「せめて、私だって何かできるはず」
そう思って始めた小さな挑戦は、誰にも言えない“秘密”だった。
「自分の料理に自信が持てないなら、勉強すればいい」
そう思った私は、近所の小さな料理教室に通い始めた。
もちろん遼には内緒で。驚かせたくてなんて言えば聞こえはいいけど、本音は違った。
追いつきたかった。
ただ、それだけだった。
遼の料理を見て「すごい」と言うしかない日々。
家でも外でも、私より先に名前が出る夫。
何かひとつでも、自分にできることがほしかった。
教室では、同年代の主婦や学生たちが和やかにおしゃべりしながら料理を学んでいた。
でも私は、誰とも話さず、レシピに集中するだけだった。
“私だけが遅れている”
そんな思いが、教室の片隅でも私を苦しめていた。