“母は化け物だ”と書かれていた。
それを「気のせい」と切り捨てられたら、どんなに楽だっただろう。
でもその数日後私は、自宅にある“物理的な異常”に気づいてしまった。
その日、私は母が買い物に出かけたすきに、
2階の廊下を掃除していた。
何気なく、母の部屋のドアノブに手をかけたとき、気づいた。
このドアだけ、鍵が二重になっている。
ドアノブの横にある通常の鍵とは別に、
ドア上部にもう一つ、小さな差し込み型のロックがついていた。
「……なんで、この部屋だけ?」
弟の部屋も、私の部屋も、鍵なんてない。
料亭の帳場ですら、こんな鍵はついていない。