「東京が次のホットスポットになるのでは」 新型コロナでロックダウン中のイギリスの現状
新型コロナ対策のため一度に入店できる人数を知らせた注意書き

当初の「集団免疫」政策から「封鎖」政策に舵を切ったイギリス。現在は外出制限が出され、イギリスの各都市はロックダウンしている。
チャールズ皇太子らも新型ウイルスに感染し、なかでも闘病中のジョンソン首相は容体が悪化し、集中治療室に入ったと報じられた。

現在のイギリス様子を、オックスフォードで暮らす現地ライターに聞いた。

取材・文/ケンディアナ・ジョーンズ 加藤亨延


ロンドンは地下鉄が混み合い「社交距離」保てず


「東京が次のホットスポットになるのでは」 新型コロナでロックダウン中のイギリスの現状
バス停の電光掲示板にも「命を救え」の文字が

――新型コロナはどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

最初の感染者が確認されたのは1月末で、その後、海外に渡航歴のある感染者を介して感染が徐々に広がりました。3月11日の世界保健機関(WHO)のパンデミック宣言あたりから、暗雲が立ち込め始めて、3月中頃にイギリス政府は不要不急な外出の自粛要請を出しました。その頃のイギリスの新型コロナによる死者数は、すでに死者数が跳ね上がっていたイタリアの、2週間前と同等という研究者の分析結果も出ていました。イギリスがイタリアと同じ経路をたどると、深刻な事態に陥るのではと危ぶまれていました。

生活が激変したのは、外出の自粛要請が発令された3月23日からでしょうか。
事態が急に深刻化したのは、3月末に差し掛かってからです。検査数が増えたこともありますが、1日あたりの死者数も数百人となっています。イギリス政府は「良くなる前に、より悪くなるでしょう」との今後の見通しを発表しました。そして新型コロナが深刻化するのに備えてロックダウンに入りました。

――新型コロナが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?

外出の自粛要請が出てから、人込みや人付き合いを避けて「静かな」生活を始めました。手洗いや消毒も欠かしません。
新型コロナ情報も毎日追っています。

――お住まいの国でのロックダウン状況はどのような感じでしょうか?

とにかく外出を禁止しています。同居人以外の3人以上が集まるのもダメ。不要不急の外出ではないと証明できない場合には、罰金が科せられます。

――ロックダウンが始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

政府はロックダウンをほのめかしていましたが、3月23日の夜に予告なしでいきなりロックダウンになりました。というのもロックダウンの前、パブ、レストラン、バー、ナイトクラブが営業禁止になった時には、予告がありました。
しかし多くの人が「閉まる前に」とパブなどに押しかけて、逆効果になってしまいました。

――実際にロックダウンが始まったあと、街の雰囲気はどのように変わりましたか?

オックスフォードの町は、もぬけの殻になりました。しかし、町にある運河の引き船道は、1日1回の「運動」をする人たちであふれて、問題になっています。公共交通機関は医療従事者などの“キー・ワーカー”のために一応運行していますが、ロンドンでは地下鉄の車両が混み合い、2mの「社交距離」を保つのが難しいそうです。

――人々は家でどう過ごしていますか?

私も周囲も、誰もがほぼ1日中、室内生活を余儀なくされています。時間を趣味に費やしたり、家族と過ごしたりなどプラス面もありますが、長引く外出制限下の生活による精神面への悪影響や、家庭内暴力の激化などの問題もあるそうです。


スーパーの宅配サービスを利用する人が急増


「東京が次のホットスポットになるのでは」 新型コロナでロックダウン中のイギリスの現状
品薄になった小売店の棚

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

オックスフォード近郊の村デンチュワースでは、新型コロナでロックダウンしている村民を励ますために、匿名の男性がロックダウン中は毎週金曜に、村民全員にフィッシュ・アンド・チップスを振る舞っていて話題になりました。イギリスでは毎週金曜にフィッシュ・アンド・チップスを食べる習慣があります。

――買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

近くのスーパーや隣町のアジア食料品店へ、必要に応じて買い物に行っています。トイレットペーパー、パスタ、卵、石けん、ハンドサニタイザーがもっとも品薄です。その他にも缶詰、野菜、牛乳なども不足気味ですね。

――食事は自炊が主でしょうか? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?

すべて自炊です。
スーパーマーケットがライフラインになっています。スーパーマーケットの宅配サービスは予約がいっぱいで利用できません。フードデリバリーや持ち帰りなどのサービスは営業していますが、自炊の方が安心です。

――外出の範囲は?

スーパーマーケットか薬局への最低限の買い物、日々の健康維持のための短時間の運動、病院にかかる場合、重篤化リスク者の介護、そして在宅勤務のできなく必要不可欠な仕事への通勤、これら以外の理由では外に出られません。さらに、できるだけ遠出は避けるようにと政府は呼び掛けています。やむを得ず外出する際には他社と2mの社交距離を保たなければいけません。
基本的に自分以外の人間に、家族でも、友達でも、同居者以外は会ってはいけないということです。

――国のサポートはどのような手当てがあるのでしょうか?

社会保障はしっかりしています。まず雇用主は、従業員の給料の80%を国からの保証で賄うことができ、感染で自己隔離してる人には傷病手当金が支給されます。フリーランスも救済されているそうです。新型コロナによって、ユニバーサル・クレジットという低所得層向けの給付制度への申請をした人の数が、ロックダウンが始まってからもうすでに100万人を超えていると聞きました。

東京が次の新型コロナのホットスポットになるのでは


「東京が次のホットスポットになるのでは」 新型コロナでロックダウン中のイギリスの現状
国民健康サービス(NHS)のシンボルである虹が描かれた壁も

――日本の様子はどのように報じられていますか?

新型コロナに関しては日本の報道は、ほとんどありません。しかし五輪開催の有無については、連日報道されていました。政府が新型コロナ問題を軽視して、五輪を進めようとしていた姿勢が問題視されていました。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

少し前まで、日本はなぜか新型コロナ危機に持ちこたえている国と思われていましたが、今は、満員電車などで有名な東京が次のホットスポットになるのではないかと言われています。

――新型コロナ感染と格闘するイギリスでの生活を通じてアドバイスがあれば、どんなことがありますか?

精神面での準備が大切だと思います。「家にいる」大切さをイギリス政府は訴えていて、日本の「三密」ならぬ「Stay home, protect the NHS, save lives(家にいろ、国民健康サービスを守れ、命を救え)」ということを推奨しています。 一人一人が無意味に家を出ないことで、感染拡大、医療崩壊を防ぎつつ、病死者を少しでも減らすということです。