外出自粛になったニューヨーク「どうぶつの森に癒される若者も」
普段は混雑するタイムズスクエアも人はまばら

アメリカでも新型コロナウイルスは猛威を奮っている。今やアメリカは新型コロナウイルスの感染者がもっとも多い国になり、4月7日時点で死者数も1万人を超えた。
政府や各自治体の首長が迅速な対応を迫られている中で、注目を集めているのがニューヨーク州のクオモ知事だ。

現地の様子を同州ニューヨーク市マンハッタン区に住む金融関係者に聞いた。

取材・文/加藤亨延


握手やハグなしの挨拶に慣れるまで時間がかかった


外出自粛になったニューヨーク「どうぶつの森に癒される若者も」
新型コロナについて日次報告をするクオモ知事(ニューヨーク州政府が配信する映像より)

――新型コロナはアメリカでどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

初めてコロナの感染者が確認されたのはワシントン州シアトル市で、1月21日でした。ニューヨーク州で初めての感染者が確認されたのは3月1日です。ニューヨーク州では感染者が76人に達した3月7日に非常事態宣言、アメリカの政府レベルでは3月13日に国家非常事態宣言を出しています。

――新型コロナが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?

ニューヨーク州でも感染者が発見されて以降は、皆、携帯用の消毒液を持ち歩くなど一定以上の注意は払っていたように思えます。マスクをする文化がないので、している人はごく少数でした。


ニューヨーク以外の州やヨーロッパで、すでに新型コロナが深刻化していたこともあり、周囲でも国内外の旅行をキャンセルしている人は多かったです。また、欧米人は挨拶で握手やハグをする文化があり、コロナ感染リスクがあるため握手やハグを控えるように言われていたのですが、実際握手やハグを絶対にしない挨拶に慣れるまで皆時間がかかっていました。

――ニューヨークでの都市封鎖はどのような感じでしょうか?

アメリカにおいては、フランスなどのように外出することで罰金が課せられるようなロックダウン(外出禁止)ではありません。ニューヨークの場合、州から事業者に対して外出につながる行為に制限をかけ、その上で市民に外出自粛を強く呼びかけている状況で、これが実質的なロックダウン(外出禁止)とみなされています。

州政府により大規模な会場(ブロードウェイ、コンサート会場など)は全てクローズ、レストランなどは店舗営業のクローズ(テイクアウト、デリバリーのみの営業)しています。州政府は州内の事業者に対し、生活に必須とされる業務以外の在宅勤務を命じているため、一部の業種(医療関係、スーパーマーケット、ドラッグストア、銀行など)以外に従事する人たちは全員在宅勤務をしています。


ソーシャル・ディスタンス(人と人との社会的距離を広げる戦略)により、対人の距離を6フィート(約1.8m)以上空けて行動するように指示されています。スーパーマーケットなどは一度に入れる客の人数を制限しており、入館を待つ客の列も1人1人距離を開けて並んでいます。ニューヨーク市のレベルでは、ソーシャル・ディスタンスを守らない市民に対して最高1000ドル(約10万9000円)の罰金を課すことができるようになりました。

――外出制限が始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

新型コロナ感染拡大を防ぐ措置は、感染者数の状況に合わせて行政が段階的に講じていましたが、 住民がロックダウンを予想し始めたのは、ニューヨーク州が劇場などの大規模な会場の閉館を発表した頃(3月第2週後半)からです。その後、各劇場や美術館が閉館を発表、スポーツのシーズン一時停止などの発表が続きました。

――実際にロックダウンが始まったあと、街の雰囲気はどのように変わりましたか?

ニューヨークは世界有数の観光地ですが、タイムズスクエアといった観光名所から人が消え、代わりに警官とウーバーイーツの配達人が増えました。
もちろん外を歩いている全体人数は激減しています。

――外出できないなか、ニューヨークの人々は家でどう過ごしているんでしょうか。

皆、自分も新型コロナにかかるかもしれないという恐怖と、家からなかなか出られない閉塞感でストレスは溜まっています。ニューヨーク州知事(アンドリュー・クオモ)がリーダーシップを発揮しており、目的(感染拡大を防ぐこと、医療崩壊を防ぐこと)が明確に示され、行政が講じる対策もクリアに伝わっているため、市民は想像以上にルールを守り、可能な限り自宅待機をしているように見えます。

家族や友人とのFaceTimeや、チャットでの交流、情報交換は以前より密になっています。また、ここアメリカでも3月20日に任天堂から販売された「あつまれどうぶつの森」は、癒しの存在としてヒットしており、現実世界で引きこもりながら、無人島でどうぶつ達と戯れている若者も多いです。


日用品はAmazonを利用も需要増に配送は遅れがち


外出自粛になったニューヨーク「どうぶつの森に癒される若者も」
ハドソン川に到着した病院船

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

ニューヨーカーやアメリカ国民は9・11の実体験もあり、危機的状況の時に助け合う意識が非常に強く根付いています。もちろん新型コロナによる社会的混乱は一部で起きていますし、アジア人に対する差別も残念ながらゼロではないようですが、店舗閉鎖の影響で経営が厳しくなった地元のレストランに、近隣の住民ができるだけ食事を注文してサポートしたり、店舗をクローズせざるを得なくなったレストランが、ホームレスへ食事を提供する団体へ食材を寄付したりと助け合いの動きもよく見られます。

