「スカーレット」23話「すけべえ」の効能

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」23話「すけべえ」の効能
連続テレビ小説「スカーレット」23話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第4週「一人前になるまでは」23回(10月25日・金 放送 演出・佐藤 譲)


お父ちゃん(北村一輝)に「三年は帰らん」と言って「ただいま戻りました〜」までは22回の振り返りで、大久保さん(三林京子)と台所での会話は省いて、オープニング明けから、昭和30年秋、喜美子(戸田恵梨香)、もうすぐ18歳。荒木荘での暮らしも2年と半年が経過し、新しいターンに入った。
猫ももしかしたら22回が見納めだったか。
代わりというわけでは全然ないが、「おしん」179回再放送に三毛猫が出てきた。

新しいターンへ


大久保さんはいつ引退したのか。喜美子(戸田恵梨香)はひとりで荒木荘を切り盛りしている。月給はいくらくらいもらえるようになったのだろうか。
大久保さんの引退はつい最近なのかもしれない。
なにかと話題に出てきて、「大久保さんはやってたなあ」とさだ(羽野晶紀)、「時々孫を連れて遊びに来る」とちや子(水野美紀)言っているから。

大久保さんの別れを劇的に描かず、実質、22回のあの台所のさりげなく心が通じた感じのシーンで終わりにするところは嫌いじゃない。
中には、もっとメリハリがほしいという視聴者もいるだろうけれど、こういうさりげないのが好きな人もいる。「ただいま戻りました〜」でオープニングに入って時間が経過してしまうのも、わりとトリッキーで面白かったし、基本オーソドックスながら、時々、ほんの少しずらすところに作り手の余裕を感じる。

今日こそ!


喜美子は、室町時代のものと判明した信楽焼のかけらをお守りのようにして、「今日こそ、今日こそ!」と祈る。
映画化もする「今日から俺は!!」にあやかりたいってわけでもないだろうが、なにが今日こそなのかと思うと、ひとつは、雄太郎(木本武宏)の家賃を回収することだった。

雄太郎の映画俳優になる夢は、デビュー作「大阪ここにあり」 がこけて、その後、仕事がなく、家賃を半年も払っていなかった。
喜美子は内職の給料で家賃を立て替えたりもしているなんて、そんなことあっていいのか。いい子過ぎる。


ふざける雄太郎につい笑ってしまう喜美子の、本当に笑ってしまっているみたいな感じや、「大阪ここにあり」「大阪そこにあり」「大阪どこ行った!?」の流れも面白かった。

恋物語のはじまり


これからのターンは、どうやら圭介(溝端淳平)関連のようだ。「あさイチ」にも溝端淳平がゲスト出演した。

もうひとつの「今日こそ!」は、最近引っ越してきた強面のおじさんが荒木荘の前で犬(ゴン)の糞をさせているので、喜美子がそれに「今日こそ」物申そうとすることだった。
圭介が代わってくれるのだが、やって来たのはおじさんでなく女性(佐津川愛美)で、その姿にぽーっとなってしまう。
猫の次は、犬を借りたのか。やはりもう猫は出ないのか、恋よりも気になる動物出演事情。


圭介の恋物語の前ふりは、「すけべえ」と「エロエロ」。
朝、喜美子がさだの肩や腰に湿布を貼っていると、圭介が来て、さだが「来たらあかん」「すけべえ」とからかう。
羽野晶紀の言い方がなんとも可愛おもしろくて、なごむ。絶対やな感じにならない才能である。
このとき、どう考えても、さだが色っぽい気持ちをいだきそうにさせない雰囲気だし、圭介もあたふたもしないで自分の進路のことばかり考えているふうで、「すけべえ」というせりふと状況の乖離が面白かった。
ものごとの結果(オチ)を書かず、そこに至るまでに過程のゆる〜っとしたところを書いているところが独特だ。


圭介はまじめな人らしく、ちや子の新聞社が存続の危機でエロ記事も入れようかと思っているという話をしても、
ひたすら真面目。
「エロエロ」言ったあとに「いろいろ大変やなあ」と言っているのも面白かった。

「あさイチ」でけっこうやんちゃなところを出している溝端淳平が、物静かで真面目な青年を演じているのもなんか面白い。ここ!ここが笑いどころ!っていうのではないのだが、くすっとなるところがたくさんある23回だった。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめ


●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。
勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。
運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

…中川元喜  常治に雇われている。
博之…請園裕太 常治に雇われている。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対する。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて引きこもり中。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき