それでも私は、何も言えなかった。
そんな私に、現実は容赦なく“代償”を突きつけてきた。
それは突然だった。
夕食の準備をしていた遼が、ふいに包丁を置いて立ち上がったかと思うと、
そのままシンクに手をつき、ぐらりと膝をついた。
「ちょっと…ヤバい…かも」
そのまま、彼はゆっくりと崩れ落ちた。
私は慌てて駆け寄り、名前を呼んだけれど、返事はうわごとのようにかすれていた。
慌てて救急車を呼び、搬送先の病院で言われた言葉は、想像以上に重かった。
「過労とストレスによる急性低血糖症状。しばらく絶対安静です」
私は何も言えなかった。
いや、“何も言えない自分”を演じることしか、できなかった。
心の奥で、答えは分かっていた。
彼が壊れた理由の一端は、確実に私にある。