また毎晩夜7時には皆窓を開けて2分間拍手をし、医療従事者の方々などへの感謝を表しています。普段はあまり話すことのない近隣の住民とも、至近距離で会話はできませんが、拍手で一体感が生まれています。

――買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

Amazon本国ということもあり、日常品はAmazonにてオンライン注文、食材もスーパーマーケットないしはAmazon Fresh(オンライン生鮮食品販売)、Whole Foods(スーパーマーケット)の宅配注文といったAmazon系列のシステムで、ほとんどのものが注文できます。しかし、ロックダウン後宅配の需要が急増しており、なかなか迅速な宅配スケジュールが組みにくくなっています。
そのため直接店に買い出しに行く人もいます。

ニューヨークでもマスクや消毒液の購入は、現時点でもほぼ不可能です。外出禁止令が出る直前は皆、スーパーマーケットに買い出しに出かけたため、スーパーマーケットは一時的に品薄になりました。一時的に売り切れた食品はパスタや小麦粉、シリアルや冷凍食品などでした。

――食事は自炊? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?

ロックダウン前の食生活を継承しているケースが多く、元から自炊をしていた家庭は引き続き自炊、外食などが多く自炊をしていなかった家庭は宅配やテイクアウトを主にしているようです。ウーバーイーツのようなレストランから宅配を行うビジネスは需要が加速しており、宅配サービスを行うスタッフは急増しています。


――外出の範囲に何か規定はありますか?

外出自粛の規定に入らないものは、スーパーやドラッグストアへの生活必需品の買い出し、近隣の店へのテイクアウトのピックアップ、医療機関や銀行など生活に必要な機関への外出、散歩などです。

――学習環境はどうでしょうか? 子育ての懸念点、工夫していることがあれば教えてください。

多くの学校が「ディスタンス・ラーニング」と呼ばれるオンラインでの授業に切り替えています。学校ごとに差はありますが、一例としては、子供たちは毎朝始業時間前にシステムにログインし(出席届にあたる)、その後その日に与えられた課題をこなします。教師が事前に録画した教材を使いながら学習し、その日の授業後には教師からメールが届き、その日の状況などのフィードバックとともにフォローアップを行います。

また、定期的に教師とクラスメイト全体でのビデオチャットもあり、交流が図られるようになっています。授業のための教材だけでなく本や数学のゲームなど にアクセスできる「図書館」も開放され、保護者たちが事前に想像していた以上に学習環境は整っているようです。

ただし、子供の年齢によっては、どうしても朝の学習開始の際や途中に親の助けを必要とする場合はあります。現在多くの保護者が在宅勤務を行っている環境下では対応できるものの、保護者が出社するようになってからは、現実的に継続が難しい家庭も出るであろうことが懸念されています。

――国からはどのようなサポートがあるのでしょうか?

3月27日に、コロナと戦う国民や対策を支援するため、史上最大規模となる2兆ドル(約218兆円)規模の景気刺激策法案がトランプ大統領により署名され、法案が成立しました。

主な計画としては、国民個人に対する現金の給付(現状案は一定額以下の収入の大人の場合1200ドル(約13万円)、17歳以下の子供は500ドル(約5万5000円)、普段は失業保険の対象とならないフリーランサーなども含めた失業保険の拡充、倒産の危機にある企業への税金の優遇や融資の拡大などとされています。

国防に必要な物資の生産を、政府から民間企業に命令できる国防生産法も発動されました。早速大統領の命を受け、米自動車大手のゼネラル・モーターズは医療機器メーカーと連携し人工呼吸器の製造を始めています。

日本は危機感が少ないのではないかと心配


外出自粛になったニューヨーク「どうぶつの森に癒される若者も」
新型コロナについてガイドラインを発表するトランプ大統領(トランプ大統領のTwitterより)

――日本の様子はどのように報じられていますか?

ダイヤモンド・プリンセス号が横浜に停泊していた頃は、日本の様子もよく報じられていましたが、アメリカが世界最大のコロナウイルス感染国となった今、国内の感染状況と政府の対策がニュースの大半を占め、それ以外は欧州の話がほとんどです。日本の様子が大手メディアで取り上げられることは、ほとんどなくなりました。最近報道されていたのは五輪の延期の話ぐらいです。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

在米邦人の多くが、日本はまだ危機感が少ないのではないかと心配しています。欧米諸国が日本よりも数週間先に感染拡大している状況を見て、行政は一刻も早くしっかりとした対策を講じ、感染拡大を食い止めてほしいと願っています。ちょうど春は日系企業の人事異動の季節で、帰国の辞令が出た日系企業の駐在員が多く帰国しましたが、日本に入国した際の検疫の緩さや、街の人口密度の高さなど、欧米の状況と比べ驚く点が多いと聞きます。

――新型コロナと格闘するニューヨークでの生活を通じて気づいたアドバイスがあれば教えてください。

外出ができないと生活は不便になりますし、普段平日の昼間に顔を合わせていない家族が自宅に集合するため、普段と違う環境でストレスがたまる人も多いと思います。必要以上にネガティブな気持ちにならないように、家で出来る自分の好きなことを見つけることは、とても大事です。

日本で散見される出社至上主義の企業は、ロックダウンが発令された場合に、社員の働き方を大きく変える必要が出てきます。日本が他先進国と比べて遅れているとされる、在宅勤務などの働き方の、多様化の質を上げるいい機会になるのではないかと思います。企業による在宅勤務のインフラ構築、文化の醸成は今後日本で起こりえる災害などへの対策としても十分役に立つはずです。