3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
ソーシャルディスタンシングと手洗いの様子

脆弱な医療環境による新型コロナウイルスの感染拡大と影響が心配されているアフリカ。西アフリカのガーナでは、3月30日から首都アクラなどで3週間のロックダウンを実施。
ロックダウンが解除された現在も、政府による慎重な対応が続いている。

ガーナの首都アクラはどのような状況なのか。現地企業Tachibana International Ghana Company Limitedの新規事業開発責任者を務める石本満生さんに、様子を聞いた。

取材/加藤亨延


エボラ予防対策の経験が新型コロナにも


3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
ロックダウン中のアクラモール

――ガーナでの新型コロナでの広がり方について教えてください

感染の始まりは、海外からガーナに入国した外国人とガーナ人が、新型コロナウイルスを持ち込み、その接触者が地方に移動することで、各地へ広まっていったといわれています。ガーナ国内で初めての感染者(2人)を記録したのが3月12日。そして3月22日には感染者は24人となり、同日にガーナのすべての国境・空港が封鎖されました。


――感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

ガーナの首都アクラと主要都市クマシでのロックダウンが実施されたのが3月30日です。その時点で感染者は152人。その後、ジリジリと感染者数は増えていき、4月6日には287人、4月13日には566人になりました。

政府は、ロックダウンが行われている期間中に、大規模な接触者追跡調査を行いました。その結果、4月18日には834人、4月24日には1550人、4月30日には2074人の感染者を記録しました。ガーナ保健省に新型コロナウイルス情報のサイトよると、現在(5月2日)では、ガーナ全体で累計2169人になっています。
また4月25日からは外出時のマスク着用が義務化されました。

――ガーナでは、どのようなことが感染拡大の要因となりますか?

握手やハグ、教会やモスクでの集会・冠婚葬祭、マーケット、乗合バスなどに、密になりやすい環境があるかと思います。
3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
スーパーマーケットの入口に置かれた手洗いと消毒用具(左)と店内にマークされたソーシャルディスタンシングの目安(右)

――新型コロナの脅威が認識され始めてから、市民の意識は変わりましたか?

ガーナでは挨拶に握手やハグをする文化がありますが、新型コロナ感染について報告されると、いち早くそのような接触を回避する指示と動きが取られました。2014年に発生したエボラ出血熱の予防対策の経験もあり、市民レベルへの浸透も早かったように思います。

――手洗いや消毒、マスクについてはどうでしょうか?

手洗いや消毒についても政府から指示が出され、スーパーマーケット・銀行など、稼働している場所では手洗い・消毒が徹底されました。4月25日からは公共の場でのマスクの着用が義務付けられており、マスクの着用をしていないと店舗に入れないなど、感染を拡大させない措置が取られています。


――多くの国でマスクや消毒液が品薄になりました。

3月中はマスクや消毒液が手に入らなかった、または値段が上がってしまったために、購入できなかった人たちも多かったと思います。3月末頃からは安定的に購入できるようになりました。また、食料品やトイレットペーパーなどについては、特に買い占めも起こらず、いつでも必要な分が購入できる状況です。

バス移動は席を一つ飛ばしにして「密」を回避


3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
乗合バスはソーシャルディスタンシングのため1席空けて座る

――三密(「密閉」「密集」「密接」)についてはどうですか?

ロックダウンによる移動規制や、人が集まる行事の禁止が徹底されるまでは、ローカルマーケットや乗合バスなどでは比較的、密な状況が生まれやすかったかと思われます。都心部ではマスクの着用と消毒が徹底されているように思えますが、ローカルマーケットなどではまだマスクを着用してない人も見受けられました。

現在、ロックダウンは解除されていますが、今でも教会やモスクでの集会は禁止されており、また大人数での集まりも禁止、移動のバスは一つの席を飛ばして極力密な状況を作り出さないように規制されています。


――感染が爆発するかもしれないという恐怖みたいなものは、現地の生活を通じて感じられますか?

個人的には、感染爆発に対して恐怖を感じる機会はまだ少ないです。今後、感染者数が増えていくこともあるかもしれませんが、個人としては感染リスクを下げるように在宅での勤務を優先しながら、外出時のマスク着用、消毒、ソーシャルディスタンシングに注意し、過度にストレスをかけず免疫を高めるしかないと、自分にできることに集中しています。

――医療体制が脆弱なアフリカでは、新型コロナに対応できる医療機関のキャパシティが心配されています。

ガーナの実際の医療状況については、私は把握できていません。ただし、ガーナ政府の発表を要約すると、現在(5月2日)までに11万3497件の検査を行い、感染者が2074人。そのうち212人が回復し、残念ながら17人が亡くなったそうです。
6人が現在重症で、1839人が病院または自宅で治療中ということです。医療機関に対し過度なプレッシャーがかからない状態でコントロールできているとのことです。

――各国では新型コロナに対応するため、医療施設の建設などを新たに進めたところもあります。

政府は、新型コロナウイルス感染症の検査をできる機関を、全国7カ所に増設する動きがあります。年内には各地に88の地域病院を建設する方針も示しています。

――日本についての報道はありますか?

ガーナでは欧米系、または中国に関するニュースは多いように感じますが、日本についての報道は少ないように思います。
個人的には、日本の状況をウェブニュースなどを通じて読んでいます。海外にいる日本人の友人たちと話していても、日本の方が、危機感が薄くてこれからが心配だね、という話になります。

「直接会って話す」ことをオンライン代替させる難しさ


3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
ロックダウン中のスーパーマーケット

――新型コロナが深刻化してから、どのような生活を送っていますか?

