
今年ソロデビュー10周年を迎え、2月と3月に日本武道館と大阪城ホールで行ったアニバーサリーライブを大盛況で終えた遊助が、休む間もなく7月からスタートさせた全国ツアー『ZERO』のファイナル公演を、9月23日にパシフィコ横浜で開催した。
ツアーが始まる前日の7月3日に第二章の開幕を告げるシングル『千羽鶴』をリリースした遊助だが、今回のツアーも第二章のキックオフがテーマ。

セットもなし。開演前のBGMもなし。最初はダンサーも現れず、後方支援する相棒のDJ N.O.B.Bもステージにいない。まさにZEROで始まった今回のライブ。遊助はライブ中盤のMCで「10周年。令和元年。40代になったし、ゼロがいっぱい続いたからテーマをゼロということにして、原点に返って俺の作った曲と言葉とパフォーマンスで、ファンと1対1で向き合おうと思った」と語ったが、第二章に向けたリセット&リスタートという想いを、強くシンプルに表現してみせた幕開けだった。
2曲目「That Love」はムーディーなトロピカルハウス。ステージ後方を埋め尽くす大型LEDスクリーンには宇宙に漂う星雲が映写されていて、これも何かの誕生や始まりを示唆するような演出で目を引く。やや落ち着いた様相で始まったライブだったが、続くアップテンポの「V」でようやくN.O.B.Bが登場。後方スクリーンから飛び出す仕掛けの可動式DJブースに乗って現れたN.O.B.Bの援護射撃で、遊助もギアを一段アップ。

その「V」でも見られたが、今回のライブはセットがないぶん、ダンサーが広々としたステージをめいっぱい使い、縦横斜めに大きく広がるようなフォーメーションを繰り出していたのが特徴。遊助もステージの最前ギリギリ、スニーカーの先っぽがハミ出すくらいまで前に出てきて、少しでもファンとの距離を縮めようとしている場面が多かった。
この日最初のMCでは「今日は最高の思い出になるように精一杯頑張ります。みんなが主役でみんなも共演者だから、最後までよろしくお願いします!」と開会宣言。続けて、2階席の端と3階席の端の座席下に遊助が折った千羽鶴を置いておいた、と遊助流のおもてなしを明かした。その後、「今日来てくれてる男の人の曲になるように。今日来てる女子には“私に言ってるんだ”って思っていただけるように作った曲を聞いてください」と告げてから「俺と付き合ってください。」を披露。会場をつつんでいたハートウォーミングな空気が、次曲「たんぽぽ」で一層場内に広がっていく。

セットなしと言っても、演出がないわけではない。中盤の「美女の野獣」を歌い終えたところでステージに大量のスモークがたかれ、場内はなんだか怪しい雰囲気に。そこにダンサーが2台の長机を運び入れ、ヴァンパイアに扮した遊助がステージ袖からテーブルに横たわった状態で登場した。

そんな演目のあとに繰り出された「Vampire」は、鮮血のような真っ赤なライトが印象的。マントをまとったダンサーの大きな動きも含めて迫力満点のステージングだった。
続くMCタイムでは、N.O.B.Bをステージに招き入れ、2人の漫才のような軽妙なやりとりで観客を和ませていく。そこで遊助はこの日のライブが通算249回目だと報告。「せっかくだから250回目を横浜でやる?」と発言すると、会場から実施を望む大きな拍手が沸き起こった。本人は慌てて「いや、思いつきだから。まだ何も考えてないけど」と釈明したが、きっと有言実行してくれるに違いない。
その後はステージにN.O.B.Bを残し、遊助は着替えのため舞台裏へ。ステージ後方のスクリーンが、遊助のいるステージ袖の中継画面に切り替わる。カンペに「魔法をかけるわ」と書いて出した遊助は、カメラをスマホ画面に切り替え、Snapchatのフィルターを使って七変化。女性、チアガール、赤ちゃん、ドラキュラ、ダチョウなどパッパッとフィルターを変えていき、完全おふざけモード突入。それを見てリアクションするN.O.B.Bの笑い声が相乗効果となり、場内に爆笑が渦巻いた。
おふざけで観客に笑顔を運ぶだけでなく、真剣に想いを伝えるのも遊助のライブの魅力だ。11曲目「全部好き」を歌い終えると遊助はDJブースのところに上がり、ピアノを演奏。その演奏をバックにLEDスクリーンに10年の感謝を綴った文章が字幕スーパーで流された。「あなたの笑顔と涙で救われてる」。そんなフレーズで文章を締めたあと、遊助は<生まれ変わってもまた僕にして/君をそばでずっと見ていたい>と歌う初期代表曲「ライオン」を披露。遊助の願いに応えるように、テーマカラーの黄色のサイリウムが場内に揺れた。

