『エール』第14週「弟子がやって来た!」 67回〈9月15日(火) 放送 作・嶋田うれ葉 演出:松園武大〉

『エール』福田雄一作品を多数手がける瀬川英史による劇伴の妙 梅・久志・五郎の三角関係も気になる67話
イラスト/おうか

裕一の天才性がいよいよ

2カ月半の休止を経て再開した『エール』後半戦。何かが違う、と思ったら、劇伴(ドラマや映画のなかで流れる音楽)である。『エール』67回のアヴァン(オープニングの前の場面)でかかった劇伴にお気づきであろうか。
主人公・裕一(窪田正孝)が書斎で白紙の楽譜に向かって考え込んでいる。ふと顔をあげ、瞳に力を入れると、おもむろに鉛筆をつまみ楽譜に音符を書き入れていく。

この書き出しと同時に音楽が入る。クラシック調で、管楽器と打楽器が軽やかに混じり合い、魔法の世界に誘うような雰囲気のこの曲が、楽譜を前にして「メロディが降ってくる」裕一の天才性を感じさせる一助になる。

これまでは、裕一が曲をつくる場面が少ないうえ、楽器を弾かずとも曲が浮かんできてしまう(こういう作曲家もいる。裕一のモデルの古関裕而もそうだった)ものだから、実在の偉大な作曲家をモデルにした人物と言われても、その才能にどうもピンとこないところがあった。それが今回の曲使いによって、裕一がいよいよ実力ある作曲家になってきたことを印象づけた。

この変化は、裕一に弟子ができたことも要因であろう。「『恐縮です』がかわいくて」と『おはよう日本』の桑子真帆アナがポーズを真似していた田ノ上五郎(岡部大)。前述した場面は、裕一に猛プッシュして弟子入をはたした彼が、さっそく師匠の仕事を見学している場面であり、五郎が熱心に裕一を見つめている。彼にとって古山裕一は“偉大な作曲家”でしかない。裕一を尊敬してやまない弟子の視点が入ることで、いよいよ“作曲家・古山裕一”が出来上がりつつある。
今後につながる重要な一場面だった。

音楽は『今日から俺は!!』もつくった瀬川英史

『エール』の劇伴を担当しているのは、瀬川英史。『今日から俺は!!』や『親バカ青春白書』ほか、福田雄一作品を多数手がけている。NHKの公式ホームページのインタビューでは「朝ドラはセリフが多いので、それを邪魔をしないようにしつつ、できるだけ説明的にならずに脚本と演技の流れをサポートするための音楽にしたいなと思いました」と語っている。そう言われればそうで、休止前の『エール』では、かかっている劇伴が芝居をけっして邪魔しない。

67回の、裕一と五郎の場面は、曲のかかり始めと曲調から、裕一の天才性を際立たせていると感じるが、裕一が筆を止め、「頭じゃなく心で感じること」と五郎の胸に手を当て「そうそうそう!そう!」と言うとき、音楽はもう鳴ってない。それまで鼓動のように鳴っていた曲が止まって、五郎の心に耳や想像力がいくように任せている。そこではもう俳優の芝居が中心になる。「そうそう!」「ああああ」。裕一と五郎の感情の掛け合いが音楽の代わりになって心を弾ませる。

久志の場面はいつも派手

五郎は裕一の弟子としてだけでなく、華の召使い(遊び相手)として役立ち、さらには、新人作家として苦悩する梅(森七菜)に影響を与える存在になっていく。梅が五郎とうまくいっていないことを心配した裕一と音(二階堂ふみ)は、程よい距離感をつくる機会を持とうと、五郎の歓迎会を催すことにする。

場所は、みんなのたまり場・鉄男(中村蒼)のおでん屋。遅刻してきた久志(山崎育三郎)が梅に興味をもち、ぐいぐい迫る。
このときは、久志の過剰なパフォーマンス(ウインク連発)に合わせた情熱的な劇伴がかかっていた。ミュージカル俳優の山崎育三郎の演技は派手な曲に拮抗できるし、むしろ、そのほうが映える。

『エール』福田雄一作品を多数手がける瀬川英史による劇伴の妙 梅・久志・五郎の三角関係も気になる67話
写真提供/NHK

梅と久志と五郎はどうなる

裕一の天才性、未だ何者にもなれていない久志の表層的な軽さを描きつつ、今週のメインは梅。彼女は作家としてようやくスタートラインに立ったばかり。

文藝ノ友新人賞の授賞式には、かつて梅が文学の魅力を教えたと自負する同級生・結ちゃんこと幸文子(森田想)が先に作家になって文壇に君臨している。文子の虐め、梅は容姿の良さで選ばれたという裏側等、業界のいやな面を見てしまう梅。

1カ月後に締切が迫った受賞後第2作も進まないし、苛立つ梅に、久志の魔の手が……。『あさイチ』でも話題になっていた梅と久志と五郎の三角関係。どう考えても五郎のほうがいいだろう。だが、梅の恋よりも、『アリとキリギリス』のキリギリスみたいに延々ちゃらちゃらし続ける久志が気がかり。働いていないように見えるが、梅のプレゼントを買うお金は実家から送金してもらっているのだろうか。彼がいつ実のある人物になるか見守っていきたい。

今日の二階堂ふみ

華を抱っこしている姿。もうだいぶ成長して大きくなっている娘を抱っこするには身に余りそうなところを、それでも全身で抱きかかえているところに、母のたくましさと、母子ならではの親密さを感じせた。

(木俣冬)

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主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

古山華…田中乃愛 古山家長女。
関内梅…森七菜 音の妹。文学賞を受賞して作家になる。

田ノ上五郎…岡部大(ハナコ) 裕一の弟子

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。
コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。

佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。
モデルは野村俊夫。

藤丸…井上希美 下駄屋の娘だが、藤丸という芸名で「船頭可愛や」を歌う。

御手洗清太郎…古川雄大 ドイツ留学経験のある、音の歌の先生。 「先生」と呼ばれることを嫌い「ミュージックティチャー」と呼べと言う。それは過去、学校の先生からトランスジェンダーに対する偏見を受けたからだった。

『エール』福田雄一作品を多数手がける瀬川英史による劇伴の妙 梅・久志・五郎の三角関係も気になる67話
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司 ※7週より原案クレジットに
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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