TBSにて8月7日(火)深夜放送のドラマ 『スカム』(MBS/TBS系)第6話。物語は後半に突入し、「振り込め詐欺」にやりがいを感じている誠実(まこと/杉野遥亮)の状況はどんどん悪くなっていく。


今回、振り込め詐欺に新たな協力者が加わった。誠実の母親・幸子(西田尚美)と、誠実の詐欺仲間・来栖(福山翔大)の昔の仲間たちだ。これが、誠実にとって酷い結果を生んだ。

繰り返し描かれる「加害者の思いやり」


「誠実の様子が心配だ」と美咲(山本舞香)から聞いていた幸子は、誠実の部屋で無造作に箱に入れられた大量の札束と、振り込め詐欺の作戦を見つけた。「説明しなさい」と言われ、誠実はごまかさずに「俺はいま、詐欺の仕事で稼いでる」と答える。

1億2000万円のノルマを達成し区切りがつけば、賞与1,000万円をもらって辞めるつもりだと誠実は話す。もちろんそれは誠実が勝手に考えているだけで、辞められるのかどうかはわからない。だが、幸子は誠実の言葉を信じた。

幸子「わかった。母さんも何か手伝えるかもしれない」
誠実「え?」
幸子「ノルマ達成させて、そつらとスッパリ縁切るの。返事!」
誠実「はい……」

幸子は、訪問介護サービスの仕事をしている。そこで知った老人たちの財産状況、タンス預金のありなし、家族構成、さらには過去の顧客情報までも一覧にし、誠実に共有した。

誠実「何が母さんにそこまでさせたのか、俺は知らない」

訪問介護サービスの現場で、幸子は老人男性からセクハラを受けていた。
暴言を吐かれることもあった。仕事だから「困ります」「ちょっと……」と言う程度の制止しかできない。誠実たちの「老害、ぶっ潰す!」は、毒川たちに教え込まれたヘイトだ。幸子の場合は、日々重なっていく老人からの直接の加害が、職業意識を壊し、「老人は大切にするもの」という社会規範を守る気持ちまでを削ぎ落してしまっていた。

誠実と幸子は、親子で振り込め詐欺に加担することになった。一方で、詐欺に罪悪感を覚え体調にまで影響が出ている幸子を誠実が「薬かなにか買ってこようか」と気遣う。幸子も、晩ご飯の用意をして誠実の帰りを待っていた。

本作が繰り返し描いているのは、詐欺をおこなう彼らにも人を思いやる心があること。彼らにも、家族や守りたい人がいて、だからこそ詐欺をおこなうということ。誠実と幸子を見ていると、詐欺の加害者像を自分に引き寄せて「もし、自分なら」を想像してしまう。
振り込め詐欺最悪展開「スカム」「わかった。母さんも何か手伝えるかもしれない」えー!6話
イラスト/たけだあや

ちゃんとした社会人よりも「ヤバい奴」が信用される世界


もう一組の協力者は、来栖の昔の仲間たちだ。

Motherの「M」と誠実の「M」を合わせて「M名簿」と名付けた老人の名簿は、高いヒット率を上げて仲間たちを喜ばせた。ところが、今度は集金屋が足りず、ヒットしても金を回収できない事態が起こる。


状況を知った来栖は、昔の仲間を紹介。しかし、倉庫におそらく勝手に住みつき、盗んできた白菜やザリガニで鍋を作って食べ、「億とか手に入るなら、殺すのも家燃やすのも変わらねえよなあ」という彼らを誠実は信用できない。

来栖が風俗をやっていた頃の知り合いだという。それ以外の情報がない。「風俗をやっていた」という言葉も、来栖がどういう立場で働いていたのかを示すものではない。

ヒッピー風の服装で、ルーツもわからない。薬物をやっているように見えるが、明言はされない。日本語を話しているのに、呂律がまわらないためか字幕が出る。一度逮捕されたことがあるが、どうも気にしていないらしい。「なんかヤバそうな奴ら」以外の情報が何も知らされない。

そこまで何もわからない奴らよりも、来栖は誠実のほうが信用できない、認められないという。学歴や社会経験にかえって不信感を抱く。
肝が据わっているかどうかのほうが信じられる。来栖はそういう世界で生きてきた人間で、誠実とは相容れない存在なのだ。

7月27日(土)に放送されたNHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』では、振り込め詐欺や脱法ドラッグ販売、女性の風俗への引き込みなどをおこなう「半グレ」の姿が明かされた。紹介された「半グレには高学歴者も多い」という事実は衝撃だった

たとえば10代の頃から闇のビジネスに近いところにいて、実地で身体を張って生き延びてきた来栖のようなタイプと、そこそこの学歴や社会経験がありながら「やりがい」などに惹かれてきたタイプ。彼らが、「振り込め詐欺」のような新しい闇ビジネスの現場には入り混じっている。誠実と来栖の対立は、そうした新勢力とのひずみの表れにも見える。

転ぶ男を信じて待つ。西田尚美の包容力


終盤、老人の家に集金に来た来栖の仲間たちによって、幸子は暴力を受ける。病院で幸子を見た誠実は、目を見開き、口は開いているのに言葉が出ない。

暴力の詳細はまだわからないが、「もう一回(犯罪を)やらせて」「殺すのも家燃やすのも変わらねえ」と言っていた彼らがすることだ。これまで酷い暴力とは無縁で生きてきた誠実の想像を超えていたに違いない。

幸子を演じる西田尚美は、6月28日(金)公開の白石和彌監督映画『凪待ち』に出演している。
ギャンブルに依存する恋人・郁男(香取慎吾)に優しく、ときに厳しく接して支える女性・亜弓役だった。亜弓は、郁男とのすれ違いの末に何者かに殺されてしまう。

良いことも悪いことも、清濁を合わせ飲み、誠実や郁男のようなある種「転んでいく」男性を信じて待つ。そんな女性の役に西田尚美が選ばれる。それは、本人の地に足がついた丁寧な生活のイメージと、「石橋を叩かないタイプ」という度胸が、転ぶ男性が無意識に求めている包容力に繋がっているからだろうか(参考:西田尚美インタビュー記事)。

来栖の仲間を逮捕するために警察を頼れば、来栖、誠実だけでなく毒川や神部、そして幸子も危うい。警察を頼らなければ、幸子は酷い暴力を受け入れ、誠実はその罪悪感と責任を背負って生きるしかない。

振り込め詐欺を辞めるつもりがなかった誠実。その報いが自分ではなく大切な人を襲ったときに、また詐欺に転んでいくのか、転ばないのか。

最新話は、Netflixで配信中。

(むらたえりか)

見逃し配信:Netflix

ドラマイズム『スカム』
MBS:毎週日曜深夜0:50〜
TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクション:ROBOT
製作:「スカム」製作委員会・MBS

MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
ツイッター https://twitter.com/scam_0630
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