DJとダンサーによるショータイムから始まったライブ後半は、ラストスパートに向けてアッパーチューンを連続投下。
そうして十分に会場がヒートアップしたところで、盛り上がり必至の「一笑懸命」をドロップ。さらに「Yellow Bus」「海賊船」「雷鳥」「パイナップル」「ミツバチ」というアゲアゲのメドレーを繰り出し、続く「チャンピオン」のイントロでは金テープが発射され、場内のボルテージは最高潮に達した。
客席から浴びた熱気に思わず「あっぢぃ」と漏らして始まったMCでは、横浜で過ごした青春時代の苦悩や、芸能界入りしてからの葛藤を吐露。それでも「いつも目の前にみんながいてくれて、気付いたら仲間がいた」と、これまでの10年を振り返った。
そして「音楽は初めて人のために生きたいと思えたきっかけだから。誰かのためにありたいとか、誰かのために人生賭けてみたいって思えたから」と音楽活動を続けて来た理由を告白。「歌は得意じゃねえし、頭も悪いし、運動もそこそこで、顔はまあまあカッコいいけど(笑)、そんなに若くもないし、アイドルでもないし、大した人間じゃないし、みんなの方がきっと頑張ってると思うけど、目の前にいる人の少しでも力になれたらなと思える自分に気付けたのでありがとうございます」と、これまで支えてくれたファンに改めて感謝の意を伝えた。

その後、遊助は「みんなの心に届くように、寄り添うように」という願いの言葉を送ってから「いるよ」を熱唱。甘酸っぱくてセンチメンタルな空気につつまれて、ライブ本編の幕は閉じた。
オープニング以上にデカい「かっとばせー! 遊助!」コールに迎えられて始まったアンコールは、最新シングル「千羽鶴」からスタート。爽快なビートに心が洗われ、胸が弾み、室内なのに青空が広がるような開放感が充ち満ちていく。
続くMCでは、「音楽は自分の言葉でみんなと会話できるから、少しでも俺の表情とか汗とか涙とかいろんなものを見せていきます。これからもお互いの人生を潤せ合えるような関係でいてください」とアピールし、その後は「大変なときとか頑張らなきゃいけないときは、空を見上げたり目をつぶってみんなの笑顔を思い出すから、みんなもそういうときに今日のことを思い出してくれたら嬉しいです」とメッセージしてから「檸檬」へ。最終日ということで特別に次に「いちょう」を挟み、デビュー曲の「ひまわり」へと歌い紡いでいった。
「どれだけ離れていても側にいると感じていただけるように!」。そう叫んでから始まったラスト曲「ひと」では、客席の一人ひとりの笑顔を確かめるように、遊助はステージ最前をゆっくり右へ左へと歩きながら歌唱。「何にも言えない僕だけど、いろんな人に助けられて2人共に肩組み、歩み、僕も君もいるよ」という歌詞が会場に響き渡り、最後は同曲の♪ラララ♪をcrew(=ファンの呼称)と大合唱して、この日すべての演奏が終わった。

ステージ上をゼロにすることで、10年を糧にしながらも、新しい表現の形も見せてくれた今回のライブ。特に今回は第二章に向けた再出発ということで、crewとの関係・距離をますます近めようとする遊助の想いがパフォーマンスや言葉からひしひしと伝わってきた夜だった。crewはもちろん、自分を支えてくれる仲間を大切にしていきたい。そんな遊助の気持ちが強く伝わってきたこの日、個人的にいちばん心に残ったのは、最後の挨拶で「ステージ上にいるヤツだけがチーム遊助じゃない」と、カメラ、撮影、照明、大道具、音響、映像、衣装、メイクなどライブを支えるスタッフにも拍手を求めた場面。カメラチームが機転を利かし、それぞれの持ち場にいるスタッフの顔をLEDスクリーンに次々に移すと、客席からこの日いちばん長くて温かくて大きな拍手が沸き起こった。
拍手が止んだ最後の最後に、遊助はカラーインクを手に塗りたくり、畳一畳ほどの白いキャンバスに何かを描きだした。
(取材・文/猪又 孝、撮影/コザイリサ)

セットリスト
1. 砂時計
2. That Love
3. V
4. 俺と付き合ってください。
5. たんぽぽ
6. わがまま
7. 銀座線
8. 美女の野獣
9. Vampire
10. Baby Baby
11. 全部好き。
12. ライオン
13. 一笑懸命
14. メドレー(Yellow Bus~海賊船~雷鳥~パイナップル~ミツバチ)
15. チャンピオン
16. いるよ
<ENCORE>
1. 千羽鶴
2. 檸檬
3. いちょう
4. ひまわり
5. ひと
遊助 オフィシャルサイト
https://www.yuusuke.jp/