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今回紹介するのは、宇宙人の存在と、その隠蔽のことを大真面目に語るドキュメンタリー『非認可/Unacknowledged』である。このドキュメンタリー、相当変わった映画というか、正直言っておれは(あくまで"おれは"ですよ!)かなり眉唾な内容だと思う。
UFOは実在する!? 驚異の真実が暴露される!
映画の語り手は、スティーブン・グリアさんというアメリカ人だ。元医師で、現在は「UFO研究家」というちょっとすごい肩書きで活動しているおじさんである。彼は2001年5月にワシントン市のナショナル・プレス・クラブで空軍の退役軍人や政府関係者ら総勢20名とともに記者会見を開き、多数のUFO目撃や地球外生命体との接触に関する証言を発表した。
『非認可』は、このグリアさんの主張に沿って進む。第1章では宇宙人が地球に来ているという数々の証拠や証言を提示し、第2章ではその証拠を隠滅するためにアメリカ政府やさらにその上の権力者たちがどのような裏工作をしてきたかを主張。さらに第3章では天才科学者や宇宙人たちが考案した超エネルギーがどのように抹殺され、そして今我々が何をするべきかが語られる。
もう、驚くべき証言のオンパレードである。有名なロズウェル事件に始まり、北米を移動する旅客機の横に飛んで来たUFOをレーダーで捉えた航空管制官や、落っこちたUFOを収容したのを見たという空軍の防諜要員など、いろんな人が「宇宙人は地球に飛来している」「私は戦闘機で飛んでる時に間近で見た」と主張する。中にはアポロ14号に参加し、人類で6番目に月面を歩いた人であるエドガー・ミッチェルも登場し、NASAでの勤務中に宇宙人が存在する証拠を得たと話す。
さらに第二章では、UFOの存在を隠蔽するために4~800億ドルもの闇予算が割かれ、軍隊や大統領ですらアクセスすることができない秘密計画が遂行されているという衝撃の事実が明かされる。ケネディ暗殺もその計画と関係があり、さらに映画産業やマスコミと結託してエイリアン関係の情報を陳腐なものとして扱うという方法で人々の印象を操作しているという。大統領でもアクセスできないような超絶極秘情報なのに、なんでマスコミや映画関係者を巻き込めるんだろうという謎は残るが、グリアさんやその仲間たちは大真面目に「陰謀があるんだ……!」と主張する。
全体的に「こんな関係者や偉い人も宇宙人の存在を認めている!」というトーンで映画が進む。なんだけど、出てくる人たちがみんなちょっとアレというか、今更ゴルバチョフの言ってることを引用されてもな……みたいな戸惑いが正直ある。前述のエドガー・ミッチェルも、なんか宇宙と地上とで超能力の実験とかやってたんじゃなかったっけ……。全編こういう感じなので、話している当人たちはものすごく真面目にやっているんだけど、真面目であればあるほどこちらは「大丈夫か……?」みたいな気持ちになってくる。
配信サービスによって復活した、21世紀の『水曜スペシャル』
ではこれがつまんないのかというと、案外おれは面白く見た。というか、もともとおれはこういうちょっとアレというか、「本当かな?」みたいな、そんなコンテンツが割と好きである。しかし、最近ではこういう番組は地上波で放送しづらくなったのか、とんと見かけなくなった。矢追純一と言われて誰のことかすぐにわかる人は、確実に一定年齢以上である。
更に言えば、ネットフリックスにはこの手のUFOがらみのドキュメンタリーがちょいちょい転がっている。学術系の番組に混じって「これを見た人はこっちも見てます」みたいな感じでサジェストされるので面食らうが、この闇鍋感がネット配信のヘンテコで面白いところだと思う。
この『非認可』も、iTunesのプレビューによれば製作スタジオはジ・オーチャードである。この会社は音楽を中心とした配信ツールの提供やデータ分析を提供してきたディストリビューターで、早い話が『非認可』もネット配信を前提として製作されたドキュメンタリーだったと言える。
前述のようにグリアさんの言ってることは大手のマスコミでは扱いにくそうだし、さりとてグリアさんたちにはちゃんと映画館で配給できるほどのパワーもありそうにない。だから、ネット配信を前提として映像だけ作ってしまい、各サブスク系サービスで配信しつつ不定期に有志で集まって上映会なども開催する……という方法をとることになったのではないだろうか。現に『非認可』も、UFOに関心のある人たちの上映会が日本でも行われているようである。配信サービスで流すのを前提としてドキュメンタリーが何本か作れる環境は、例えばグリアさんのような、世間的にはちょっと変わった主張をしたい人にとっては好都合だろう。また、ひとつでも多くコンテンツがほしい配信サービスとしても、悪い話ではないはずだ。
という感じで『非認可』からは、ちょっと極端だったり、大手マスコミで扱いにくいようなネタでも、配信サービスのドキュメンタリーだったらそのまま放り出せるという構図が見えてくる。もちろんあまりにもアレな内容だったらアウトだろうけど、「宇宙人は実在する!」という程度だったら問題ないということだろう。配信サービスが普及したおかげで、期せずして21世紀に『水曜スペシャル』が復活した……そんな構図が見えてくる一本である。

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)