「都合の悪い情報も出す方が得策」自発的に外出制限に従うロックダウン中のベルリン

「都合の悪い情報も出す方が得策」自発的に外出制限に従うロックダウン中のベルリン
店によってはトイレットペーパーが品切れになる場合も

新型コロナウイルス流行地域であるヨーロッパの中でも、感染者数に対して死者数が少ないのがドイツだ。4月5日現在で感染者約8万6000人に対して、死者数は約1200人となっている(一方で、イタリアは感染者数約12万人に対して死者数約1万5000人)。同じヨーロッパでも、ドイツはフランスやイタリアといったラテンの国々とはまた異なった国民性であり、国内も連邦制のため州によってロックダウンの措置に若干の違いがある。

そこで新型ウイルス封じ込め真っ只中の首都ベルリン現状を、現地在住のライター・田中史一が伝える。

取材・文/田中史一 加藤亨延

食品や日用品の買い占めはロックダウン初期だけ


「都合の悪い情報も出す方が得策」自発的に外出制限に従うロックダウン中のベルリン
ロックダウン中のベルリン市内アレクサンダー広場

――ドイツで新型コロナウイルスはどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

ドイツ西部の自治体、ハイスベルクで感染が広まっていると聞いたのが、3月5日頃でした。カーニバルをきっかけに感染者数が爆発的に増加したそうです。その頃はベルリンでの感染は問題になっていませんでした。

事態の深刻さが増したのは3月10日以降です。ドイツでは戦後75周年を記念して、かつての強制収容所で大規模な式典が計画されていました。しかし11日からドイツ各地の強制収容所博物館は式典の中止を発表し始めました。ベルリン近郊にあるザクセンハウゼン強制収容所博物館も式典の取り止めを決めましたが、その時点での職員たちの様子は「参列する生存者の人たちは高齢だから、正しい措置だね」という雰囲気で、まだ他人事でした。

街全体に深刻な雰囲気が漂い始めたのが13日です。この日、ベルリンの全博物館が当面の休館を発表し、企業も従業員に対してホームオフィス(在宅勤務)の可能性を示唆し始めました。16日にスーパーマーケットに行った際には、生鮮食品はありましたが、パスタやトイレットペーパーが売り切れていました。アジア食材店も普段とは少し違う客層で、ヨーロッパ系のお客さんもお米やカップ麺を買い込んでいました。17日にはロバート・コッホ・インスティテュートという医学研究所がドイツのコロナ感染状況を「危険」という段階に引き上げました。

それぞれの機関や企業が措置を取り始め、危機感が本格的になってきたのが3月18日頃です。人通りも目に見えて減ったように思います。ただ、この時点では、ベルリン州は公的な外出制限の措置を発表していませんでした。ラジオでは「次の週末がカギです。皆さん、不要不急の外出は避けましょう。皆さんが協力すれば外出制限令は出されなくてすみます」というような呼びかけが流れていました。ラジオはベルリン・ブランデンブルグ放送局のもの。DJが呼びかけていました。

3月20日と21日の週末には、市民の協力が得られたようで、警察に注意を受けた人は少なかったそうです。けれども3月22日には飲食店における店内でのサービスが制限され、23日にはベルリン州から正式に外出禁止の措置を発表されました。

――新型コロナが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?

図書館が閉まると聞いたので、課題を書くための本を借りに行きました。同居人はホームオフィスに備えて、職場の自身のパソコンを持ち帰ってきました。食料品の補充は心配ないという報道が繰り返しあったので、その点に関しては特に焦りませんでした。

――ベルリンでのロックダウン状況はどのような感じでしょうか?

外出は、食料品の買い出し、ペットの散歩、通院、ジョギングなどを除いて基本的に禁止されています。また、家族や同居人である場合を除いて、公共の場において3人以上で連れ立ってはいけません。2人は大丈夫です。

ベルリンでは、バスや地下鉄も間引き運転されています。人通りも減りました。3月16日から19日頃までは、お昼時に外出する人も少なくありませんでしたが、今は日中でも人の行き来はほとんどありません。私の家はベルリンのアレクサンダー広場の近くにあり、いつも人であふれている場所です。

3月31日の時点では、ベルリンにおいて罰金制度はまだ導入されていませんが、ベルリン上院は罰金導入について議論を重ねているそうです。
「都合の悪い情報も出す方が得策」自発的に外出制限に従うロックダウン中のベルリン
外出制限であっても物流は保たれている

――ロックダウンが始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

3月20日前後です。

――実際にロックダウンが始まったあと、街の雰囲気はどのように変わりましたか?

雰囲気はそれほど深刻ではありません。トイレットペーパーやパスタの買い占めといった、初めの頃の混乱もすでに落ち着いています。若者が公園などに集まる「コロナ・パーティー」もありません。

身近なところでいうと、助け合いの方が目に留まります。マンションのエレベーターには「助けが必要な方は○階の○○におっしゃってください!」という張り紙が貼られています。3月21日には19時から医療従事者に拍手を送ろうという企画もありました。

ただ、外出制限が収入に打撃を与える場合は別です。例えば、先ほど話題に出したザクセンハウゼン強制収容所博物館で働くガイドの場合、全員がフリーランスとして博物館と契約を結んでいます。基本的には他の博物館のガイドとして掛け持ちで働いている人が多いので、博物館の閉鎖は収入に大きな影響を及ぼします。そのため、ガイド同士で今後の博物館側との交渉に備えた話し合いがメールで行われています。

