※本文にネタバレを含みます
今回は「スタンド」ではなく「ギフト」『岸辺露伴は動かない』
3話連続シリーズの『岸辺露伴は動かない』(NHK総合 よる10時〜)は、原作のなかでもあえてテイストの違うものをセレクトし実写化した意欲作。【前話レビュー】『岸辺露伴は動かない』(2)「くしゃがら」野生の本能を発する森山未来の十五と、理性的な高橋一生の露伴
最も荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』世界に近い1話「富豪村」はミステリー、別の作家の描いた小説を原作にした2話「くしゃがら」はホラー、少女漫画雑誌・別冊マーガレットで発表された異色作を原作にした3話は「D.N.A」は……SFだろうか、科学的なことと非科学的なことが混ざったロマンあふれるファンタジックなストーリーだった。
「D.N.A」のテーマはおそらく、運命。
太郎の物語が明らかに
始まりは映画のラブストーリー風。車の中で女(瀧内公美)が男(奥野瑛太)と会話している。外は雨……。――それから6年。漫画家・岸辺露伴(高橋一生)と担当編集・泉京香(飯豊まりえ)は頂坂で、その女・片平真依と出会う。
泉は“ふんわり彼氏”こと平井太郎(中村倫也)の記憶喪失が気になって、露伴の催眠術で原因が探れないかと相談していた。催眠術とは、ヘブンズ・ドアーのことだが、泉には知らされていない。
真依は娘・真央(北平妃璃愛)をひとりで育てていた。真央は坂(階段)ですれちがいざま、太郎の袖を掴んで、転ばせる。ふだん、外部の人にコミットするようなことのない真央がなぜ、と真依は怪訝な顔をする。
そのまま、一同は、太郎を連れて病院へ。検査を待つ間、泉は、真依が集明社でも本を出している有名なインテリアデザイナーであることに気づく。
1話から思わせぶりに登場していた太郎にも物語があった。しかもそれが、3話でのメインになる驚き。原作にはいっさいない部分なので、本当に驚いた。
“ふんわり彼氏”と「彼氏」呼びもされていたにもかかわらず、彼の写真のファンだった泉が“押しかけ彼女”(泉いわく“押し込み”)だったことも判明した。
かつて、夜景などをクールに撮って人気だった太郎が、6年前、大きな事故にあって一命をとりとめ、再起したものの、以前と雰囲気がすっかり変わってしまった。泉は昔のような写真を撮ってほしくて、押しかけ彼女になったのだった。
“ふんわり彼氏”のふんわり感は中村倫也の真骨頂。そこに太郎が事故に遭うまではクールなキレ者ふうであった面も出てきて、演技の幅広さも中村の特性であることが披露された。
ちなみにドラマ版だけ苗字がついている「平井太郎」は江戸川乱歩の本名と同じ。ドラマの奇妙な世界観は、乱歩リスペクトか。
「魂」も個性であり、私たちにもたらされたギフト
露伴は真依の家を訪問し、彼女がひた隠しにしていることを知る。そのうえ、やたらと事故を呼び寄せる。娘が災いを呼んでいるんじゃないだろうか、それは昔なら“呪い”というようなもので、運命みたいなものも親から遺伝するのではないかと真依は真剣に心配している。
ヘブンズ・ドアーで真央の記憶を見ると、彼女の現状となんの因果関係もないことがわかる。目の色も喋り方は個性であると露伴は諭すが、真依は納得しない。
そのとき、ふいに真央が消える。露伴は自分と同じ「ギフト」(原作ではスタンド)を持っているのではないかと感じる。
そのヘブンズ・ドアーは、真依、太郎、泉にも使用される。これまで、顔が本になるややグロテスクな表現(原作どおり)だったのが、カラダが消えて1冊の本になった。それぞれまったく違った装丁で、厚みも違うし、判型も違う(泉はぺらっぺらの雑誌ふう)が、真依と太郎と真央の3冊は、あるもので結ばれる。
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亡くなった夫の臓器が、奇妙な因縁で、同時期に命を失った人物(太郎)の肉体に移植されることで、ある意味、ふたりの人間が生き続けることができたというハッピーエンド。でもそれを「奇跡」という非科学的なことでは片付けたくない露伴。
いまなお解明されていない遺伝子の謎。そこに「もし…魂というものが記憶されていたとしたら」と露伴は思いを馳せる。「運命」と呼ぶものが遺伝子の記憶によって作られるとしたら……という空想科学浪漫に満ちた物語だった第3話は、多様性の物語でもあった。
真央の目の色、しゃべり方などは他人と違うけれど、それは個性であるということは原作にも書かれているが、ドラマでは、真央や露伴の能力を「スタンド」と言わず、「ギフト」としていることで、個性が「ギフト」(贈り物、才能)であると受け取れる。
露伴の言う「魂」とは人間の意思であり、それがジョジョにおける特殊能力の発動にも繋がっている。「魂」も個性であり、ギフトなのであろう。真央たちと露伴たちが運命の出会いをした場所は「頂坂」だった。
人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズは、要約するとスタンドを駆使してバトルする漫画(もちろん読み込んでいけば深いところがたくさんある)で、それを短編ドラマにしたとき、原作ファンのみならず、漫画を知らない人にも独立した一作として受け取れるもの(これもギフトだ)であるように、それが現代的なテーマを含んだものであるようにしようと作り手が苦心したことが感じられる実写化だった。
「きっといいヤツ」というセリフのように、私たちそれぞれにもたらされたギフト(個性)はどれも「きっといいヤツ」。
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木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami