「期限はとっくに過ぎてるんですよ!」
「約束は守ってもらわないとねぇ!」
「これだけは覚えておいてください。あなたの行動で、何人もの人間が泣くってことを!」

石原さとみ主演の火曜ドラマ「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
レストランを舞台にしたコメディードラマのはずなのに、なぜか冒頭のセリフがやたらと胸に突き刺さる……。こんな言葉を投げかけられた人の共通点とは……?

先週放送された4話の視聴率は、なんと劇的に回復して10.0%。「週刊フジテレビ批評」でボロクソに叩かれていたのに……。今後上昇していくのかどうかに注目したい。
石原さとみ「Heaven?~ご苦楽レストラン~」まさかの視聴率急上昇4話「生首演出」との関連性を検証
原作

「生首演出」と視聴率の関係は?


墓場の真ん中にあるフレンチレストラン「ロワン ディシー」(この世の果て)のオーナー、黒須仮名子(石原さとみ)は今日も今日とて浪費三昧。それを見ていたシェフドランの伊賀観(福士蒼汰)は、仮名子の正体に疑問を抱く。

ちなみにこのとき仮名子が手にしていた虹色のサンダルは、クリスチャン・ルブタンの「Degratissimo Alta」。お値段は15万円(オフィシャルサイトより)。そりゃ、伊賀くんも疑問に思うわな。

そんな折、「ロワン ディシー」に借金取りまがいの2人(山内圭哉と小柳友)がやってくる。彼らが怒ってまくしたてていたのが、冒頭のセリフ。いつもは傲岸不遜、傍若無人な仮名子も押されっぱなし。それどころか、だんだん憔悴していき、楽しみにしていた賄いに手をつけず、晩酌もしなくなってしまう。
さらに奇行も増え、ついには首吊り自殺未遂まで……。従業員たちは、仮名子が深刻な借金トラブルを抱えているのではないかと考えるようになる。

4話は、仮名子の正体の謎と借金トラブル、さらにやたらと資格試験を受けまくるソムリエの山縣(岸部一徳)の行動の謎を組み合わせてストーリーが進んでいった。シンプルな仕掛けだが、視聴率上昇に一役買っていたのかもしれない(買っていないかもしれない)。

なお、4話の「生首演出」は9分過ぎまで一度もなかった。演出ひさしではなく松木彩が演出を担当しているからなのかと思ったが、結局12分過ぎ、13分過ぎ、14分過ぎ、18分過ぎ、19分過ぎ、24分過ぎ(生首が置いていかれるという新ネタ)、38分過ぎ、39分過ぎ(生首が半生を振り返るという大ネタ)、45分過ぎと、結局いつもと同じぐらいあった。「生首演出」の有無は視聴率とは関係ないようだ。

「金子ローン」は「鐘公論」?


結論から言うと、仮名子の正体はデビュー作がまぐれ当たりしただけの三流ミステリー作家、仮名須黒子だった(自称ミステリーの女王)。

そのデビュー作「鶴の死ぬのを亀が見ている」(通称「鶴亀」)は、映画化もされて300万人もの動員を記録したらしい。300万人といえば興行収入40億円ぐらいだから、かなりのヒットである。映画がそれだけヒットすれば原作小説もバカ売れしたことだろう。

男たちは借金取りではなく編集者で、「期限」「約束」はもちろん締切のこと。「何人もの人間が泣く」というのは、編集者や印刷所の人たちが泣くという意味。
つまり、冒頭のセリフが胸に突き刺さるのは、作家、漫画家、ライター……という職種の人たちだ。

じゃ、「金子ローン」は何だったのかのというと、これは彼らが勤めている出版社の名前「鐘公論」の聞き間違いというもの。く、苦しい……。ちなみに原作では「河音公論」。こっちのほうがありそうだが、「かわねこうろん」では「かねころーん」には聞こえないので、苦肉の策という感じか。

なお、仮名子がサンダルなどを手にとっている最初のシーンにミステリー本が写り込んでおり、それもヒントになっていた(3話には読んでいるシーンもあった)。本のタイトルは「オリレンゾ急行殺人事件」「粗品、誰もいらなくなった」「海老椎茸殺人事件」。元ネタは言うまでもないですね。

予測不可能な仮名子の小説


一方、山縣の行動の謎も単純で、単に資格を取ることが心から好きな資格マニアだったというものだった。

彼には資格に凝りすぎて銀行で出世の道を閉ざされたという過去があった。誰も自分のことは理解してくれないだろう……。ところが、締切まで猶予を2日もらって上機嫌の仮名子がこう言う。


「山縣さん……見直した」
「え?」
「別に一つのことしかやっちゃいけない決まりなんかないじゃない? やりたいことがたくさんあって当たり前でしょう?」

えっ、いいこと言うじゃないの。終身雇用制度が崩壊し、政府が副業を奨励するようになった現代、仕事は本業だけではやっていけないし、多様な専門性が仕事に活きることだってある。ライターの仕事だって手軽な副業として注目を集めているぐらいだ。なんだか「Heaven?」らしくない……と思っていたら、すぐに仮名子がひっくり返した。

「そんなにウチの仕事がつまらないなら、資格を生かして別の仕事に転職したらいいんじゃない?」
「そんな……」
「だってダメじゃない! 趣味のために本業をおろそかにしちゃ!」

そうそう、いいこと言っちゃ「Heaven?」じゃない。

それはそうと、陳腐なトリックの仮名子の新作「犬が去る、首吊り部屋に猿が居ぬ」は意外なことにヒットを記録する。

物語は「家出犬捜索専門の探偵・松木と、その友人で猿愛豪華(「猿愛好家」の誤植。わざとかどうかは不明)の宮崎がある屋敷で起きた密室事件に巻き込まれ、真相を突き止めようと奮闘する内容」で、「ジャンルが分からなくなるほど予測不可能なストーリー、会話テンポが速いことなども若者受けにプラス要素になったと思われる」とのこと。あらすじはつまらなさそうだが、小説は面白そうだ。

で、新聞記事には「重版」と書かれていたが、短編小説(編集者は「代わりの短編小説を用意してある」と言っていた)1本書いただけでは本は出ないので「重版」ということにはならない。これまで短編が何本も書き溜めてあって、最後の1編で本が出た……ということでもなさそう。そのあたりのツメの甘さも「Heaven?」だなぁ、と思う次第。


竹中直人が登場する5話は今夜10時から。
(大山くまお)

「Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
出演:石原さとみ、福士蒼汰、志尊淳、勝村政信、段田安則、岸部一徳、舘ひろし
原作:佐々木倫子 『Heaven?』(ビッグスピリッツコミックス刊)
脚本: 吉田恵里香
音楽:井筒昭雄
主題歌:あいみょん 「真夏の夜の匂いがする」
演出:木村ひさし、松木彩、村尾嘉昭
プロデュース:瀬戸口克陽
製作著作:TBS
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