ASKA、コロナ禍でも生活は変わらず「世の中が混沌としているからこそ、あったかい歌を作りたい」

今年の春にリリースされた10作目のオリジナルアルバム『Breath of Bless』のときは、月に1曲ずつ半年にわたって配信で新曲を発表。ごく自然に今の時代感にあった音楽活動を実践してみせたASKAが、アルバムのリリースからわずか5ヵ月ちょっと、今度は週に1曲ずつ配信で新曲を発表している。


9月11日からスタートした3週連続の配信シングル・リリースであるが、10月11日には新曲3曲のMV撮影の様子も生配信予定。さらに10月21日には15名のストリングス+ASKAバンドというボーダーレスなサウンドをバックに、自身のキャリアを表現するような選曲で歌ったコンサートを収めた映像作品『ASKA premium ensemble concert -higher ground-2019>>2020』をリリース。旺盛な創作意欲の結果とも言えるこのすべては、どうやら「楽曲ができたのだからすぐに聴いて欲しい」「面白いと思ったことはなんでもやってみたい」という素直な動機から始まったことのようだ──。
取材・文/前原雅子

コロナ禍でも生活は変わらず


──春以降は外に出る機会も減って、生活はかなり変化しましたか。

僕はいろいろ仕事があって、ずっと忙しくしていました。だからわりと外に出ざるをえないことが多かったかもしれない。外に出るのは不謹慎だという空気のなか(笑)。


──ということは、これまでとあまり変わりはない?

変わってないですね。それ以外はずっと楽曲の制作をしていました。

──その成果が9月11日からの、3週にわたる新曲配信につながるわけですね。

そういうことになりますね。今、7曲目を作っているところです。

──今回の3曲はいつ頃作られたものですか。


6月末から1カ月で3曲作りました。

──作ったときのことは覚えています?

覚えていますよ。軽快な楽曲を作りたいと思ったのが『幸せの黄色い風船』で、みんなでライブ感を分かち合える楽曲ということで『自分じゃないか』、日常のなかですごくあったか~い気持ちになれるような楽曲をと思ったのが『僕のwonderful world』でしたね。

──そういうイメージから、まずメロディーを作って。

そうですね、ピアノを弾きながら。

──ライブで手にする楽器はほとんどギターなのに、曲を作るときはピアノなんですね。


ピアノのほうが作りやすいんですよ。というかギターでは曲が作れなくなったんですね。ギターって6本の弦によるコード感になるんで、コードを体感しにくくなって。その点、ピアノはガンと弾いた時点でバンと音が広がるから作りやすく感じられて、作曲=ピアノになったんですけど。最近はピアノの響きとギターの響きが脳で直結するようになったのかな、ギターでも作るようになりましたね。でもこの3曲はピアノで作りました。


──ASKAさんにとって昔から馴染みのある楽器ということだとギターですよね?

そうそう。しかしギターだと「ああ……、もう曲が出てこない」って自分の限界を感じて。そうなると極論、音楽をやめなきゃいけなくなるじゃないですか(笑)。それで一度、ピアノにトライしてみようと思って、弾けもしないのにピアノを買って。それからですよ。

僕のとこにも、曲降りてきてくれよと思っている(笑)


──今回の曲作りはスムーズでしたか。

ピアノで曲を作るようになってから、曲で煮詰まることはほとんどないので。
歌詞はそうはいかなかったんですけど、なんか最近、詞を書くのも早くなったんですよ。

──アルバムの取材時にもそう仰ってましたが、何か思い至る理由はありますか。

以前はワンワードに目を向けすぎて、チョイスするまでにすごく時間がかかっていたんです。選んだ言葉は、ここから見えてくる世界に影響するから慎重に選ばないとなって。でも今は言葉をチョイスする決断が早くなりましたね。その言葉をきっかけに自ずと先は見えてくるって思うようになったので。
昔は、とにかく1行目までの距離が長かったですね。

──歌詞の出だしということですか。

一刀彫りみたいに1行目から作っていたので。でも、なんで1行目にこだわるんだ? Bメロからでもサビからでも、出てきたとこから作ればいいと思うようになってから、ずいぶん変わりましたね。

──その変化は大きかったのでしょうね。

楽曲作りはこういうものだっていうのが、自分のなかで構築されているかどうかだと思うんですよ。構築されてなかったときは、どこから作るかは大きな問題で。でも今はどこから作っても最終的なところを目指せばいいと思っているので。ここまで来るのに40年近くかかりましたけど(笑)。自分なりの新しい書き方がわかったので、書くのが早くなったんでしょうね。それは突き詰めて言うと、明確なテーマを見つけやすくなったことでもあると思うんですね。

──以前はそうではなかった?

