人間を丁寧に描くドラマだと、つくづく感じる。
このドラマの尺が30分であることを、あまりに凝縮された内容につい忘れてしまう。


TBSにて8月13日(火)深夜放送のドラマ 『スカム』(MBS/TBS系)第7話。誠実(まこと/杉野遥亮)の母親・幸子(西田尚美)が、“空き巣”に襲われ怪我をした。犯人は、誠実の振り込め詐欺仲間・来栖(福山翔大)がけしかけた3人組の輩だった。
振り込め詐欺ドラマ「スカム」はリアルすぎるファンタジー?「それ以来、水は買わないって決めてんの」7話
イラスト/たけだあや

「なんっつったっけなあ、あいつ」一言で引き込む台詞の力


誠実が店長を務める振り込め詐欺の店舗は着実に成果を上げていたが、金を受け取る「集金屋」が足りていなかった。さらに、集金した金を奪う「叩き」まで出てきて、番頭の神部(大谷亮平)は対応に頭を悩ませていた。

金主の東条(杉本哲太)は、神部を厳しく詰めた。東条はヤクザだが、神部たちは違う。ヤクザなら、東条の顔を立てるために神部は誠実たちを疑ったかもしれない。しかし、神部は東条の暴力にも屈せず「俺は奴らを信用しています」と言った。信念を持って部下を守る上司。だから、毒川や誠実たちがついてくる。

神部「なんかさあ、プレイヤーやってた頃が一番楽しかったよな。お前も一緒でさ、海とか行ったよなあ」
毒川「はい、行きました」
神部「あの頃は、縛りも緩かったよな。
みんなで飲んで、バーベキューして。ジェットスキー、岩に当ててぶっ壊した奴いるだろ。なんっつったっけなあ、あいつ……」

この神部と毒川(和田正人)の会話シーンは、原案本の『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)にも書かれている。ドラマでは最後の「なんっつったっけなあ、あいつ……」が追加されていた。

「ジェットスキーをぶっ壊したあいつ」の名前を神部が思い出そうとする。、「あいつ」という第三者の登場で、神部と毒川の過去に立体感が生まれた。そんな過去がありました、という説明ではなく、彼らも回顧し懐かしむ風景を持っているのだという背景の膨らみ。

一言で登場人物の背景に引き込んでいく「台詞」の力を感じる脚色だった。

「水は買わない」搾取された低学歴の些細な抵抗


7話ではもう一人、清宮(前野朋哉)の過去も垣間見えた。本当は連絡先を教え合ってはいけない。でも、誠実と清宮はお互いの連絡先を知っていたし、仕事帰りには飲みに行き、休日には清宮のこどもと一緒に公園に行く。もう、友だち同然だった。

清宮は、過去にウォーターサーバーの販売で借金を背負ってしまったことがあるという。


清宮「それ以来、水は買わないって決めてんの」

清宮はそう言って、水道水で割った酒を誠実に渡す。

誠実「水道水うめえなあ」
清宮「久々じゃない? 水道水なんて飲んだの」
誠実「水道水しか飲んでねえや、うちも」
清宮「なあんでだよお。普通に水買えよお」

自分は水を買わないが、他人には「普通に水買えよお」と言って笑う清宮。サッパリとしていて良い奴に見える一方で、あまりにサッパリとしすぎていて、「自己責任」の価値観を内面化しているようにも少し感じられる。

ノルマを達成したら詐欺を辞めたいという誠実に、清宮はがっかりし、怒った。

「大卒のお前と中卒の俺で、一緒にやれる仕事なんてカタギじゃ存在しねえよ」

「もしあったとしても、お前は速攻俺を切る。わかってんだあ、こんな稼業だから仕方なく組んでるけど、ずっと付き合う気なんかねえだろ、俺と」

「お前とこの世界でテッペン取る気だったのになあ。あーあ」

「いまさら、良い子ぶんじゃねえよ」

最初の頃は、老人相手に電話口でキレる真似をすることさえたどたどしかった清宮の口から、次々に誠実への文句が飛び出してくる。学歴も職歴も持たず、家族を守ることもできなかった清宮のルサンチマンが、大卒で社会経験ありの誠実にぶつけられる。

『スカム』の舞台である2009年当時は、ウォーターサーバーの販売は詐欺やマルチ商法のひとつとして有名だった。その頃、筆者は大学生だった。学生でも、そんなマルチ商法があることを知っていたくらいだ。
清宮は、頭の悪さや社会経験のなさによって低く見られ、騙されたうちの一人だったのだろう。

家族がいるのに騙され、一緒に暮らせなくなり、そのうえ「自己責任」の風潮。「水は買わない」という、たった一人のあまりに些細すぎる抵抗。清宮がどれだけ自分の選択や人生を悔いたか、そして、なぜ振り込め詐欺の仕事にしがみつかなければいけないのか。「ウォーターサーバーの販売」という台詞ひとつで、想像を深めてしまう。

やけにファンタジーな便利屋役の柳俊太郎


主人公以外の登場人物たちの過去や人間性までもが、30分という放送時間の中で巧みに浮き上がってくる。しかし、そんな中で意味不明なのが、謎の便利屋・小沼(柳俊太郎)の存在だ。

頭にビニール袋を被り、椅子に縛りつけられて血を吐いている男の前で、「なぜサクサクの衣が美味しいのか」と問いかけながら食事をしている。円形のテーブルに美しく並べられた銀色のカトラリー。辿りつくはずのない場所に突然現れる恐ろしさ。「来栖さんのお宅ですか」という穏やかな声。小沼だけが、なんだかやけにファンタジーだ。


誠実が用意した「M名簿」を勝手に使って、来栖は昔の仲間と空き巣や叩きをおこなっていた。毒川らが来栖を追い、小沼がやってきた。来栖たちは助からないだろう。

勝手に「M名簿」を持ってきた誠実や、それを黙っていた清宮たちはどうなるのか。現実のラインを丁寧になぞってきた本作だが、小沼が関わることでリアルとファンタジーのどちらに展開していくのか。

クライマックスに向かいはじめる第8話は、今夜TBSにて放送予定だ。
(むらたえりか)

過去放送分配信「Netflix」:https://www.netflix.com/jp/title/81153751

ドラマイズム『スカム』
MBS:毎週日曜深夜0:50〜
TBS:毎週火曜深夜1:28〜
出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也、華村あすか、柳俊太郎、山中崇、和田正人、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平、ほか
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
原案:鈴木大介『老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書/筑摩書房)
制作プロダクション:ROBOT
製作:「スカム」製作委員会・MBS

MBS番組HP https://www.mbs.jp/drama-scams/
ツイッター https://twitter.com/scam_0630
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