“家の味”って、どこも少しずつ違うものだと思ってた。
だけど、それは「違い」を受け入れる余裕があればの話。
私が驚いたのは、“味”じゃなかった。そこに詰まっていたのは、義母の「完璧な家」への執着だったのです。

佐倉家の台所は、すでに完成された「ルールの塊」だった。

結婚して最初の週末、私は早起きして朝食を作ることにした。
「家族になったからには、役に立ちたい」そんな気持ちからだったけど、それが地雷だったなんて思いもしなかった。

義母はキッチンに入ってくるなり、まっすぐ鍋を覗いた。
「出汁、なに使ったの?」
その瞬間、私の背中に冷たいものが走った。

「昆布と鰹です、私の実家では」
そう言いかけたとき、義母の眉がぴくりと動いた。

思わず私は声を詰まらせた。

その一連の動作には悪意なんて感じられない。ただ「当たり前のことを訂正しただけ」という顔。
でも、その“当たり前”が、あまりに一方的で、私の常識を容赦なくねじ伏せてきた。