昔はね、テーマがまだおぼろげにしか見えない段階で書き始めていたんで。書いてくうちにテーマがくっきり見えてくると、そのテーマに向けてもう一回最初から書き直す作業をしていたんですけど。それもテーマはいつでもどこでもそこにあるんじゃないか、って思うようになってから楽になりましたよね。

──ということは今回の3曲は歌詞も曲もスンナリと。

そうですね。とはいえ楽曲を作るっていうのは、リスナーありきですから。その意味で、僕は詞も曲もシナリオだと思っているので、そこはすごく大切にしていますね。

──よく「この曲、降りてきたんです」みたいな話を聞きますが。そういうことは?

ないないない。よく降りてきてくれるな、いいな、僕のとこにも降りてきてくれよと思っている(笑)。

──それに近いこともないですか。

1回だけあるかな。誰かが新曲を歌っていて「この曲、スッゲーいいなー!」と思って起きたら夢だった…ってことはあります。そのときは起きた瞬間、も~速攻で録音して。

──それ、どの曲ですか。

『クルミを割れた日』っていう曲。あれはメロディーも詞も夢の中に出てきた楽曲ですね。

──それを夢の中で歌っていたのは。

まぁいいじゃないですか(笑)。「こいつ、またいい曲、書きやがったな」と思った。でもそういうことは、そんなもんですよ。ただ僕も何かをキャッチするアンテナは、高く伸ばしているのかもしれない。そのアンテナで知らないうちにキャッチしているのかも。振り返ると「よくあのコードにしたよな」「こんなの、よく書いたな」っていうことはあるから。それを僕は降りてきたって表現してないだけなのかもしれません。

今しか作れないものを記録しておこう


──先ほど1カ月で3曲作ったと仰っていましたが、するとこの3曲のテーマは共通するものがあったりしますか。

今回の歌詞に関しては、今しか作れないものを記録しておこうってとこから始まっていて。だからテーマはみんな一緒、“今”なんです。

──“今しか作れない歌”ということでは、おそらく今までもそのような気持ちで作られてきたわけですよね。

たしかにそういう場面はたびたびありました。だけど今って“僕だけの場面”じゃなくて“人類共通の場面”だから。たぶん僕らは今、人類の変わり目のど真ん中にいるわけでしょ。まさかこんな出来事に出くわすと思わなかったでしょ。

──まさか生きている間に、こんなにすごいパンデミックに遭遇するとは思いませんでした。

そう思うと、すごい時代を生きていますよね、僕ら。だからなんでしょうね、楽曲を作るときにいつものような気持ちで書いたら、なんかもうすごい昔の出来事のような気がしてきて。逆に今ここにいるっていうことを痛感したんですね。それで己を知って、世の中を知って、今しか記録できない、今しか歌えない歌をと思って。

──そこに至るまでは紆余曲折が。

ありました。最初は何を書いても嘘くさく感じて、何を歌えばいいんだろうと思ってね。だけどやっぱり歌の基本には、夢とか愛とか希望とか勇気とかが絶対に必要で。でもただ単に元気でいようとか、幸せでいようとか、そんな言葉を使っても今のこの状況では空元気でしかないから。そうならないためには“今ここにいる”ってことをちゃんと知っとく必要があるんですよね。そのうえで自分が本気で思ったことをしっかりした言葉で伝えて、夢や愛や希望や勇気に辿り着きたいと思った。

世の中が混沌としているからこそ、あったかい歌を作りたい


──『幸せの黄色い風船』は夢や希望を感じる曲ですね。

“幸せの黄色い”ってなるともう“ハンカチ”になってしまうんだけど(笑)。<幸せの黄色い〜>っていう言葉がメロディーにすごくはまったので。ハンカチじゃないものと思ったとき、世界中が同じ時間に願いをこめて風船を飛ばしたら……っていうのが出てきて。そこからは衒いなく書き進められましたね。

