『大豆田とわ子と三人の元夫』とわ子との関係を「なくした」と思う慎森と「捨てた」と思うとわ子
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

同じことで笑い合っていたとわ子と慎森『大豆田とわ子と三人の元夫』第2話

日常会話で気の利いた言葉をチョイスする人たちばかりが集う『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時〜)は選ばれた者たちのサロンめいた世界観が快感。

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第2話で中心になる、とわ子(松たか子)の三番目の夫で弁護士の中村慎森(岡田将生)の気の利いたセリフ群は「いや、いちいち離婚したって言う必要あるかな。お寿司を食べているときにいちいち、死んだエビ美味しい、死んだマグロ美味しいねって言う? 言うかなあ」とか「清少納言とステーションワゴンほど関係ない」「ごめん、本当は思い出にならない。
さよならが言えない」など……。

ビジネスホテルに住んでいて、パンダが好き。理屈っぽく気難しいが、意外と抜けているところもあって取り付くしまもないことはない。そんな慎森ととわ子の馴れ初めは――。

嫌いなものに対する感性が近かったように感じた。例えば、ケータイを手に掲げて通話する業界人ふうの人などを笑う感性が似ている。
とわ子と慎森の出会いは、そのケータイを掲げて通話する人物を笑うところから。その後、捨ててあったソファにとわ子が一目惚れして、慎森が運搬を手伝って、そのソファはふたりのお気に入りになった。

でもスポーツマンタイプの夏でもないのに半袖のインテリアデザイナーに勧められた心身が溶けるソファを購入し、拾ったソファを再び捨てる。元夫三人そろって「春のすき焼き祭り」にとわ子の家を訪れたとき、ソファが新しくなっていることに気づいた慎森の顔……。彼はとわ子がスポーツマンタイプのインテリアデザイナーが四番目の夫になれば、未練が断ち切れると思っている。そう、慎森はまだとわ子を忘れられないのだった。


一方とわ子はソファのように慎森との結婚生活を捨ててしまった。「なくしたんじゃないじゃん。捨てたんじゃん。捨てたものは帰ってこないよ」ととわ子は言う。

出会ったときは同じことで笑って、同じものをお気に入りにしたふたり。出会った頃はスポーツに対する感性も似ていたはずだった。
ところがいまやスポーツマンと仲良くするとわ子。慎森ととわ子の関係を「なくした」と思う慎森と「捨てた」と思うとわ子。ものの感じ方が違ってしまう。その差異が別れである。

価値観の違い

別れはたいてい価値観の違いで起こる。嫌いなもの。好きなもの。
とわ子は外れる網戸が「戦争より嫌い」と言い、ナレーション(伊藤沙莉)や娘・唄(豊嶋花)にツッコまれていた。

とわ子と慎森が接近しているところを唄に見られ、仲悪いことを強調するため、ふたりがどれだけ嫌いか、嫌いなものを列挙する。嫌いなものの例えがまた気が利いている感じ。そのときとわ子はまた「戦争より嫌い」と言う。唄は、ソファを捨てるときにぬいぐるみを拾う。彼女は気にいったが、とわ子は「怖い怖い」と怯える。


『大豆田とわ子と三人の元夫』とわ子との関係を「なくした」と思う慎森と「捨てた」と思うとわ子
第3話は4月27日放送。画像は番組サイトより

とわ子が嫌いなものの比較に戦争を多用するのはずいぶんと極端だけれど、それだけ嫌いだという真剣な気持ちの現れであり、でも実際はそこまで嫌いじゃなくて、無理していることもよくわかる。とわ子の三人の元夫は全員、彼女のこういうところを受け入れられて結婚したのだろうか。三人ともメガネで物静かですこし変わり者な感じであることは共通点だが、似ているようで似ていない。

鹿太郎(角田晃広)は慎森の言動がいちいち気に入らない。ふたりは300円の価値観が違う。「女性の過去になれるって幸せなことじゃないですか」と淡々としている八作(松田龍平)と、過去であることに未練を正々堂々と表す鹿太郎と、未練ありありながら意地を張る慎森との違い。
「春のすき焼き祭り」に来たとき、持参したものもかぶっていなかった。でも誰も肉を持ってこないところは似た者同士という感じである。とわ子のことをまだ憎からず思っているところが最大の共通点である。

この「春のすき焼き祭り」に端を発して、とわ子が警察に連行される事件が起こる。そこで慎森はとわ子とのいい思い出ばかり蘇らせる。同じものを好きで同じものを嫌っていた時間を。

「いいんだよ、はみだしたって。嫌なものは嫌って言っておかないと好きな人からみつけてもらえなくなるもん」ととわ子に言われたことのあった慎森。きっとそれがちょっとひねくれて何事にも批判的な彼を励ましたのだろう。結果的にそんなとわ子との関係性が、彼をひとまわり大きくしていく。公園で出会った不当解雇された女性・古谷翼(石橋菜津美)の弁護を引き受けることにする。

自分の「嫌い」なものと「好きなもの」をはっきりさせながら生きること。それが恋に出会わせる。鹿太郎や八作にも恋の予感……。

エンディングの歌詞がこの回に合ったものになっていた。セリフのひとつひとつが気の利いたものであることをはじめとして、あらゆることをルーティーンにしないで、工夫を凝らしているところが嫌いじゃない。

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※第3話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

●第3話あらすじ
とわ子(松たか子)の部下で、優秀な若手建築士の仲島登火(神尾楓珠)が大学図書館の設計を手掛ける。デザイン案を見たとわ子は、その素晴らしいセンスに同じ建築士として感動を覚えるが、採算度外視のプランを会社の商品として採用するわけにはいかず、その案を不採用にする。社長として苦渋の決断だったが、そのことがきっかけで一部の社員から不満の声があがり、とわ子を悩ませる。
その頃、鹿太郎は、自分の部屋に飾ってあったとわ子の写真についてカメラアシスタントに聞かれ、ダンス教室で初めてとわ子と出会ったときからプロポーズまでのロマンティックな思い出を語る。離婚の理由を聞かれた鹿太郎が悲しそうに答えた、「しゃっくりを止めてあげることが出来なかった」の意味とは?
離婚してもなお、とわ子に未練がある。一方で、自分に好意を寄せてくれている美怜(瀧内公美)の存在も気になる――。新しい恋をするべきか悩む鹿太郎は、八作(松田龍平)と慎森(岡田将生)に相談するが、それぞれ早良(石橋静河)、翼(石橋菜津美)のことが気にかかり、相手にされない。その後、再び美怜の部屋を訪れた鹿太郎だったが……。
依然として社内に不穏な空気がただよい、慣れない社長業に悩むとわ子。皆が帰宅した夜のオフィスでひとり仕事をしていたところ、入り口から不審な物音がして……。


番組情報

カンテレ・フジテレビ系
『大豆田とわ子と三人の元夫』
毎週火曜よる9時〜

▼第1話〜最新話まで全話配信中



出演:松たか子(プロフィール) 岡田将生(プロフィール)
角田晃広(プロフィール) 松田龍平(プロフィール) 市川実日子(プロフィール)
高橋メアリージュン(プロフィール) 弓削智久(プロフィール) 平埜生成(プロフィール) 穂志もえか(プロフィール) 楽駆(プロフィール) 豊嶋花(プロフィール) 石橋静河(プロフィール) 石橋菜津美(プロフィール) 瀧内公美(プロフィール) 近藤芳正(プロフィール) 岩松了(プロフィール) 伊藤沙莉(プロフィール)

脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美

制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ

番組サイト:https://www.ktv.jp/mameo/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami