ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」

ASKAから届けられた、シングル盤としては実に10年ぶりとなったニューシングル「歌になりたい / Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」は、各々これまでコンサートのみでしか聴けず、多くの方から早期の作品化が望まれていた楽曲たちである。そんなCDシングルが11月20日に発売される。

以前のインタビューで「これからは配信オンリーで楽曲発表をしていく」と話していたASKAだが、本作で改めてCDシングルとして出す必要性を強く感じたという。衰退の一途を辿っているCDシングルについて、彼はなぜそう思ったのか――。新譜制作やCHAGE and ASKAの楽曲も披露されるという、15名の楽団を交えての全国ツアーの話に交え、その想いを伺った。

取材・文/池田スカオ和宏

音楽業界でCDシングルのリリースの必要性が出てくる予感がする


ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」

――まずは「歌になりたい / Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」のお話から。以前ASKAさんは、「これからは配信オンリーで楽曲発表をしていく」的な話をしてくださり、近年のシングル曲もずっと配信のみの発売でした。そんななか、今回は配信こそ先行でしたが、後追いで盤として出されたのも意外でした。

今回は先行で配信をし、盤は2週間後の発売設定にしました。これは今、自分のレーベルから自由な形態で出せるようになったのが大きいです。メジャーレーベルでは、こんなにフレキシブルな対応はできないですから。「なぜ今回CDシングルを出すに至ったか?」については、僕のなかで「今、CDシングルとして出す必要性」を改めて強く感じたからなんです。

――それは、そのフォーマット自体が衰退の一途を辿っている、そんな最中でもですか?

そう。もちろんみなさんの「ディスクとして手元に置いておきたい」との所有欲に対しての対応もあります。しかし、アーティストが今の活動を世の中に紹介すべきフォーマットとしてのCDシングルの必要性を改めて感じたからでもありました。「何故それがシングルなのか?」に関しては、僕も来年の3月にニューアルバムの発売を予定しています。そんななか、僕の活動を最近知り、興味を持った方々に向けてでもあって。アルバムまで時間があるなか、シングルとして「自信のある楽曲」を先に切っておくのは、今の自分を世の中に紹介するにはすごくいいし、大切なことだったんです。合わせて、またこれから音楽業界がCDシングルのリリースの必要性が出てくる予感もしていて。これからは年間に2~3枚はシングルCDを出していく考えです。

――逆に今回のように先に配信で出してしまうと、配信で事足りて盤に手を伸ばさない方も多そうな気がしますが。

ところが僕はそうは考えていなくて。それとは正反対だと考えています。CDリリースの2週間前に配信することで、より盤の需要も上がる確信があるんです。

――それは?

今、一番強いプロモーションはネットによる拡散力です。特にSNSは即時性や拡散性に於いてとても有効で。「では、それをどのようにプロモーションに組み込んでいくか?」。そこから出たのが、「先に楽曲を配信リリースする」というアイデアでした。CDを持つ人たちは、やはり「先に聴きたい」との気持ちが強い方々でしょうから。自信のあるものは堂々と先行して配信しても、先に配信で聴いてくださった方が拡散してくれ、それがプロモーションに繋がるんです。そして後発のCDシングルの購買へと直結していく。
ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」
歌になりたい (Official Music Video)より

――あと驚いたのは、配信にしても、通常のMP3の音質のものと、高音質なハイレゾ音源の両方を、しかも同じ値段で発売したことでした。一般ではMP3の2倍以上の金額でハイレゾが販売されていますよね?

今の僕以外でこんなことができる人は、まずいないでしよう。でも実現できたんです。僕の場合は今後もハイレゾ音源の値段を500円代(ハイレゾ音源の相場価格)にするつもりはありません。ハイレゾの高価格の要因のひとつとして、わざわざハイレゾ用の音質にアップコンバートさせる必要があることが挙げられて。対して僕は最初からハイレゾ用の音域のものしか作ってないんです。例えダウンコンバートさせたとしても、それにはコストがかからない。

あと僕はこれから、通常の配信音源は徐々に減っていくと予想しています。世の中の配信はハイレゾのみになる。今はみなさん、それらを再生する環境(ハイレゾ用音響機器)が整っていないから通常配信の方がほとんどでしょう。しかし、もし環境も整い、同じ金額なら多くの人はハイレゾの方を買うでしょう。以降はもうハイレゾしかダウンロードしなくなる。これからハイレゾプレーヤーも価格競争になり、低価格になっていくでしょうし、ハイレゾプレーヤーに収める容量も増えていきます。

――Amazonもハイレゾ/ロスレスストリーミングサービス「Amazon Music HD」を開始し、他サブスクリプション各社も原曲をアップコンバートさせた超高音質のストリーミング対応を開始しました。

これ、早目にやっておいて良かったです。色々な情報やノウハウ、知恵がつきましたから。それを得ていれば、何か思ついたり気づいた時にパッと対応ができる。あと自分の配信スキームでもある「Weare」がなぜe-onkyoと組んでいるかというと……ここの母体はオーディオ機器メーカーなんです。優秀なハイレゾプレーヤーも数多く持っている会社なので、それらも込みで供給できる。良いめぐり逢いでした。

人は楽な方にしか動かない 本質は「豊かさ」をどこに求めるか?


ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」

――ここからは楽曲内容の話に。「歌になりたい」にしても、「Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」にしても、ASKAさんのコンサートでは既に披露されていたこともあり、ようやく作品化される感もあります。特に「歌になりたい」は、「こんなに素晴らしい曲ができたので、一刻も早くみなさんに届けたい」と、約1年以上前からブログ等で伝えていました。まずはここまでリリースに時間がかかった経緯から教えてください。

完成を先に伝えてしまったものの、その後が計画的ではなかったというのが正直なところで。作った者としては、得てして作ったらすぐにでも出したい。だけど今回は間に1ツアー挟んでしまって。でも逆に、それがその本編の大トリを飾ることもできたので万事オーライかなと。まるでそれを予期していたような(笑)。普通はあのような場面(コンサートの大トリ)で、新曲はまずやらないですよ。新曲はみなさん、まずは聴きに入るので。いわゆる通常コンサートで言う盛り上げ、ごっそり持っていって突き抜けてドン、みたいに終われない。

でもこの「歌になりたい」に関しては、それとは別の感動を与えられる力を持っている自負もありました。そこに自分が更に入り込むことでお客さんの気持ちも誘導できる自信というか。新曲を本編の大トリにもってくること自体、僕のコンサートの歴史の中でもなかったことで。そういった意味では先行プロモーションも充分にできたかなって。コンサートを観にきてくださった全ての方々にプロモーションができた訳ですから。

――「歌になりたい」の歌詞のテーマは、楳図かずおの名作漫画『漂流教室』だったとお聞きしました。

当初、この曲がまだメロディのみだった頃。詞を乗せようと何度も何度も聴き返していくうちに、昔から大好きだった『漂流教室』がふと想起されたんです。「あっ、これは漂流教室のテーマ」だと。であれば、自分の想う漂流教室のテーマ曲を勝手に書いてみようと思い立って。

――あの作品も、「親子愛」「時空を超えた絆」「過度な文明発展への警笛」「受け継がれる魂」「緑の大切さ」「自分だけが生き残りたいとの自欲の恐ろしさ」等々、いくつものテーマを内包していますが、ASKAさん的には、その中でもどの辺りにフォーカスを?

子供たちが自ら「自分たちは未来に蒔かれた種」と自覚し、どうやってこれから動くべきか? の行動に出始めた……これがあの作品で楳図さんが伝えたかったことではないか? と僕は受け止めていて。自分たちが現代に戻るのをヤメることを決心して、「この砂漠化した地球を元に戻していくために、僕らは未来に蒔かれた種なんだ!」と。あのシーンにくる度に僕は涙が出てくるんです。読み返して毎回たまらない気持ちになる。

この歌詞の中でも、<どうして僕らは/愛を求めながら/寂しい方へと/歩いていくんだろう>と歌っていますが、それは人間は豊かになりたいと常に思っている。だけど、豊かさの先に何があるのか? といったら、その先には「もっと豊かに」しかない。その行き着いた先が砂漠だった、その辺りを表しています。

――今の世の中は「豊かさ」よりも、「楽な方へ」と進歩していっている気がします。どことなく、「楽になる=豊かな生活」に履き違いられているなって。

そうなんです。「豊かさ」と「楽」は類似していますが本質は違っていて。でも哀しいことに、人は絶対に楽な方にしか動きませんから。ゆえに、世の中がどんどん便利になっていっているわけだし。だけど本質は「その『豊かさ』をどこに求めるか?」でしょう。心の豊かさなのか? 生活の豊かさなのか?
ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」
歌になりたい (Official Music Video)より

先の音楽のフォーマットの話でも、一部「アナログの方が音が良い」との意見がありながらも、みんながCDの利便性の方に流されていった。便利ですから、こちらの方が。でも、音のふくよかさが失われていってしまった現実もある。その便利の先に行き着いたものの一つにストリーミングがあったりして。そこでもきっと大切な何かが利便性の向こうで失われるわけで。なので、それらも全て踏まえ、知った上で、「でも自分はどうなんだ? 何がしたいんだ? どうありたいんだ?」を考えた結果が今の自分の活動スタンスだったりもしたんです。

30代が最も色々なことができる年齢


ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」

――作品に話を戻すと。楽曲は6分超えですが、基本的に歌っていることは非常に真理であり本質ですよね。それをシンプルに伝え、あとは聴き手のイマジネーションや想いに委ねて完成させていく楽曲印象を受けました。

僕らぐらいの年齢になると、自ずとこの辺りのテーマに行き当たるんだと思います。もちろん未だラブソングも歌いますが、今、20代の頃のように純粋に、健気に、男女関係はそう歌えないし、世間が求めている男女のラブソングを、今の僕の年代が歌うには、テーマから見えるシーンの切り取り方を間違えてはならい。どこにリアルさを求めるか?そこを大切にしなくてはなりませんからね。僕は30代が最も色々なことができる年齢だと考えていて。

――それは?

自分もそうでした。30代はリアルなラブソングも書けるし、人として何か考える年齢でもある。それから想うところもしっかりと出てくるし、ちゃんと未来や将来への不安も持ち始める。いわゆる切なさを含んだ不安を表現できるんです。その上、リアルと幻想や希望など、どんなことを歌っても等身大で表すことができます。これって凄いことだったんだな、って今になって感じます。

やはりそこから先の年齢になると比重も変わり、守るべきものが出てきたり、色々と迷いも出てきて前に進めないことも多々出てくる。それが50代を過ぎると逆に達観めいたところまで行ってしまいますから。その時点になると、これからよりも断然これまでを振り返る方が多くなってしまう。大体の自分の人生を大まかに語れてしまいますから。そんな中、僕は僕の世代が必要としている歌。そこを歌えばいいと考えているんです。

――では今、歌を向けてうたっている対象は?

主に同世代ですね。60代としてしっかりと届ける歌を歌おうと。もちろん10代~40代でもアンテナに触れてくれ、それらのテーマを共有できる方々の輪の中に入れる方はウェルカムです。若い人にも聴いてはもらいたいですからね。だけど、そこの層に迎合するつもりは今はないです。
ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」
歌になりたい (Official Music Video)より

――「歌になりたい」とは、とても強いタイトルやメッセージとの印象を受けました。「歌」も時代を経れば、いずれは詠み人知らずになる時が訪れる。だけど楽曲やそこに宿した想いや精神みたいなものは歌い継がれ、聴き継がれ、後々まで遺っていくかもしれない…。そんな永遠性や永劫、大きなサークルを感じたんです。

もちろんそれもありますが、その想いは逆にM-2の「Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」の方に宿しています。

――意外です。こちらには歌はなくインスト楽曲ですよね。感動的で凄くストーリーを想起させる楽曲ではありますが……。

どちらかといったらこの曲の方が後に自分が活動を辞めたり、歳をとって世の中から消えたとしても残っていくんじゃないかなって。

――それは逆に言葉を持ちえないが故だったり?

それもあります。あとは完全にイメージに徹しているからです。何故ならこちらの曲はその感動を伝えることを目的としていますから。

――利便さを求める反面、そこからたぶん得られないであろう、人が何かを成し遂げる感動を共有できる。そこも人間の豊かさとしてはとても大切ですもんね。

文明が発達し発展していけばいくほど、みんなアスリートのような方々に感動を求めていくと感じています。自分を重ねたり疑似させたり。そんな時にこのようにしっかりとシーンが思い浮かぶ楽曲を作っておけば、このまんまではないかもしれませんが、きっと誰かが手を加えながら残っていくんじゃないかな? って。なので今回は、「歌になりたい」が表題曲ではありますが、実は自分の気持ちのなかでは、この「Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」がタイトル曲だったりもするんです。これはもう公言します。

コンサートツアーではこれまでのファンも驚き喜ぶ楽曲を



――そんな中、今回の2曲の楽曲がとても映えそうなバンド編成と楽団を融合させた「billboard classics ASKA premium ensemble concert -higher ground-」が12月10日よりスタートします。

僕自身この融合は楽しみです。これをリアルでやったのは自分の知る限りではELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ=イギリスのロック・バンド。名プロデューサーのジェフ・リン等も在籍)しかいないんじゃないかな(笑)。バンドにどう15人の楽団を巻き込んでいくか? そこは今、考え中です。演出も楽しみですね。ストリングスは基本、バンド編成と違い自由にアドリブを効かせてというのが、譜面を基にやる関係上、難しい面もありますが、それも踏まえた上で、大人数でも上手くできる演出がいま頭の中にはあります。ただ、それが形になるかは、間もなくの3日間のリハーサル次第かなと。

ワンツアーみなさんと一緒に回るので、演る曲たちもどんどん成長し育っていくでしょう。あと毎回違った表情を魅せられるだろうし。観終わったオーディエンスが、「来てよかった!」「観て良かった!」「楽しかった!」そう言ってもらえることを目指し、終わった時に、「良かった! また来たい!!」と感じてもらえるコンサートにしたいですね。やはりエンタテインメント喜びは、そこですからね。

――選曲にも迷いますね?

これまで僕やCHAGE and ASKAと共に歩んで来られた方にも驚いてもらえるような曲もやる予定です。それはもの凄く喜んでいただけるんじゃないかな。そうそう。そこでは既に来年3月発売予定のアルバムの中からの曲も一足先にご披露いたしますので。

――こちらのニューアルバムの進行はいかがですか? 現在レコ―ディングは既に終了し、最終段階に入っているとお聞きしています。

まさに「完成した!」って実感のある作品ができたんで、いま実に気持ちがいいです。もう、「どうぞどこからでも聴いてください!」って自信作。元々1年前にはある程度楽曲としては固まっていたものを、「まだまだだ!」と推敲に推敲を重ねて、「よし、これだ!」と自分で納得のいくまで練り上げた自信曲ばかりです。是非早く聴いてもらいたい。

前回のツアーのタイトルにも込められた「40年のありったけ」が僕の発信できる当時最大のセールスポイントだったんですが、今作でもその意識はあまり変わってないんです。これからの僕の音楽スタイルは、やはり同じように全ての中の一つを毎回作っていこうと思っているんで。常に自分のベストであり、ありったけをその都度出していく。それだけですね。

リリース情報


『歌になりたい/Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ』
2019年11月20日RELEASE
1,300円(税抜き)

コンサート情報


ASKAが唱える“CDシングル”の必要性「SNSからのプロモーションに繋げるため」

billboard classics ASKA premium ensemble concert -higher ground-
【開催日時/会場】
・2019年12月10日(火) 開演18:30/京都コンサートホール 大ホール
・2019年12月11日(水) 開演18:30/愛知県芸術劇場 大ホール
・2019年12月20日(金) 開演18:30/兵庫県芸術文化センターKOBELCO大ホール
・2019年12月27日(金) 開演18:00/東京エレクトロンホール宮城 大ホール
・2020年1月3日(金) 開演17:00/福岡サンパレスホテル&ホール
・2020年1月6日(月) 開演18:30/フェスティバルホール
・2020年1月9日(木) 開演18:30/東京国際フォーラム ホールA
・2020年1月11日(土) 開演17:00/札幌文化芸術劇場hitaru
・2020年1月15日(水) 開演18:30/LINE CUBE SHIBUYA
・2020年1月18日(土) 開演17:00/りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
・2020年2月2日(日) 開演17:00/高崎芸術劇場 大劇場
・2020年2月9日(日) 開演17:00/神奈川県民ホール 大ホール
【特別公演】
・2020年3月20日(金・祝)開演16:00/熊本城ホール

チケット11,800円(税込・全席指定)
※特製プログラム付き
※未就学児入場不可

Profile
ASKA

1979年CHAGE and ASKAとして「ひとり咲き」でデビュー。「SAY YES」「YAH YAH YAH」「めぐり逢い」など、数々のミリオンヒット曲を世に送り出す。音楽家として楽曲提供も行う傍ら、ソロ活動も並行し、1991年にリリースされた「はじまりはいつも雨」が、ミリオン・セールスを記録。同年のアルバム「SCENEII」がベストセラーとなり、1999年には、ベスト・アルバム「ASKA the BEST」をリリース。また、アジアのミュージシャンとしては初となる「MTV Unplugged」へも出演するなど、国内外からも多くの支持を得る。2017年には、自主レーベル「DADA label」を立上げ、アルバム2枚をリリース。2018年にはフルオーケストラとの共演を行い、2019年にはアジアを含めたバンドツアーを開催するなど、精力的な活動を行なっている。

ASKA Official Web Site