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「患者の受け入れ」に向き合う『ナイト・ドクター』第10話
最終回かと思った『ナイト・ドクター』(フジテレビ系 月曜よる9時〜)第10話はこれまでで最もカタルシスのある回だったように感じる。【前話レビュー】『ナイト・ドクター』「ドナー問題」を題材に価値観の違い描いた試みに3つの疑問
夜間専門の緊急救命(ナイト・ドクター)に勤しむ朝倉(波瑠)、深澤(岸優太)桜庭(北村匠海)、高岡(岡崎紗絵)、成瀬(田中圭)が今回向き合うのは「患者の受け入れ」。ナイト・ドクターは「すべての患者を受け入れる」ことを理念にしているが、緊急治療の必要な患者を受け入れる時、症状によっては手遅れの場合がある。
ある晩、難しい患者の受け入れ依頼が来た。本郷(沢村一樹)は朝倉に断るよう命じる。心苦しいが断った朝倉。そこにまた患者が。今度もまた間に合うか間に合わないか瀬戸際だったが、本郷は受け入れる。すると搬送が15分も遅れた。
こういう時、1分1秒の差が命取りになる。必死の治療の甲斐なく患者は亡くなり、家族が駆けつけることも間に合わなかった。朝倉はすっかり気落ちしてしまう。
その朝、深澤は、高岡と桜庭に親子丼を作って3人で食べる。突然のネギと肉のアップ、それらをジューと炒めて、ごはんの上に黄身がとろ〜り。
じつに美味しそうな朝ごはんを食べている3人と比べ、朝倉はコンビニご飯をレンチン。この差が朝倉の絶望を物語っている。レンチンカットもCM風であった。
演出はフジテレビのヒットメーカー澤田鎌作。例えば『踊る大捜査線』では王道の本広(克行)演出とエッヂの効いた澤田演出かと人気を二分していた人物である。この回、画面がきれいで、往年のフジテレビのトレンディドラマという感じであった。
朝倉が休みの晩、台風が来た。その夜の朝倉の部屋がいつもの汚部屋に見えないきれいな撮り方で、雨が吹き付ける窓もとろみがある。朝倉が不安な気持ちで外を見ている頃、病院は停電になっていた。
この日に限って患者が多く運ばれてきた。
桜庭が男の子を治療しているとき、ふたりの間にあるライトがワンポイントになっている。桜庭に正義の味方“ナイトレンジャー”のシールを貼ってもらった男の子は「ださい」と言うがじつは喜んでいて、母が迎えに来るとナイトレンジャーになって母を守ると張り切るのである。「聞こえた」「でしょでしょ」と男の子の相手をしている桜庭が優しそうだった。
灯りのきれいさを感じる演出は、日頃電気を使った医療に頼る患者はさぞや不安であろうという本郷のセリフで効いてくる。なにかと電気の大切さを感じる回なのである。桜庭が相手していた男の子の名前は「光太」だった。
ナイト・ドクターは解散してしまうのか?
夜は長い。まだまだ患者がやってくる。満床になって手が足りない。暗闇に灯る明かり、時々雷、そこに主題歌、ちょっと音量大きめ。同じ主題歌なのに、今回、ものすごく盛り上がって聞こえる。この緩急、いつものまったりした感じと全然違う。ただ4話と5話も澤田演出だったので、最終回直前、フジテレビとして得意のパターンを使ってきたというところであろうか。
廊下にベッドを並べて電源車から電気を供給して野戦病院のようになってきた時、さらにまだ患者が。人工呼吸器がない。朝倉たちは電気が復旧するまで主導で人工呼吸器を動かすことにする。「受け入れます」と深澤の強い眼差しの正面アップはヒーローもののようで、そこから夜から朝に空が早回しで変化していく。
台風一過、出勤してきたセンター長・嘉島(梶原善)に患者が感謝を述べ拍手を贈る。良い気分になった彼は「昼間の医者をなめるなよ」と引き継ぐ意欲を見せる。昼間の医者とナイト・ドクターがついに互いを認め合う。みんな大好き、いやな人も良い人になって、みんなの心がひとつになる物語。
自宅に戻ってそれぞれの朝(就寝前)を過ごす5人。成瀬のカットがビールのCMみたいだった。
最初はばらばらだったナイト・ドクターたちもすっかり志を共にして、本郷の願いのように夜間でも頼れるナイト・ドクターを確立させていこうと思った矢先――
次回、最終回。ナイト・ドクターは解散してしまうのか? そして桜庭と朝倉を繋ぐ臓器提供の件はこのまま知らないままにして続編につなげるのか。
(木俣冬)
【関連レビュー】田中圭×小島聖×黒羽麻璃央『もしも命が描けたら』たった3人で大劇場の空間を見事に満たす意欲作
番組情報
フジテレビ 系『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜
出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか
脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作
制作著作:フジテレビ
番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami