この本の刊行記念トークイベントが、2019年11月10日に青山ブックセンター本店(東京都渋谷区)で開催。80年代『りぼん』(集英社)を語るときに欠かせない名作「ときめきトゥナイト」の作者・池野恋と、池野の近年の作品の装丁を多く手がけているブックデザイナーの名久井直子がゲストとして登壇した。
ゆかしなもんと名久井は、ふたりとも80年代に「りぼんっ子」だった直撃世代。子供の頃の憧れの漫画家に、長年の思いを直接ぶつける機会となった。
作者と使う側、それぞれの思い
ゆかしな:「当時の『りぼん』は8大ふろく、10大ふろく……と豪華なふろくが毎号付いていました。なかでも池野先生のものは大人気で、私が当時もっとも衝撃的だったのは、このカラーサインつきサイン帳。池野先生の自画像とサインが付いてたのがすっごくうれしかったんですよ!」
池野:「私はすっごくイヤでした(笑)。自画像にサインまで……なんだか恥ずかしくて。」
ゆかしな:「え〜! そうだったんですか!?」
「ふろくなのに(キャラではなく)なぜ自分……」と恥ずかしく思っていた作者と、「珍しくてうれしかった!」という当時の子供たち。その思いのギャップが35年以上経って明かされたかたちだ。
つぎに、池野恋自身も思い出深いというレターセットのふろくについて。
ゆかしな:「これが付いてきた号に、先生が『豚を飼っているから、描くのはお手のもの』とふろく紹介ページでコメントしておられたんですが、本当なんですか?」
池野:「ペットだと思われた方もいらっしゃったんですが、当時は家で養豚をやっていたんですね。つまり、家畜だったんです。」
実は養豚がルーツ(?)だったのか! と当時の秘話を知ることができるのもなんだか新鮮だ。
グッズを見ると蘇る小学生時代
通常号に付いてくるふろくだけじゃなく、「応募者全員サービス(全サ、全プレ)」のグッズにも思い出はある。
名久井:「わたし、この全員大サービス持ってました! でも当時、このリュックに給食のパンを入れたまま学校に忘れて帰っちゃったんです。そしたら次の日ネズミにやられて布が粉々になってて、大ショックでした……。」
観客:「エエエーー……」
小学生時代の愛用品って、見ただけで思い出まで掘り起こされたりするものだが、結構衝撃的な部類じゃないか。
名久井:「全員大サービスは、応募券と一緒に相応の額の切手や定額小為替を送るともらえるシステムだった記憶があるんですけど、編集部には恐ろしくたくさんの切手が届いたんでしょうね。」
ゆかしな:「何十万通もの応募があったらしいですよ。先日、別のトークイベントの来場者で『30年以上、ずっとグッズが届くのを待ってるんです』という方がいらっしゃったんですけど(笑)、発送するほうも大変ですよね。」
編集部によると、発送は外部業者が担当していたが、未着など問い合わせの電話応対は専用の回線を引いて「りぼん」編集部内でおこなっていたそうだ。毎号のふろくを紹介する「ふろくファンルーム」にも山のように手紙が届いていたそうで、編集者が読者と直接電話や手紙でやり取りをしつつ雑誌やふろくも作っていたなんて、思ってたよりも関係が密接だ。
マンガの設定、どう作られた?
ふろくの話から派生して、連載そのものについての質問に。
名久井:「(「ときめきトゥナイト」の)蘭世のストライプの制服って、どうしてあんなオリジナリティがあるデザインだったんですか? すごくかわいくて好きなんです。」
ゆかしな:「憧れましたよねー。モデルがあったんですか?」
池野:「覚えてないんです……(笑)。モデルがあった訳でもなく。セーラーにしたかったとは思うんですけど、普通じゃない感じのデザインにしたかったのかなと。」
なにかあるんじゃないか!? と思って細かく聞いてみても、そんなに深い理由がないパターンも多い。
来場者から事前に募っていた質問も読まれた。
質問:「(「ときめきトゥナイト」第一部の)連載当時、真壁君が生まれ変わって魔界の王子様になったこと、二千年前の生まれ変わり、ゾーンとの関係などの設定に度肝を抜かれておりました。こういった設定を盛り込むことは、どのぐらい前から想定して描かれていたんでしょうか?」
池野:「その都度その都度、直前に考えていました。
ゆかしな:「そうなんですか!? それがすべて繋がって壮大な物語になっていたのがすごいですね。」
「ときめきトゥナイト」は第一部だけでも連載5年・RMCコミックス16冊分にもなるが、当時夢中で読み、ストーリー展開に引き込まれていたものが「その都度」考えられていたとなれば、会場もどよめく。
40年間、アシスタントは雇わず一人で
新人の頃、普通に就職し会社員として勤務しつつ、同時に漫画の連載もこなし、多忙の日々を乗り切っていたという池野恋。当時も今も、ずっと岩手県在住だ。
名久井:「仕事はたまにご家族に手伝ってもらったことはあっても、アシスタントを雇って手伝ってもらうことなく今に至るんですよね。」
池野:「そうですね。田舎だから人手がなかったということもありますけれども、アシスタントを雇うと私が『お茶飲む? お菓子食べる?』と気を使ってしまって仕事ができなくなりそうなので、ずっと一人でやっています。」
名久井:「じゃあ下絵やペン入れも……」
ゆかしな:「ベタ塗りも全部お一人でやられてたんですか?」
池野:「なので、当時の原稿を見ると真っ白で……すみません。(笑)」
ゆかしな:「80年代はさぞかしお忙しかったと思うんですけど、年齢もまだ若くて遊びたい気持ちもおありだったんじゃないでしょうか?」
池野:「私はあまり外に遊びに行くタイプではなく、仕事の合間の息抜きにはよくゲームをしてました。『ファイナルファンタジー』とか『ドラゴンクエスト』とか……」
名久井:「今もなにかゲームはやっておられるんですか?」
池野:「『ポケ森(どうぶつの森 ポケットキャンプ)』と『ドラゴンクエストウォーク』ですね。仕事のほうは、今は充電期間です。」
ゆかしな:「今回、来場者の皆さんから池野先生の画集が欲しいというリクエストがすごくたくさん届いていまして、ぜひぜひそちらをお願いしたいなと。私達、もう買う準備は出来てますよね!」
会場にいた集英社の方たちに向けてそう告げたところで賛同の拍手が大きく起こり、イベントは締めに入る。
名久井:「当時の記憶が総動員されてきて、後頭部がズキズキしてきました。」
そんな人がこの会場には大勢いた。つぎは画集に期待したい。
(さくらいみか)