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連続テレビ小説「スカーレット」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第4週「一人前になるまでは」22回(10月24日・木 放送 演出・佐藤 譲)
実家に泥棒が入り、常治(北村一輝)が大阪に給料の前借りにやってくるという報せの電話を受けた喜美子(戸田恵梨香)は動揺したのか、絨毯になにかをこぼしてしまう。
染みになる前の処理の仕方を大久保(三林京子)に教わり、重曹でとんとん叩くが、父が来る、ということで頭がいっぱいで仕事に身が入らない。
これは巧い。
ふいについた染み。それをとるためにうつむく姿勢、なかなかとれずため息……すべてが喜美子の心象風景になる。BK(大阪局)朝ドラでは安達もじり演出が頻繁に心象を画で見せ、それが巧みでいつも安心して見ることができるのだが、「スカーレット」には残念ながら安達がいない。その代わり、22話では、脚本段階から書かれていると思われるこの見せ方によって、シーンが膨らんだ。脚本はト書き少なめ、セリフ重視とよく聞くが、セリフばかりでもダメで、シーンをどう作るかはとても大事だと思う。
そうしていると常治が荒木荘にやって来た。家の畑でとれた蕪を携えて。それがまるで花束のようであることも面白い絵になっていて、ここもまた良い。
そして、今日も猫。連続猫小説。欲を言えば、登場人物とからみがほしい。「あさが来た」の大番頭・雁助さん(山内圭哉)みたいに。
一足12円
しみ抜きをしていると、常治が入って来て、気まずい雰囲気の父娘の再会。北村一輝と戸田恵梨香のアイコンタクトに、直子(安原琉那)の「お金用意しとけ」の声がかぶる。
そこに大久保が来て(蕪を二株、左右の手でもっている)、
「全部任されているの」と大久保を紹介する喜美子。合わせてさだ(羽野晶紀)は東京に行っていると説明、つまり、お金のことなら大久保さんが握っていると暗に父にアナウンスしているのだ。
事情に気づいたのか気づいてないのか、大久保は喜美子を褒め、ストッキングは給金の足りない分を補填するための内職だったことを明かし、これまでの分の給金を渡す。一足12円、全部で128本。
ものすごい勢いで手を出す常治。
お金をもらって見送りに商店街のほうまで。黙って歩くふたり。やがて、顔がにま〜っとなって、
「すごいやん 一足」
「12円」
ふたりは大喜び。
「ええ人や。泣きそうになってもうた」
という喜美子。この間まで嫌いとか言ってたのになんたる調子の良さ。
大久保は最初にどうして内職だと言わなかったのか。
そもそもさだはなぜ研修期間は給料が少ないとあらかじめいい含めておかなかったのか。
まあそのへんはドラマ。視聴者はうすうすこの展開を予想しながらも、答え合わせをいまかいまかと待ちわびて、
ついにこの日を迎えて、楽しい朝を迎えたのだ。
3年帰らん
父に、盆も正月も帰らない、3年は帰らないと宣言し、荒木荘に帰ってきた喜美子は蕪を洗う。
洗いながら、語らう大久保と喜美子はなにやらすっかり仲良くなった感じだ。
三林京子が、厳しさと面倒見の良さと明るさとをもった素敵な老女を演じている。ちゃんと口紅塗って、キレイにしているのもいい。
「かえさへんで、てや!」
「とやあ!ですう」
とじゃれあうふたり。
大久保と喜美子とのこの流れはきっと作家も楽しんで書いただろうなあと思う。
大久保さんの「ちゃっちゃっとやんなはらんかいな」「難儀やなあ」という言葉があったかく響いた。
真面目に働けば報われる。厳しさは優しさの裏返し。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
登場人物のまとめ
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空 主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉
●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ 信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母
●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。
●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球 大阪から来た借金取り。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜 常治に雇われている。
博之…請園裕太 常治に雇われている。
●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対する。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて引きこもり中。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。
あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳 家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき