朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第19週「1992-1993」
第88回〈3月7日(月)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉
※本文にネタバレを含みます
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ひなたを敬遠し続ける五十嵐
『妖術七変化』リメイクから7年、「ノストラダムスの大予言」による地球滅亡まであと7年。ひなた(川栄李奈)と五十嵐(本郷奏多)は人生の岐路に立たされていた。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜88回掲載中)
主題歌「アルデバラン」のように“この世界が終わる”前に結婚したいとひなたは望むが、仕事が満足にできていない五十嵐は結婚する決心ができない。
「おれは侍でいたいんだ」と強がる五十嵐のセリフはどういう意味だろう。ひなたの好きな侍でいたいのかもしれない。男は「侍」でいないとならないという一般男性の観念にとらわれている五十嵐。ところがひなたは五十嵐が侍でなくても支える気持ちでいる。ひなたと五十嵐の侍感の違いが如実になっていく。
ひなたが夫にばりばり働く期待をかけていないのは、錠一郎(オダギリジョー)とるい(深津絵里)を見ているからかもしれない。錠一郎が働かずるいだけ働いているが、るいは決して錠一郎を悪く言わない。小ひなたの時代のようにいまだに立てているだろう。ふたりが喧嘩せず円満に過ごしているから、夫が何もしないでいることに悪い印象がないのだろう。ひなたもそれでさほど困ることがなさそうであるし。
貧しくても楽しい大月家。
一時期あんなにしょぼくれていたすみれがテレビドラマで復帰して人気スターと結婚にまでこぎつけるとは、すみれは持っているというかしぶとい。物語上、さほど重要ではないすみれと破天荒将軍の幸せはこのドラマになんとも砂を噛むような感情を与える。主要キャラのひなたと五十嵐がうまくいっていない状況がそのことそのもの以上に、わりとどうでもいいキャラ(すみません)の幸福によっていっそう惨めに見えてくる。さらに、榊原(平埜生成)のひそかな想いがまったく報われていないことも拍車をかける。
なんともしょんぼりな感じがする。すみれも頑張って幸せを求めていたんだねと好意的に思う人もいるかもしれないが、常にぎらついている世界とは縁がない人にとってはすみれの上り詰め方は疲れる。
仕事に恵まれない五十嵐
すみれみたいな人がいる一方で、五十嵐は7年、仕事に恵まれない。同じく40年斬られ役一筋の虚無蔵(松重豊)は煮えきれない五十嵐にいつくるかわからないときのために鍛錬することを助言する。一度は強いライトを浴びたのに、この屈辱に耐えられない五十嵐。「強いライト」。この言葉に実感がある。スターに当たる照明はひときわ光量が大きくまぶしいものだ。それに比べて脇役は照明が全然当たらないことだってある。照明の当たらない暗がり(お化け屋敷もそう)でくすぶり続ける自分に耐えられない五十嵐の苦悩。平家だか源氏だかの落ち武者の扮装が似合いすぎる。『妖術〜』の左近役の武藤蘭丸(青木崇高)の活躍が五十嵐をさらに追い詰める。それでもラジオからはKANの「愛は勝つ」がかかっている。どうか愛に勝ってほしい。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami