高橋一生『岸辺露伴は動かない』(1)「富豪村」 基の物語の骨格をいっそう堅固にした、理想的な実写化
イラスト/おうか

※本文にネタバレを含みます

NHKドラマ『岸辺露伴は動かない』が良かった理由

漫画の実写化は難しい。その問題に果敢に切り込んでいった『岸辺露伴は動かない』(NHK総合 よる10時〜)。3話連続の第1話「富豪村」。
どんなものかと思ってみたら、異和感なく楽しめた。その理由をあげてみる。

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◯息の長い人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦作)のなかでもスピンオフ的な作品をチョイスしたことによって、漫画実写化への厳しい眼がいくぶん和らぐ

◯アニメ版『ジョジョの奇妙な冒険』の脚本を手掛けた小林靖子が脚本を担当していることへの安心感や信頼感

◯ある程度予算をかけて、美術や小道具、撮影に凝っている。ヘブンズドアーの表現などもビジュアル的に面白くできていて、漫画のいい意味の気持ち悪さが再現された。劇中漫画を本物の漫画家が担当しているところも凝っている(これは朝ドラ『半分、青い。』的)

◯岸辺露伴役の高橋一生が巧い。
生々しさ抑えめで、底知れない雰囲気が魅力的

◯アニメ版の露伴役の櫻井孝宏の参加 

……等々、きわめて慎重(=原作リスペクト)に作っていることを感じる。

中村倫也がキラキラと登場

岸辺露伴(高橋一生)は、仕事に対する意識がすこぶる高い漫画家。彼には他者の過去がわかる“ヘブンズ・ドアー”のスタンド能力をもっていて、それを自作のリアリティー強化に利用している。原作の『岸辺露伴は動かない』はその前提はすでにありきで書かれているが、ドラマはまず、そこを描く。

泥棒が露伴の家に忍び込み、露伴のことを知るという流れが、原作で露伴が初登場する「ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない」のなかに収録されている「漫画家のうちへ遊びに行こう」の冒頭とすこしばかり重なっているように見えて、そこも楽しい。

露伴は泥棒を捕まえて、ヘブンズ・ドアーを使い、彼らの実人生を漫画のリアリティー向上に利用するため監禁する。彼らの記憶に新たな情報を書き込むことで、彼らを操作することもできるのだ。


それもこれも、読まれる漫画を描くため。徹底して隙のない物語を作ろうと岸辺露伴は探求を止めない。

「数の問題じゃあないッ。 嘘っぽいセリフひとつが作品すべてを台無しにしてしまうんだ」

このようなセリフ(この、小さなカタカナ『ッ』が入っているのがジョジョらしい。字幕もそうなっていると、ネットでは高評価だった)をはじめとして、露伴の作品に向かう姿勢は、多くのドラマや映画を作っている人たちに肝に銘じてほしいと思うもの。

だがそんな露伴の考え方を理解できない、集明社の漫画雑誌『ジャンボ』の新人編集者・泉京香(飯豊まりえ)
彼女の視点から、岸辺露伴の輪郭がさらに明確になっていく。

漫画と違う! とびっくりしたのは、中村倫也。泉の恋人・太郎役。この役は漫画ではちょっとしか出てこないが、中村倫也はやけにキラキラして登場し、相変わらずのウィスパーボイスで意味深。彼が泉に山奥の、まるでポツンと一軒家(ドラマでは11軒家)のような豪邸を購入することをすすめ、ここより「富豪村」のミステリーが本格的に幕を開ける。じゃじゃーん。


原作の「富豪村」は50ページに満たない短編で、省略の美を堪能するところもあるが、ドラマになるとそれこそ、シーンとシーンの間のリアリティーというか辻褄合わせが必要で、そこを泥棒、泉、中村倫也(太郎)を使って丁寧に埋めている。

画の力で見せる漫画と、セリフの力で見せるドラマ


さて、富豪村。この村の豪邸の持ち主は皆、二十代でこの土地を所有したことをきっかけに莫大な資産を手にいれてきた。土地を手に入れるには、売り主の試験に合格しなくてはいけない。その試験とは――「マナー」の試験だった。

日本家屋の豪邸に、露伴と泉を迎えに出たのは少年の姿をした一究(柴崎楓雅)
彼は、露伴と泉のマナーをくまなくチェックしていく。そこは概ね原作と同じだが、いくつか原作と違う点があり、そこは原作と比べる楽しさがある。原作の本質を損ねないところで原作とあえて変えた場合は原作ファンも納得し、逆に評価が上がることもあるものだ。

行動の端々に気を使ったものの残念ながらマナー違反を指摘されてしまう露伴たち。ここから、売り主と露伴たちの熾烈な戦いがはじまる。

詳細は未見の方のために記さないでおくが、露伴と一究とのやりとりの緊迫感が途切れない(子役の柴崎楓雅は『テセウスの船』でも魔少年みきおを演じた天才少年俳優で、高橋一生と互角にやりあっていて眼を見張る)。
そのうえ、ドラマだけのニクいオチがついている。ここは、画の力で見せる漫画と、セリフの力で見せるドラマの違いを理解し、うまく棲み分けたところである。

自然をづかづかと踏み荒らす人間たちへの警鐘としてのマナー合戦を、ドラマでは、露伴が禁足地の話を泉にして、割合はっきり伝えようとしている。

一方、原作は、それを木から落ちたひな鳥に託しているように見える。高橋一生ならばひな鳥であっても叙情性をもって見せることは可能であったようにも思うが、他者を損なうと代償を負うという枷を、あくまでも漫画家として生きることがすべてにしてあることが、逆に岸辺露伴らしくブレていない。

原作を実写化したことで基の物語の骨格をいっそう堅固にした、理想的な実写化である。

いずれにしても、マナーをめぐる駆け引きをエンタメでありながら、マナーの勉強もできて、原作のジョジョを知らない人でも入りやすく、第1話として申し分ない。

Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

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@kamitonami