分自身で立つってことにこのタイミングで挑戦しなきゃなって思ったんですよね。それが今、僕に必要なことだなって。
――自分がより成長するためにという想いもあるのでしょうか。
加藤:そうですね。1人だからこそ、よりお客さんと一緒に空間を作っていくということが必要になってくるので……。でも、来てくださる方はみんな味方だと思っているので、1人だけど1人じゃないというか。それに、1人なら逆に何でもできるような気もするので(笑)、1人だからこそできる表現を楽しみにしていただければと思います。
――そして、この“Road Tour”が終わった後は、バンドメンバーと共にまわる『Kazuki Kato LIVE“GIG”TOUR 2019 ~Thank you for coming!~』、さらにはファンクラブ限定ライブ『Thanksgiving of VOICE vol.2』と続きます。この短期間に3パターンのライブを行うとは、すごい!の一言に尽きますが……。
加藤:よくやりますよね(笑)。でも、いろんな楽しみ方をしてもらいたいと思っているので。バンドツアーはバンドサウンドでガッツリ聴かせたいですし、ファンクラブライブはまたリクエストいただいた楽曲でお届けする予定です。やっぱり、なんだかんだ言っても、日常の中でイヤなことっていっぱいあると思うんですよ。にもかかわらず、この瞬間だけはすべて忘れられるっていう場所はなかなかない。だから、僕のライブでそういうものをすべて吐き出してもらえたらって思うんですよね。
【特集TOP】加藤和樹 現代社会を生きるには、自分で選択し答えを導き出すこと―― 新作『Answer』