『おちょやん』第10週「役者辞めたらあかん!」

第50回〈2月12日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:中泉慧〉

朝ドラ『おちょやん』演劇は舞台の上の俳優と客席の相互関係で作られるという縮図を鮮やかに描いた50回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千秋楽は千代が大活躍

「演じるということは、役を愛した時間そのもの!」

【前話レビュー】演じるということは、役を愛した時間そのもの! 山村千鳥の言葉に千代覚醒

師匠・山村千鳥(若村麻由美)に教わった千代(杉咲花)は、おきんの役を深く掘り下げて、千秋楽に挑む。「うちは千代やない、おきんや」と役が憑依したようになる千代。

この日は岡安の面々も観に来ていた。
それを横目に「芝居茶屋の女将が芝居観るひまあるやてなあ」と菊(いしのようこ)は嫌味を言うが、シズ(篠原涼子)はどこ吹く風。舞台の上も客席にも嵐が吹いている。

千鳥も観に来る。鶴亀興行の社長(中村雁治郎)も。皆が固唾を呑んで見つめるなか、いつもの「手違い話」の愁嘆場がはじまる。

千之助(星田英利)演じる旦那が芸子と浮気をしているところにご寮人さんが乗り込んで来る。ここでいつも千之助が台本にないことをしはじめるのだが、万太郎(板尾創路)が来ていることに気づいた千之助はますます熱くなる。

最初に千之助の即興を受けて芝居を返したのは芸子役の石田香里(松本妃代)。場が沸いたところで、千代とルリ子(明日海りお)が入ってくる。

「もうやるしかあらへん」と千代がゲームメーカーのようになって、みんなに合図を送って、それに合わせてみんなが動いていく。

次に場を盛り上げたのは歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)

小山田「(好きなのは)男なんや」
千之助「なんやて!」

早い間合いが小気味いい。
歌舞伎にもチャリ場というおもしろい場面があるから、小山田はそういうのも得意なのであろう。「こ、こいつ……」と思いながら、千之助は小山田のボケにものすごく素早くつっこんでいく。

朝ドラ『おちょやん』演劇は舞台の上の俳優と客席の相互関係で作られるという縮図を鮮やかに描いた50回
写真提供/NHK

男性陣がおもしろ芝居をする一方で、女優陣は女の心情を吐露する芝居をしていく(これは一平が求めているものである)。ルリ子は自分の過去の体験を役に投影し(これは千代がよくやっていることである)、その迫真の演技は皆を引きつけるが、それだけだと浮きすぎているので、一平(成田凌)と千代がフォローして笑いにもっていく。

最終的に千代がいい感じに話をまとめていき、それを客席から宗助(名倉潤)が「よ、ご寮人!」と合いの手を入れ、盛り上げる。

このような即興芝居には、笑福亭鶴瓶の「スジナシ」がある。簡単な設定と最初だけ決めておいて、どこに到達するかわからない即興劇を繰り広げるものだ。俳優の瞬発力と、それまでどれだけ引き出しを作っているか、相手とのコミュニケーション能力などが試される。

俳優が各々役を深めたことから、どんな状況になっても、役として振る舞うことができるという個々の力も鍛えられたうえ、チームプレーも深まった。最後の仕上げは観客の反応に。演劇は、舞台の上の俳優たちと客席の相互関係で作られている、その縮図が鮮やかに描かれた。

ついに団結した鶴亀家庭劇

客席の反応から「お客さんを喜ばすのは笑いだけやあらへん」と感じる千代。本来、座長の一平が、舞台上で指示をおくってコントロールしていくべきところを、千代がやっていたのだが、千代は、一平のやりたいことーー笑いだけでない芝居をやろうと動かしていたので、演出家にとって信頼できる俳優であるということになる。


好きなことをやって目立っているようで、全員をちゃんと見て、彼らの良さも出しながら、演出家の狙いに沿って芝居のカラーをきちんと守る俳優には古田新太などがいる。舞台にはそういう人が一人いると安心なのだ。

そういう意味では、冒頭「うちは千代やない、おきんや」と役が憑依したような演出があったが、千代のようなタイプは憑依型ではなく、第三の目をちゃんと持った冷静なタイプである。劇中劇の場面で、「香里さん」「一平」と心で指示を出していたのは、おきんではなく千代である。この辺りを徹底して描いてくれると通にも喜ばれるのだが。

朝ドラ『おちょやん』演劇は舞台の上の俳優と客席の相互関係で作られるという縮図を鮮やかに描いた50回
写真提供/NHK

千秋楽の観客の投票には、千太郎だけでなく、千代やルリ子や小山田の名もあった。千之助は「痛み分け」と言って、座長の座を一平から奪うことを辞めた。「次もっと笑かせよ」と言うのは、彼なりのいちばんの褒め言葉だと言う天晴(渋谷天笑)

言葉ではっきり言わないのは、千之助だけではない。「会っても、何も言うことないから」と去っていった千鳥もそうで、何も文句(ダメ出し)を言うことがないという意味であろう。

舞台上で芝居を回していた千代の才能(たぶん、ハナもそこを見抜いている)を見抜いた万太郎は、社長に女中役の名前を聞く。「あとで熊田が教える」と答える社長は、おそらく千代の名前を忘れてしまっているに違いない。
いつも何か含みある表情や口調だけどなんも考えてない感じの社長。肖像画だけでもインパクトがあっておいしい役どころである。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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