美優さんがいない、休憩明けのタイミングを見計らい、事務所のドアをノックする。
「あの…少し、お話が」
店長は面倒くさそうな顔で「何?」と椅子にふんぞり返った。
「美優さんのことなんですけど…廃棄の食材を、持ち帰っているのを見ました」
言った瞬間、胸がドクドクと高鳴った。
店長はしばらく黙って、それからため息をついた。
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私は目を見開いた。
「でも、あんまり大事にしたくないんだよね。君も、黙っててくれないか?雰囲気悪くなるし」
冗談だと思いたかった。
でも、店長の目は本気だった。
「じゃあ、誰がルールを守るんですか…誰が、私たちを守ってくれるんですか?」
声が震えた。怒りとも、悔しさともつかない感情が喉に詰まった。
けれど店長は、答えなかった。面倒くさそうにこちらを見つめる。
周りの人と同じ視線ーー。
私は静かに事務所を出た。
やっぱり、私が声を上げても意味なんてないのかもしれない。