「アプリって怖くない?」
「まあでも、見るからに引っかかりそうだもんね」
そんなふうに言われるんだったらもう、喋らないほうが楽だった。
会社には行っている。
でも、“人”とは喋っていない。
同僚の会話が耳に入らなくなったのは、いつからだっただろう。
毎日まっすぐ帰って、夜の7時から朝の5時まで、パソコンとスマホの前。
私の時間は、
蓮くんの“痕跡”を拾うためだけに使われていた。
裏アカを作った。
なりすまし用のプロフィールを作った。
投資・仮想通貨・恋愛系詐欺の掲示板を毎日巡回した。
メモ帳アプリには、蓮くんの文体、語彙、絵文字、話し方の特徴――
あらゆるログをまとめた“彼の再構成ファイル”が作られていた。