政府や州が打ち出した財政援助についても情報が錯綜しています。ベルリンでは自営業者とフリーランスを対象に3月27日から申請の受け付けが始まりましたが、実際に援助の対象になるのかどうか、いくら援助されるのかは個々の申請者にはまだ分かりません。

ベルリン市民は自発的に外出制限に協力


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ショッピングモールもロックダウンで閑散としている

――田中さんと周囲はロックダウンのなか、家でどう過ごしているんでしょうか。

オフィスワークに切り替えが可能な仕事を家でしています。同居人も在宅でZoomなどのプラットフォームを使って仕事をしています。時々YouTubeの動画を見ながら運動をします。外出するのは4~5日に1回の食料品の調達とゴミ捨てだけです。

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

外出制限が出る前の3月18日頃から、ほとんどの市民が自発的に外出制限に協力していました。さすが規律の国だなと感心しました。しかし、外出制限ムードがわずか1〜2日で一気に高まったので、「報道ひとつで自ら上に従う態度」がナチスを生んだのかという印象を抱いたことも否定できません。買い占めに見られる「自分さえよければいい」という態度に関しても「ユダヤ人を見殺しにしたドイツ市民と何も違わない」という批判も耳にしました。

とはいえ「コロナ・パーティー」のような事態を理解していない集まりも開催されていたので、どこに注目するのかによって、今回の新型コロナ騒動におけるお国柄の印象は変わると思います。

――ロックダウン後の買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

買い出しは4〜5日に1回、まとめて行きます。買い物の内容は特に普段と変わりません。しいて言うなら、私の家の場合は冷凍庫がなく保存ができないため、お肉の消費量が減りました。買い出し日と翌日しか食べられません。

一般のスーパーマーケットでは、トイレットペーパーやパスタ、米、トマト缶の買い占めがあったようです。こうした品物は補充にバラツキがあるのか、あるいはすぐに売り切れるのか、大概売り切れ状態です。ただ、アジア食材店にはたくさん米があります。一般のスーパーマーケットのお米に比べると高いですし、ドイツの一般家庭ではお米(特に日本で食べられているような米)をそれほど消費しないようで、5kgや10kgの米袋は普通に買えます。また、アジア食材店にはうどん、そば、そうめん、ラーメンなどもそろっています。

――ロックダウン後の食事は自炊? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?

自炊です。同居人と交代で作ったり、一緒に作ったり、飲みながら作ったり、とにかく飽きないように必死です。開いているお店や宅配をしているお店の状況が分からないのと、近所に手頃なお店がないので、宅配やテイクアウトは難しいです。

――ロックダウン後に許される外出の範囲は?

日用生活品の買い出し、通院、ペットの散歩、心身の健康のための散歩やジョギング、両親が別居していて、定期的に面会が決まっている場合などは親と子どもの面会です。

――ロックダウン中の学習環境は? 子育ての懸念点、工夫していることがあれば教えてください。

子どもがいる家庭から聞いた話ですが、自宅で両親が交互で勉強を見ているそうです。その子の両親は2人とも理系の学者ですが、娘3人(全員小学生)の勉強の相手を、ひとりでするのは骨が折れるとのことでした。ちなみに、子どもの世話をする場合は「特別休暇」という制度を利用することで、本来の有給を消費せずに済みます。

――国からはどのようなサポートがあるのでしょうか?

フリーランスや自営業を対象とした「ゾフォールトヒルフェ(緊急援助)」という財政支援があります。受給額はそれぞれの状況によって異なります。自営業者には「国からの支援」「ベルリンからの支援」「国とベルリンの共同の支援」という3つの枠組みが設けられています。どこから援助を受けるのかによって、支払い方法(一括か月毎か)や最大の受給額に差があります。誰がどの枠組みで補償されるのかは私も分かりません。

個人のフリーランスはベルリンから支援を受けます。最大支給額は5000ユーロ(約60万円)だそうですが、場合によっては複数回申請することも可能です。家賃の滞納に関しても規則が緩和されました。一定期間は家賃が滞納されても大家は立ち退きを強制できません。

緊急時は不都合な情報も出した方がいいのでは


「都合の悪い情報も出す方が得策」自発的に外出制限に従うロックダウン中のベルリン
ベルリン市内の道路も車の数はとても少ない

――日本の様子はどのように報じられていますか?

日本に関しては、オリンピックの延期が決まったこと以外には何も報道されていません。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

政府が危機感を持っていないような印象をどうしても受けてしまいます……。感染が一気に広まり、医療制度が逼迫している事態が世界中で起こっています。「検査をしていない、できない」「ベッド、呼吸器、マスク、防護服が足りない」「お金がない」など、言いにくいことはいろいろとあると思いますが、ドイツの政府や報道を見ていると、都合の悪い情報も出す方が得策だと感じます。

政府が一気に解決できなくても、「何がどこでどれだけ不足しているのか」を個人が把握することは行動に繋がります。個々が「どうすればその問題は解決できるのか」について考えられれば、対策が立てられます。そうした小さな努力が全体の崩壊を防ぐのではないかと思います。

――もし、日本がロックダウンや緊急事態宣言が出た場合に、気をつけるべきことや、アドバイスするとしたらどんなことがありますか?

ひとりで家に閉じこもるのもつまらないものですが、ずっと誰かと一緒なのも息が詰まります。けれども、そこはお互いさまです。「自分の不機嫌は自分で解決」「人に不機嫌をぶつけない」をモットーに頑張ってほしいと思います。また、ドイツでは外出制限によって女性や子どもが家庭内暴力に晒される危険が高まったという報道がありました。家の中で怖い思いをする人がひとりでも減るように、危機的な状況にある人が助けを求められる場所や方法を早急に確立する必要があると思います。

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