週に2度ほど、野菜や肉などの食料品の買い付けに行く以外は、極力外出を控えています。また、食事のデリバリーサービスを週2回使う以外は、自分で料理を作るようになり、栄養バランスに気を使うようになりました。

――家での生活が増えることによって、生活リズムは変わりましたか?

外出による移動時間が削減できるようになったことで、早朝のジョギングや筋トレ、料理の時間、勉強の時間が取れるようになるなど、生活のリズム自体は良くなったと思います。

――仕事についてはどうですか?

忙しかった日本側も、在宅で勤務する人が増えました。Zoom会議などに慣れてきたおかげで、以前よりも連絡が取りやすくなり、日本や欧米とのやりとりは便利になったように思います。仕事以外でも、家族や友人たちと、週2回ほどオンライン飲み会をしています。一方で、まだまだガーナ現地では、「会って話そう」という傾向もあり、案件によっては「コロナが終息したら会って話をしよう」と止まってしまった話もいくつかあります。

――ガーナでの仕事はすべてオンラインでこなせますか?

カカオ豆の生産者や集荷業者とのミーティングは、現地に行って顔を合わせて話す事を大切にしていたため、現在では電話とメッセージでのやり取りが中心になっており、少し不便を感じています。

ロックダウンが解除された現在でも、農家さんたちに集まってもらってのミーティングが難しいため、主要メンバーを通じて連絡を共有してもらうようにしてもらっています。農家さんによっては、感染者が多い首都アクラから来た外国人と会うのが怖いという方もおり、農家さんたちにあまり不安を抱かせないように、現地パートナーに代行をお願いしたりもしています。

今後は、代わりに現場で動いてくれる人への情報共有や、進捗管理が大切になってくると考えています。

ロックダウンの影響を大きく受ける屋台や小規模商店


3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
ロックダウンが明けて初日のローカルマーケット

――新型コロナの感染拡大によって、地域や人々によっては貧困に拍車がかかるといわれています。

ガーナでも、世界の他の国々と同じように、企業が活動できないことによる人員の削減、事業閉鎖は起こりうると思われます。

ガーナには路上で物を販売したり、屋台で食事を販売したり、キオスクで日用雑貨を販売したりする人たちも多く、日銭を稼いで暮らしている層が多いといわれています。ロックダウン中は、人々の生活に必要な限られた職業(電気・通信・水などのインフラや、銀行・飲食・スーパーマーケットなど)のみ活動が許可されていたため、日銭を稼いで生活していた人々にとっては、とても大変な時期だったと思います。

――他国同様に人々の生活は苦しくなりそうですね。

国際労働機関(ILO)が発表している統計では、2019年のガーナの失業率は4.3% となっていました。

ガーナ政府統計局(Ghana Statistical Service)では、しっかりと会計管理されていない事業者・事業領域を「インフォーマルセクター」として定義しています。小売業・サービス業・カジュアルワーカーなどの、このインフォーマルセクターで働く人たちが、ガーナ人口の80〜90%を占めています。一般的にインフォーマルセクターで働く人たちは、貯金・資産が少ないといわれているため、新型コロナの影響により不況に陥った場合には、生活を維持していくことが困難になるのではないかと見られています。

――治安の悪化はありましたか?

軽犯罪は起こっているようですが、それが新型コロナ由来によるものかどうかは判断できません。

政府による水道代や電気代の3カ月無償化も


3週間のロックダウンが解除された西アフリカ・ガーナ 政府による水道代や電気代の3カ月無償化も
現地スーパーマーケットの様子

――新型コロナに対する国から国民や企業への経済的なサポートとして、どのような手当てがあるのでしょうか?

40万人以上の、生活が苦しい人たちへの温かい食事とドライフード・パッケージの提供や、医療従事者への手当てがあります。

水道代は3カ月間無償化され、電気については、「Lifeline」カテゴリー(毎月の使用量が0〜50キロワット)の利用者は政府により3カ月間無償化、それ以上の利用者は3カ月間、料金の50%を政府が負担しています。

経済面では、銀行の借入金利を2%減少させ、航空業界・サービス業界に対して、銀行借入の元本返済を6カ月猶予しました。商業銀行を通じて中小企業向けに6億セディ(約111億円)の融資枠を準備(1年間の支払猶予、その後2年間で返済)、加えて商業銀行を通じた産業支援・景気刺激策として30億(約557億円)の融資枠も用意されました。

――現在、もっとも不安なことは何でしょうか。

特にガーナについて不安なことはないですが、今のように世界的に行動や経済活動が制限されたなかで、今後の仕事の仕方、新しい事業領域の開拓などについては、よく考えなければいけないなと思っています。

――他国から支援できることがあるならば、どんなことが必要、または有効だと思いますか?

今、世界のどの国も自国の対応で大変な時期ですし、ガーナも現在、政府レベルでは金融支援・医療器具の支援など、他国との協調を図っているところかと思います。

個人的には、世界が保護主義的な政策に傾いていって、世界が分断されるのではないかと懸念しています。自国で新型コロナの抑え込みが成功したからといって、終わりになる病気ではないと思いますので、他の国の人々とも協力していく心を持っていきたいと思います。