風船を飛ばした人も飛ばしてない人も、青い空の黄色い風船に反応するんですもん、幸せですよね。だから“ミュージカル”“パレード”っていう言葉を使ってみたんです。なんかシャンゼリゼ通りでこういうことが行われたとしても、絵になるんじゃないかなって(笑)。

──という明るくハッピーな『幸せの黄色い風船』の次はロックテイストの『自分じゃないか』。

これ、最初は“明日の話はいくらでもする”のあとに“だけど過去の話はしない”っていうような1行を入れたかったんですね。誰にでも知られたくない過去があるから。ただそれを書くことで歌詞はソリッドになるけど、どうしても言葉が不自然に感じて。今使う言葉じゃないなと思って、あえて“昔の話もする”にしました。

──この曲は“七つの星”という言葉が出てきたり、ちょっと広がりのある歌詞の曲ですね。

“七つの星”っていうのは“水金地火木土天海”(太陽系の八惑星)から地球を外したもののことで。地球上で生きている僕らは必ず何かの星の影響を受けているっていうことを言いたかったんですけど、結果、スペースチックな大きな歌になりましたね。12星座となると、柔らかくなる気がしました。あと、何かが変わるときに“突然”って言うけど。たしかに突然のこともありますが、大半は何かが起こることを誰もが心のどこかで予測していて、とうとう来てしまったみたいなものなんじゃないかなって思うんですね。そういうこともテーマだった曲ですね。

──そして『僕のwonderful world』はジンワリした温かさのある曲で。

これは他愛もない日常の1シーンというか。髪を切るタイミングって、前の日までセットできたのに、なんで今日はうまくいかないんだろう! っていう時でしょう?

──そうなんです! おかしいな、寝癖か、みたいな。

ねっ。たった1日の違いなのに。それをブログに書いたら「わかる、わかる」というコメントが多かったですね。それを今のパンデミックになぞらえて、たわいもない1日の出来事にしました。

──それは気づかなかったです。

ある日どこかを、何かを、超えてしまっているんですよね。そんなことを踏まえて、でも世の中が混沌としているからこそ、あったかい歌を作りたいなと思って。それこそサッチモ(ルイ・アームストロング)の『What a Wonderful World』ですよ。彼は黒人ということで、いろいろ背負わされて生きてきて。そういうサッチモが<What a Wonderful World~>って歌うことで、あの曲の素晴らしさが数段増していると思うんです。

あの環境で生きてきた人が、すべてが自然で、すべてが素晴らしいって歌うんだから。僕なんか及びもつかないけど、今のこの時代のなかで、自分の日常のなかで「日々の素晴らしさと幸せに気づいている」っていうことを歌えればいいなと。だから他愛もない日常を歌いたいと思ったんです。

今の状況は元に戻る、大丈夫


──その他愛もない日常を冒してきたのが新型コロナウィルス。

そうですね。少しずつ変化してきたことが、ある日を境に表沙汰になるっていう。

──まだまだ長引きそうな新型コロナウィルスですが。いろいろ思うところはありますか。

うん……思うところはありますよね。僕がこの時代にここにいたことは偶然じゃないと思っているので、やれることをしっかりやろうと思っているんですけどね。ま、大丈夫ですよ、うん、元に戻る、大丈夫。

──時間はかかるかもしれないけれど。

そうですね。でもこの状況ってみんなに降りかかっていることだから。自分だけが特別に経験することじゃなくて全世界がそうだから。そのなかから新しく別天地が出てくるんだと思います。

──全世界が一緒っていうことがすごいですよね。そんなこと今までなかったですから。

そこでダメになってしまう人と、これはきっと必要なことなんだって精神的なものをふくよかに感じる人、その違いは大きいですよね。そういうなかで本当に大切なことは、人が持ってる、持ってなきゃいけない“愛”なんだと思う。愛がすべてじゃないか? と、以前から思ってはいたことですが、さらに強い思いになりましたね。本気で、それに気づけるって幸せなことですよ。

リリース情報


Blu-ray+LIVE CD
『ASKA premium ensemble concert -higher ground-2019>>2020』
発売日:2020年10月21日
価格:10,000円(税抜)
発売元:DADA label
【ASKA Official Web Site「Fellows」】https://www.fellows.tokyo
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